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燃え上がるような恋ではなく、静かに穏やかな愛情

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「先生、ありがとうございました!」

「はい、それではまたね。」


にこやかに海里は生徒を見送る。

商家の息子や娘たちは、海里から珠算や行儀見習いとしてこの国で言うところのフラワーアレンジメント、上流階級や立場が上の者とわたっていくためのマナーを習っていた。

貴族なら学園に通う年齢より、若干下になる。


まだまだ遊びたい盛りなはずなのに、感心な子どもたちだった。

将来は、立派な商人になるだろうし、商人にならなくてもどこかで執事や侍女として重宝されるような人材に育つだろう。


身重な海里を気遣って、荷物をもってくれたり、高所の掃除を手伝ってくれるいい子たちだ。



この辺りは、ナス課長が海里を気遣って、治安も安心だから、忙しい親が送迎をしなくても、子どもだけで行き来できる場所だった。


ここは、市井の人が使いやすいように、平民街にありながら町の表通りに面して建てられた、―――そう、ソルトが建てた病院のそばにあり。

病院のそばには、そこで働く妻が心配でしょうがない夫が無理やり作った巡回騎士の休憩所がある。





ナス課長はいい人だ。

確かに、40代のおじさんだし、小柄でちょっと丸々としてるかもしれない。

でも愛嬌のある顔をしているし、清潔感はあるし、おおらかで、思いやりがあって、優しい。

貴族としては海里の実家よりうんと爵位が下かもしれない。

側近としての教育も受けた海里の方が、強いだろう。


でも、彼が対応してくれた端々に彼のやさしさが垣間見えて、何より、彼の人柄に、海里は惹かれ始めていた。


爵位や、見た目ではない。


清聖のために生きようと、必死になっていた時のような燃え上がるようなものではないが、静かに、育んでいく。

そんな感情だ。




お腹にふれる。

あんなふうに育ってしまったけど、初めて会った時はかわいい弟分みたいだった黒闇。

最終的には憎いと思った。

でも、そんな男も、清聖の血を分けた弟であり、幼い頃を知っていればこそ、どこかでそこまで憎み切れない。

色んな人間を慰み者にして激情をぶつけても、孕まそうとしたのは自分だけだった。

満たされない想いがどこかにあり、それであんなふうに導かれたのだろうと、彼が処刑され、時が経ってみればそう思うようになった。


私は彼を愛してはいなかったが、あんなふうでも、彼は私を愛していたのかもしれない。

できるだけ幼い頃の黒闇を思い出して、大丈夫。自分はこの子を愛せる。そう、心の中で唱える。


私はこの子を愛して、立派に育てて、二人で生きていくと決めたじゃないか。



清聖と別れたばかりで、こんなことを想うのはよくない。


ふるふると頭を横に振って、帰り支度をしていると、教室の戸がノックされた。






「こんばんは。近くを通ったものだから。一緒に帰りませんか?」

ナス課長。


こんなやさしさが嬉しい。

ダメだ。


お腹の中に別の男の子がいる身で、こんな優しい人にそういう感情を抱くなんて。
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