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どきどき産科

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「…っ。あのっ。あのね、!!!」

僕は、文官室を出て、アニスのいる城の中へ急いで。

そして、目を丸くするアニスと気にせず書類を整理しているスパークリングさんの前に来た。



「……どうしたの!?ソルト、なんか事件でもあったの??」


「…ごめんなさい、アニス!僕、言わなきゃいけないことをすっかり忘れていたの!僕、もう一人の僕に付き添ってミリーさんのところに行ったときに、妊娠の兆候かもしれないから病院に行った方がいいって言われてたの!」

ぬか喜びになるかもしれないし、ちがってたらまたがっかりするの怖いなとか。

文官室人減っちゃったしなとか。

色々考えているうちに忙しくなって。


本当に本当に大事なことだったのに、すっかり忘れちゃってたの。
ごめんなさい。





目の前でぐしぐし泣きながら説明するソルトを前に、ちょっと叱りたい気持ちもあったけど、それ以上に嬉しい気持ちが出て、気が付くとソルトを抱きしめていた。


「ソルト!ちょっと待ってろ!病院を予約するから!急いで最新の設備で調べてもらおう!」

「……勘違い、だったらごめんね?」


「それでもいい、調べよう!」


みれば、スパークリングは親指を立てている。

仕事は俺に任せとけ。心配するな、のサインだ。


ありがとう!できるやつだ!
スパークリングがキュウリ先輩と無事結婚できた暁には、結婚祝いを奮発しよう。




王室から予約を入れたので、病院の入口は別だった。

特別な通路から病院へ入り、尿の採取をした後、産科の個室へ通される。


服をめくってお腹にゼリーみたいなひゃっこいものをつけられ、機械があてられると、目の前の白黒の映像で、ちいさな丸が見えた。

丸というか、楕円形のような、豆のような、ちいさなちいさな、点のような。




「おめでとうございます。アニス殿下、ソルト妃。ご懐妊です。」




医師からそう言われて、目頭が熱くなった。


みれば、ソルトも泣いている。


結婚して、愛し合っていれば、いつのまにかすぐに子どもができるものだと簡単に思っていた。

同じソルトなのに、カモミール団長のところにはすぐできて。

周りの者たちも、すぐに子宝に恵まれたのに、自分たちにはなかなかできなくて。


会いたくて、会いたくて。

子どもができやすいように二人で勉強して、一緒に妊活をして。


やっと、やっと会えるのか。



私とソルトの、赤ちゃん。



「ですが、まだ妊娠初期です。定期的に必ず病院には通ってください。難しければ、妃殿下のところへまいります。」


「ありがとうございます。何か注意した方がいいことがあれば教えてください。」

アニスはメモを取り出した。


「走ったり、重い荷物は持たないでください。栄養と睡眠はしっかりとって。あとは、生魚を避けてください。カフェインもダメです。飲むならハーブティーか水にして。お酒も飲まないでください。」


「分かりました。ソルトだけに我慢はさせられない。私もお酒を断つから、二人で頑張ろう。」


アニスは、ソルトを抱きしめて、ソルトはぱあっと花が咲いたように喜んだ。







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