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これは罰

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失って気づくもの。


トウホウでは、文化が違う。

己が戴く主君のために、家臣はすべてをなげうってでも尽くす風潮がある。


主君のために、家臣が犠牲になるのは当たり前。

そういう文化だ。


家臣はそのように躾けられるし、主君はそれが当たり前のような文化で育てられてるから、どこか麻痺してしまっているところもあった。


犠牲になったのは、他でもない海里だったのに。




海里の拒絶。



確かに、海里の言うとおりだ。


あいつに孕まされていることは、大いに考えられたのに。




『清聖さま。』

目を閉じると、幼い頃。自分を慕ってくれた柔らかい笑顔を思い出す。


もう、海里には一生会えないのだ。

もう、海里に自分の名前を呼んでもらえない。




「………うっ、う…。私が、間違ってた。海里。」

「清聖さま。」

部屋を出て泣き崩れた清聖を、浅伸は慰めた。


「浅伸さま。清聖様は立派な大人です。しかも、これから皇帝として、国を司るお方。甘やかしてはいけません。泣きたいのは、海里さんの方なんですよ?」


自分勝手に反省して自分勝手に泣く清聖を、ミリーは叱った。
どうもこの人は、悪い人ではないし施政はうまくやれるのだろうけれど、どこかお子様感がある。
人に配慮しようとして、どこかおかしい。

弟をあんな風にどうしょうもなくしてしまったあたり、おじも悪かったのだろうが、子育てに失敗しているのではないだろうか。


「海里さんを思うと胸が苦しいでしょう。海里さんを諦めきれないのではないですか?それが、本当の恋です。私への思いなど偽物だから、すぐ諦められたのですよ。そばにいすぎて、気づかなかったのですね。でも、海里さんの言う通り、それでもあなたたちは、もう同じ国にはいられないのです。海里さんへの思いを、国のために転嫁しなさい。海里さんを想うなら、立派な王になって。」


ミリーに叱られて、二人は国へ帰っていった。

湊家は、たとえどんな風になっていても、清聖が海里を癒して、連れて帰ることを期待していたが、顛末を聞いて諦めた。

犠牲になってしまった弟のために、涙が尽きない日はなかった。

覚悟はしていたが、やはりこうなってしまった。


せめて、異国の地が、弟の安住の地であるよう。
幸せになれるよう、祈った。







清聖たちが帰国して翌日。

それまでどこか塞ぎこんでいた海里は、いろいろと吹っ切れたようだ。

食べられる範囲で、栄養をとれるようになり、肉付きもよくなってきて。

まだお腹が大きくなる前にと、仕事の相談で文官室を訪れた。



小さくて小太り、茄子みたいにコロコロしているナス課長は、文官室を訪れた海里を応接間に通し、負担がかからないよう、自分の椅子からクッションを持ってきて、背中にあててあげた。

「ありがとうございます。」

「赤ちゃんがいるのですから、大事にしないといけないですからね。」

ナス課長の場合、長時間の座り仕事で腰痛になっているので、クッションを使っている。
妊婦さんも、体に負担がかかるから、クッションを使った方がいいのでは?と考えた。


「優しいのですね。あなたの細君は幸せでしょうね。」


「いやぁ、お恥ずかしい。子爵家の下級官吏で、僕は若いころから太ってましたからね。この年なのに独り身なんですよ。……まあ、そんな僕の話はさておき。海里さんは多才な方ですから、すぐにお弟子さんも集まると思いますよ。珠算なんて、商人が喜びそうだし。」


ニッコリほほ笑んで、親身に空いている貸教室を見繕って勧める課長に、穏やかな笑みを浮かべている海里さんを見て、ソルトたちは、『おや?この2人ってあうのでは?』と期待の目で見守っていたのであった。
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