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病院に必要なもの
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「さぁさぁ、お茶をどうぞ。」
ミリーさんが淹れてくれたお茶。
念のために先にアニーさんが舐めて、GOサインが出てから口をつける。
「それで、僕に聞きたいことって?」
御者役の団長は、入り口近くの長椅子に座って僕たちを見守ってくれている。
「下水道も整備して、だいぶ感染症や疫病にみんなかからなくなりましたけど、風邪とか怪我とか。病院にかかれなくて悪化させて、亡くなったり、体の一部を失ってしまう人たちがいるじゃないですか。」
「…いますね。この診療所にもよく来ますよ。」
「国が病院を作って、貧しくても必要な時に安心して診てもらえるような場所を作りたいって思っているんです。」
「……ご立派ですね。まるで聖女か女神のようです。さぞや民に慕われることでしょう。ですが、国が病院を作れば、診療所はどうなります?私たちは廃業します。あなたは、困っている人たちを助けて気分がいいかもしれないですが、仕事を奪われて生活に困る者も出るんですよ?」
「あなた方の生活は困らないようにします。」
「どうやって?」
「新しく建てる病院には、ドクターや看護師、薬師が必要でしょう?そこで働きませんか?お給料は国から定額で毎月出します。患者がこようがこまいが、払います。ものすごく患者がいて、たいへんだったときは多めに払います。そういう仕組みを作ろうと思っています。」
ミリーは目を見開いて、わずかにカップを持つ手を震わせた。
目の前の、ぼさぼさした髪型の若い男。
自分の装いに無頓着だが、その顔はよく見れば、とても美しい。
見た目だけではない。
内面から滲み出る輝き。
「……私たちはいいでしょう。でも、教会は商売あがったりですね。下水道事業と言い、あなたの仕事は、未然に病を防ぐようだ。」
「防げるなら防げた方がいいじゃないですか。教会が癒しの魔法を使って寄付金を得られないというのなら、他の手段でお金を得ることを考えてほしいです。」
「……なるほど。」
「それで本題ですけど。先生、病院のドクターになりませんか?」
「考えさせてください。」
「…それではお邪魔しました。」
「悪いですね、お土産にキャンディーの瓶をいただいてしまって。」
「いいんですよ、そんなに残ってなかったですし。それでは。」
ミリーが一礼し、団長の操る馬車は王都の方へ向かっていった。
「防げるなら防げた方がいい、か…。」
いなくなった診療所でミリーは独り言ちた。
そしてそのころ、アニスはもらった瓶を自分の指紋がつかないようにして団長に渡した。
ミリーさんが淹れてくれたお茶。
念のために先にアニーさんが舐めて、GOサインが出てから口をつける。
「それで、僕に聞きたいことって?」
御者役の団長は、入り口近くの長椅子に座って僕たちを見守ってくれている。
「下水道も整備して、だいぶ感染症や疫病にみんなかからなくなりましたけど、風邪とか怪我とか。病院にかかれなくて悪化させて、亡くなったり、体の一部を失ってしまう人たちがいるじゃないですか。」
「…いますね。この診療所にもよく来ますよ。」
「国が病院を作って、貧しくても必要な時に安心して診てもらえるような場所を作りたいって思っているんです。」
「……ご立派ですね。まるで聖女か女神のようです。さぞや民に慕われることでしょう。ですが、国が病院を作れば、診療所はどうなります?私たちは廃業します。あなたは、困っている人たちを助けて気分がいいかもしれないですが、仕事を奪われて生活に困る者も出るんですよ?」
「あなた方の生活は困らないようにします。」
「どうやって?」
「新しく建てる病院には、ドクターや看護師、薬師が必要でしょう?そこで働きませんか?お給料は国から定額で毎月出します。患者がこようがこまいが、払います。ものすごく患者がいて、たいへんだったときは多めに払います。そういう仕組みを作ろうと思っています。」
ミリーは目を見開いて、わずかにカップを持つ手を震わせた。
目の前の、ぼさぼさした髪型の若い男。
自分の装いに無頓着だが、その顔はよく見れば、とても美しい。
見た目だけではない。
内面から滲み出る輝き。
「……私たちはいいでしょう。でも、教会は商売あがったりですね。下水道事業と言い、あなたの仕事は、未然に病を防ぐようだ。」
「防げるなら防げた方がいいじゃないですか。教会が癒しの魔法を使って寄付金を得られないというのなら、他の手段でお金を得ることを考えてほしいです。」
「……なるほど。」
「それで本題ですけど。先生、病院のドクターになりませんか?」
「考えさせてください。」
「…それではお邪魔しました。」
「悪いですね、お土産にキャンディーの瓶をいただいてしまって。」
「いいんですよ、そんなに残ってなかったですし。それでは。」
ミリーが一礼し、団長の操る馬車は王都の方へ向かっていった。
「防げるなら防げた方がいい、か…。」
いなくなった診療所でミリーは独り言ちた。
そしてそのころ、アニスはもらった瓶を自分の指紋がつかないようにして団長に渡した。
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