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王子の事情

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俺はアニス=スパイス。

スパイス王国の第二王子だ。

正妃の産んだ王子になるが、側室の子の方が早く生まれて、第一王子になった。

兄の名前はクミン=スパイス。

昔は、俺たちは仲良しだった。

だが、それぞれの派閥が俺たちを引き裂いた。

俺たちは政敵同士になってしまったのだ。



昔、ペッパー公爵が子どもたちを連れて遊びに来たことがある。

あれは、まだソルトが3歳くらいの時だったと思う。

ソルトの兄のブラックとホワイトは、あの頃からとても美しい人たちで、兄と年も近いから側近候補にどうだろう?と思われていたらしい。

だが俺たちは、おまけで来たソルトに目を奪われた。


本当に天使だった。



俺も兄もソルトに一目ぼれで、兄はソルトを婚約者にしようとしていた。


だが、そのうちソルトが家に引きこもるようになり、お茶会に参加できる年齢になってもお茶会に現れず、周囲が王太子妃候補失格として、兄の希望は通らなかった。



学園に通う年齢になれば、会えるかもしれない。



期待して遠目から見たソルトは、もさあっとしていた。

もさぁっと。


のばしっぱなしでボサボサの髪。

浄化魔法があるから、かろうじて不潔ではないが、きっとちゃんと風呂にも入ってないんだろうなぁという容貌で。

教室か図書室の間を行ったり来たり。

ずーっと一人で本を読んで、ブツブツ呟いてはへらへらしているような感じに出来上がっていた。



兄は、100年の恋も一気に冷めたらしいが、俺は逆に興味がわいた。



天使がこのように劣化したのではなくて、もともと、こういう性質だったのだと分かった。

ぽんぽん国をよくするアイディアを思いついては、それを実現するために必要な知識を文献を読み解きながら見つけ、ノートに記していく。

なんてすばらしい人だろう。



面白かったのは、魔法や剣の時間だ。

これでもやっぱり彼は、優秀なペッパー家の子だったらしく。
めんどくさそうに、研究書を片手に読みながらも、教師の課題はクリアしていた。

あのときの教師の悔しそうな顔は面白かった。


楽しい3年は過ぎ、俺は遠巻きに彼を眺めているだけだったが、彼が一般官吏――文官の登用試験を受けると聞いて、俺も彼の職場に潜り込めるように根回しした。

俺は、ここではぐるぐる眼鏡のアニーさん。




俺が好きなのは君の中身なのだから、どんなにずぼらなところを見せられても幻滅はしない。

同僚として君を助けていけたら。そして、いつか俺のプロポーズを受けてほしい。

長期戦だ。

幸い、ライバルはいない。



そう、思っていたのだが………。






髪のカーテンをめくってみると、中身はあの時見た以上に美しく成長したとんでもない美人が隠れていた。



陛下の前で整えないわけにもいかないし、……くっ。



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