上 下
34 / 133

病院に必要なもの

しおりを挟む
「さぁさぁ、お茶をどうぞ。」


ミリーさんが淹れてくれたお茶。

念のために先にアニーさんが舐めて、GOサインが出てから口をつける。



「それで、僕に聞きたいことって?」

御者役の団長は、入り口近くの長椅子に座って僕たちを見守ってくれている。


「下水道も整備して、だいぶ感染症や疫病にみんなかからなくなりましたけど、風邪とか怪我とか。病院にかかれなくて悪化させて、亡くなったり、体の一部を失ってしまう人たちがいるじゃないですか。」


「…いますね。この診療所にもよく来ますよ。」


「国が病院を作って、貧しくても必要な時に安心して診てもらえるような場所を作りたいって思っているんです。」



「……ご立派ですね。まるで聖女か女神のようです。さぞや民に慕われることでしょう。ですが、国が病院を作れば、診療所はどうなります?私たちは廃業します。あなたは、困っている人たちを助けて気分がいいかもしれないですが、仕事を奪われて生活に困る者も出るんですよ?」

「あなた方の生活は困らないようにします。」


「どうやって?」



「新しく建てる病院には、ドクターや看護師、薬師が必要でしょう?そこで働きませんか?お給料は国から定額で毎月出します。患者がこようがこまいが、払います。ものすごく患者がいて、たいへんだったときは多めに払います。そういう仕組みを作ろうと思っています。」



ミリーは目を見開いて、わずかにカップを持つ手を震わせた。




目の前の、ぼさぼさした髪型の若い男。

自分の装いに無頓着だが、その顔はよく見れば、とても美しい。


見た目だけではない。

内面から滲み出る輝き。



「……私たちはいいでしょう。でも、教会は商売あがったりですね。下水道事業と言い、あなたの仕事は、未然に病を防ぐようだ。」


「防げるなら防げた方がいいじゃないですか。教会が癒しの魔法を使って寄付金を得られないというのなら、他の手段でお金を得ることを考えてほしいです。」



「……なるほど。」



「それで本題ですけど。先生、病院のドクターになりませんか?」

「考えさせてください。」







「…それではお邪魔しました。」

「悪いですね、お土産にキャンディーの瓶をいただいてしまって。」


「いいんですよ、そんなに残ってなかったですし。それでは。」



ミリーが一礼し、団長の操る馬車は王都の方へ向かっていった。










「防げるなら防げた方がいい、か…。」


いなくなった診療所でミリーは独り言ちた。




そしてそのころ、アニスはもらった瓶を自分の指紋がつかないようにして団長に渡した。

しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

最強で美人なお飾り嫁(♂)は無自覚に無双する

竜鳴躍
BL
ミリオン=フィッシュ(旧姓:バード)はフィッシュ伯爵家のお飾り嫁で、オメガだけど冴えない男の子。と、いうことになっている。だが実家の義母さえ知らない。夫も知らない。彼が陛下から信頼も厚い美貌の勇者であることを。 幼い頃に死別した両親。乗っ取られた家。幼馴染の王子様と彼を狙う従妹。 白い結婚で離縁を狙いながら、実は転生者の主人公は今日も勇者稼業で自分のお財布を豊かにしています。

侯爵様の愛人ですが、その息子にも愛されてます

muku
BL
魔術師フィアリスは、地底の迷宮から湧き続ける魔物を倒す使命を担っているリトスロード侯爵家に雇われている。 仕事は魔物の駆除と、侯爵家三男エヴァンの家庭教師。 成人したエヴァンから突然恋心を告げられたフィアリスは、大いに戸惑うことになる。 何故ならフィアリスは、エヴァンの父とただならぬ関係にあったのだった。 汚れた自分には愛される価値がないと思いこむ美しい魔術師の青年と、そんな師を一心に愛し続ける弟子の物語。

異世界転生先でアホのふりしてたら執着された俺の話

深山恐竜
BL
俺はよくあるBL魔法学園ゲームの世界に異世界転生したらしい。よりにもよって、役どころは作中最悪の悪役令息だ。何重にも張られた没落エンドフラグをへし折る日々……なんてまっぴらごめんなので、前世のスキル(引きこもり)を最大限活用して平和を勝ち取る! ……はずだったのだが、どういうわけか俺の従者が「坊ちゃんの足すべすべ~」なんて言い出して!?

異世界転移して美形になったら危険な男とハジメテしちゃいました

ノルジャン
BL
俺はおっさん神に異世界に転移させてもらった。異世界で「イケメンでモテて勝ち組の人生」が送りたい!という願いを叶えてもらったはずなのだけれど……。これってちゃんと叶えて貰えてるのか?美形になったけど男にしかモテないし、勝ち組人生って結局どんなん?めちゃくちゃ危険な香りのする男にバーでナンパされて、ついていっちゃってころっと惚れちゃう俺の話。危険な男×美形(元平凡)※ムーンライトノベルズにも掲載

【完結】健康な身体に成り代わったので異世界を満喫します。

白(しろ)
BL
神様曰く、これはお節介らしい。 僕の身体は運が悪くとても脆く出来ていた。心臓の部分が。だからそろそろダメかもな、なんて思っていたある日の夢で僕は健康な身体を手に入れていた。 けれどそれは僕の身体じゃなくて、まるで天使のように綺麗な顔をした人の身体だった。 どうせ夢だ、すぐに覚めると思っていたのに夢は覚めない。それどころか感じる全てがリアルで、もしかしてこれは現実なのかもしれないと有り得ない考えに及んだとき、頭に鈴の音が響いた。 「お節介を焼くことにした。なに心配することはない。ただ、成り代わるだけさ。お前が欲しくて堪らなかった身体に」 神様らしき人の差配で、僕は僕じゃない人物として生きることになった。 これは健康な身体を手に入れた僕が、好きなように生きていくお話。 本編は三人称です。 R−18に該当するページには※を付けます。 毎日20時更新 登場人物 ラファエル・ローデン 金髪青眼の美青年。無邪気であどけなくもあるが無鉄砲で好奇心旺盛。 ある日人が変わったように活発になったことで親しい人たちを戸惑わせた。今では受け入れられている。 首筋で脈を取るのがクセ。 アルフレッド 茶髪に赤目の迫力ある男前苦労人。ラファエルの友人であり相棒。 剣の腕が立ち騎士団への入団を強く望まれていたが縛り付けられるのを嫌う性格な為断った。 神様 ガラが悪い大男。  

婚約破棄された婚活オメガの憂鬱な日々

月歌(ツキウタ)
BL
運命の番と巡り合う確率はとても低い。なのに、俺の婚約者のアルファが運命の番と巡り合ってしまった。運命の番が出逢った場合、二人が結ばれる措置として婚約破棄や離婚することが認められている。これは国の法律で、婚約破棄または離婚された人物には一生一人で生きていけるだけの年金が支給される。ただし、運命の番となった二人に関わることは一生禁じられ、破れば投獄されることも。 俺は年金をもらい実家暮らししている。だが、一人で暮らすのは辛いので婚活を始めることにした。

【完結】伯爵家当主になりますので、お飾りの婚約者の僕は早く捨てて下さいね?

MEIKO
BL
【完結】そのうち番外編更新予定。伯爵家次男のマリンは、公爵家嫡男のミシェルの婚約者として一緒に過ごしているが実際はお飾りの存在だ。そんなマリンは池に落ちたショックで前世は日本人の男子で今この世界が小説の中なんだと気付いた。マズい!このままだとミシェルから婚約破棄されて路頭に迷うだけだ┉。僕はそこから前世の特技を活かしてお金を貯め、ミシェルに愛する人が現れるその日に備えだす。2年後、万全の備えと新たな朗報を得た僕は、もう婚約破棄してもらっていいんですけど?ってミシェルに告げた。なのに対象外のはずの僕に未練たらたらなの何で!? ※R対象話には『*』マーク付けますが、後半付近まで出て来ない予定です。

姉が結婚式から逃げ出したので、身代わりにヤクザの嫁になりました

拓海のり
BL
芳原暖斗(はると)は学校の文化祭の都合で姉の結婚式に遅れた。会場に行ってみると姉も両親もいなくて相手の男が身代わりになれと言う。とても断れる雰囲気ではなくて結婚式を挙げた暖斗だったがそのまま男の家に引き摺られて──。 昔書いたお話です。殆んど直していません。やくざ、カップル続々がダメな方はブラウザバックお願いします。やおいファンタジーなので細かい事はお許しください。よろしくお願いします。 タイトルを変えてみました。

処理中です...