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「あなたの家に送るつもりでしたが……。俺の家に来ませんか? 明日の診察の時間には診療所に送りますから。」
ドキドキする。
「………はい。」
ブラック様に求められて、なんて幸せなんだろう。
でも、いいんだろうか。
本当に幸せになっていいんだろうか。
ソルト様たちは、いいんだよ、って背中を押してくれる。
俺もいっぱい傷ついたんだからって。
この人と、一緒になる。
でも、絶対に俺は自分のしてきたことを忘れない。
自分が生きていく限り、精いっぱい、償っていく。
そんな俺と、それでもいいって言ってくれたから。
馬車がペッパー公爵の屋敷についた。
ソルト様たちが俺に気づいて、玄関まで迎えに来てくれた。
「「いらっしゃい、ミリーさん。やっと来てくれたね、ようこそ!」」
分裂したから同一人物。
全く同じセリフを同じタイミングでハモっている。
「夕餉までまだ時間があるから、寛いでて!」
お屋敷で働いている人たちも、俺に嫌な顔をせずに、声をかけたりお辞儀をしてくれた。
俺みたいなのが長男の相手だなんて、嫌だと思っている人もいると思っていた。
だって、そのせいでブラック様が後を継げないのだから。
いくら本人がいいって言っても、本人に何の瑕疵も不足もなければ、普通は長男が後を継ぐのに。
「ミリーさん。俺の部屋を案内するよ。」
ブラックに手を引かれて、立派な太い木でできた手すりの階段を昇る。
床は真っ赤な絨毯が敷かれていて、手すりには金で装飾が施されている。
階段を上がって、すぐの部屋がブラック様の部屋だった。
「俺がこの位置の方がいいんだ。何かあったらすぐ駆けつけられるからね。」
向いがホワイト様で、ホワイト様の隣がソルト様たち、ブラック様の隣が公爵夫妻の部屋らしい。
ブラック様の部屋は、騎士らしい飾り気のない部屋だった。
机の上の地球儀や、壁に設置された本棚の蔵書の数。
少年の頃は、好奇心旺盛で頭のいい子だったんだろう。
「子どもの頃は、冒険者になりたかったんだ。」
地球儀をくるくる回しながら、ブラック様は言った。
「世界中を旅してみたかった。元々、あまり爵位に関心はなかったんだ。だから気にしなくていい。」
騎士団の副団長にまでなったからには、無責任に放り出すことはしないけど、新婚旅行くらいはゆっくり旅をしてみたい。
「俺は…。どこかへ行きたいとか、考えたことはなかったです。」
それから、子どもの頃のアルバムを見せてくれた。
「このくらいのときは、お母さまが双子だからって同じ格好をさせて。髪を切らせてくれないのがすごく嫌だった。だって、背中までのばして、リボンで結ぶんだぞ。ホワイトは気にしないみたいだったけど、嫌だったんだ。お母さまは少女趣味で、自分の趣味を押し付けてすぐ飾り立てようとするんだ。だから、ソルトの気持ちも分からないではなかった。アレをやられると、反動でどうでもよくなる。まあ、ソルトはさすがに行きすぎだと思ったが。」
「リボンの色で分けてたんですね。ピンクがブラック様でしょう?」
「わかるか?」
「だって、ピンクの子の方が、明らかに不機嫌。」
2人で笑って、気づいたら夕餉の時間で。
こんなにリラックスしてたの、ってびっくりして。
緊張しながらダイニングに行くと、「いらっしゃい。」って、ブラック様のご両親も俺に微笑んでくださった。
ドキドキする。
「………はい。」
ブラック様に求められて、なんて幸せなんだろう。
でも、いいんだろうか。
本当に幸せになっていいんだろうか。
ソルト様たちは、いいんだよ、って背中を押してくれる。
俺もいっぱい傷ついたんだからって。
この人と、一緒になる。
でも、絶対に俺は自分のしてきたことを忘れない。
自分が生きていく限り、精いっぱい、償っていく。
そんな俺と、それでもいいって言ってくれたから。
馬車がペッパー公爵の屋敷についた。
ソルト様たちが俺に気づいて、玄関まで迎えに来てくれた。
「「いらっしゃい、ミリーさん。やっと来てくれたね、ようこそ!」」
分裂したから同一人物。
全く同じセリフを同じタイミングでハモっている。
「夕餉までまだ時間があるから、寛いでて!」
お屋敷で働いている人たちも、俺に嫌な顔をせずに、声をかけたりお辞儀をしてくれた。
俺みたいなのが長男の相手だなんて、嫌だと思っている人もいると思っていた。
だって、そのせいでブラック様が後を継げないのだから。
いくら本人がいいって言っても、本人に何の瑕疵も不足もなければ、普通は長男が後を継ぐのに。
「ミリーさん。俺の部屋を案内するよ。」
ブラックに手を引かれて、立派な太い木でできた手すりの階段を昇る。
床は真っ赤な絨毯が敷かれていて、手すりには金で装飾が施されている。
階段を上がって、すぐの部屋がブラック様の部屋だった。
「俺がこの位置の方がいいんだ。何かあったらすぐ駆けつけられるからね。」
向いがホワイト様で、ホワイト様の隣がソルト様たち、ブラック様の隣が公爵夫妻の部屋らしい。
ブラック様の部屋は、騎士らしい飾り気のない部屋だった。
机の上の地球儀や、壁に設置された本棚の蔵書の数。
少年の頃は、好奇心旺盛で頭のいい子だったんだろう。
「子どもの頃は、冒険者になりたかったんだ。」
地球儀をくるくる回しながら、ブラック様は言った。
「世界中を旅してみたかった。元々、あまり爵位に関心はなかったんだ。だから気にしなくていい。」
騎士団の副団長にまでなったからには、無責任に放り出すことはしないけど、新婚旅行くらいはゆっくり旅をしてみたい。
「俺は…。どこかへ行きたいとか、考えたことはなかったです。」
それから、子どもの頃のアルバムを見せてくれた。
「このくらいのときは、お母さまが双子だからって同じ格好をさせて。髪を切らせてくれないのがすごく嫌だった。だって、背中までのばして、リボンで結ぶんだぞ。ホワイトは気にしないみたいだったけど、嫌だったんだ。お母さまは少女趣味で、自分の趣味を押し付けてすぐ飾り立てようとするんだ。だから、ソルトの気持ちも分からないではなかった。アレをやられると、反動でどうでもよくなる。まあ、ソルトはさすがに行きすぎだと思ったが。」
「リボンの色で分けてたんですね。ピンクがブラック様でしょう?」
「わかるか?」
「だって、ピンクの子の方が、明らかに不機嫌。」
2人で笑って、気づいたら夕餉の時間で。
こんなにリラックスしてたの、ってびっくりして。
緊張しながらダイニングに行くと、「いらっしゃい。」って、ブラック様のご両親も俺に微笑んでくださった。
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