犬猿の仲の他国の将軍は敵国王を娶りたい

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
14 / 19

クロス王国の血

しおりを挟む
俺は景品のように玉座の上に拘束される。

「ブルック……。」

あんなにボロボロなのに、あいつに勝負を挑むなんて。




「勝負は伝統どおり、素手格闘だ。この身ひとつ。真に種族最強の男がリーダーとなる。」

俺に有利だ。とシリウスが笑う。


「ああ、構わない。」


「では、両者、始めッ!」




正直、勝算などない。
スピードもパワーも、あいつが上。

でも、負けられない。

シンやキィを守りたい。
せっかくの共存の道を閉ざしたくない。


シリウスは余裕だ。

本気でない彼の拳や蹴りを必死に避ける。


「ホラホラ、どうした!? もうバテてきたか?」

シリウスの蹴りの風圧で、シャンデリアがギシギシ揺れる。


「…くっ!!」



「…まずは、右腕。」


「アァァアアアアアアアッ!」


シリウスが簡単に右腕を千切る。




「ブルック……!!!」



シンの泣き叫ぶ声が聞こえる。











2人の戦いの激しさで、彼らの頭上のシャンデリアもぼろぼろで、かろうじて天井に引っかかっている。


「はぁはぁ…はぁ。しぶといヤツだが、もうさすがに立てないだろう。…俺の勝ちだ。」


ブルックの体はあちこち傷つけられ、肩で息を切らし、体力の限界が来たのか、歩き方もおかしい。




だが。




「あぁああ、……あぁっ、いやだ…そんな…ブルック…。」


シン王が悲しみに嗚咽を漏らす。

にやりと笑うシリウスの眼前に倒れている男は、右腕と左足、左目と右耳を失って大量に血を流し、床に倒れ。

かろうじて息はしているものの、助からない傷を負っている。



ーーーーーーーーああ、あんなに番を泣かせて。

大事な人もその人の大事なものも守れなかったなんて。

彼は、俺の本物の運命の番だったのに。

シリウスがあの人を大事にするわけがない。

シリウスはきっと、あいつがお母さまにしたように、扱うはずだ。


それなのにーーーーーー。




在りし日の、母を思い出す。


『おかあさま!おかあさま!!』


人間にしてはお母さまもかなり大柄な男だったけれど、それでも3メートル近い男にいいように嬲られれば、行為の後は悲惨だった。

受け入れさせられたその場所はもちろん、内臓に傷もつく。


衛兵に連れられて、部屋のベッドに投げ捨てられた母の世話をするのは、いつも俺だった。


母は、俺たち二人になると、魔法を使った。


『コンプリートキュア。』


母は腐っても宗教国クロス王国の王子だ。

回復魔法がなければ、もっと早く死んでいただろうし、俺を産むこともできなかっただろう。


『お母さまぁ…!!』


『…心配させてごめんな。いつもいつも…。大丈夫だよ。』


『でも、お母さま!そんなすごい回復魔法は、すごく疲れるんでしょう!?…どんどん、体力がなくなってるきがする。』


お母様は、俺を優しくなでで、笑った。

『本当はお前を連れて、ここから逃げられたらよかったんだけどな…。契約の力が強すぎて逃げられない。俺は多分、長く生きられない。』


『ぼくが、回復出来たらよかったのに…。』


『回復魔法は、大事な人を思う心がないと使えないから。まだ無理かな。』

『ぼく、お母さまが大事だよ!』


『ありがとうね。』







魔法は想いの力。


回復魔法は、死に瀕して目覚める。



愛する者を残して死ねない、そう思うこころ。





そのとき、ブルックの中で弾けた。


「…なっ、ばかなっ!!?」



ブルックの体が淡く光り輝き、失った体の組織が再生していく。


「コンプリート・キュア………!!!」



「ブルック…!!」


「シリウス、お前を倒してリーダーになるのは俺だ……!!!」


ブルックはシリウスに向かって突進し、拳を突き上げて天井へ飛ばす。


「ブヘッ……!!!!」


シャンデリアは揺れ、「ギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!」――――シリウスに刺さる。




シリウスは絶命した。







「…ブルック!!」


シン王が涙に濡れた瞳でブルックを見る。


ブルックに触れたい。

早く抱きしめたい。

抱きしめてほしい。




「新しいリーダーだ!」

「リーダーはブルックに決まりだ!」


シルバーウルフの正式な王が決まった瞬間だった。





「……まったく、俺も早く誰か見つけよう…。」


ブルックとシンが抱擁し、エンは片隅で見守っていた。



しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。

N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ ※オメガバース設定をお借りしています。 ※素人作品です。温かな目でご覧ください。 表紙絵 ⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)

【完結】運命さんこんにちは、さようなら

ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。 とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。 ========== 完結しました。ありがとうございました。

未必の恋

ほそあき
BL
倉光修には、幼い頃に離別した腹違いの兄がいる。倉光は愛人の子だ。だから、兄に嫌われているに違いない。二度と会うこともないと思っていたのに、親の都合で編入した全寮制の高校で、生徒会長を務める兄と再会する。親の結婚で名前が変わり、変装もしたことで弟だと気づかれないように編入した、はずなのに、なぜか頻繁に兄に会う。さらに、ある事件をきっかけに兄に抱かれるようになって……。

愛人は嫌だったので別れることにしました。

伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。 しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました

BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」 え?勇者って誰のこと? 突如勇者として召喚された俺。 いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう? 俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?

秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~

めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆ ―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。― モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。 だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。 そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

完結·助けた犬は騎士団長でした

BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。 ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。 しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。 強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ…… ※完結まで毎日投稿します

好きな人に迷惑をかけないために、店で初体験を終えた

和泉奏
BL
これで、きっと全部うまくいくはずなんだ。そうだろ?

処理中です...