犬猿の仲の他国の将軍は敵国王を娶りたい

竜鳴躍

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番とは何か

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シンの民を奴隷から解放し、身元を確認する作業は時間を要した。

やはり、性奴隷になった者たちは、この5年で何人も子を産んでいた。

中には、子の父親に愛され、内縁の妻となって匿われていた者もいた。
私たちにとっては誰の子か分からない状況であっても、獣人は自分の子が匂いで分かるらしい。
初めは拒絶しても、妻として大事に守られ愛されれば、情も湧く。
彼らの幸せは後押ししてあげたいと思う。


しかし多くは、娼館で働かされたり、誰かに囲われて搾取され続け、望まぬ子はまた奴隷となっている。
彼らは助けなければならない。

しかし、元の生活、家族の下には戻れない者も多いだろう。

そのすべてを把握し、細々と対応するのは骨が折れたが、きついなどと言ってはおれない。



酷使された者、愛するものを奪われた者、彼らは獣人を一層恨んでいた。

なぜ、等しいなどというのか。
王は、獣人の味方なのか。
自分も獣人の子を産んでいるから、あんなことを言うのだ。


だめだ、このままではーーーーーーーーーー。



執務机で頭を悩ませ、気分転換に庭を見ると、ブルックが他の兵とともにいた。









「カース=ブルック=シルバーウルフ殿下。」

「その名で呼ぶな。俺は、ただの将軍で臣下だった。妾腹の子だぞ。王位継承権なんてあったかどうかもわからないくらいだ。」


シルバーウルフの宰相だった男は、ブルックに纏わりついていた。


「しかし、シン王はあなたの番だというじゃないですか。しかも、王子はあなたの血を引いておられる!シルバーウルフ王国の、正当な王の血を!」


「…まあ、それはそうだが。」
俺は、妾腹の子、しかも母親は軍人で平民だった。
王子らしい扱いも受けた覚えがないのに、王の血と言われても、ちゃんちゃらおかしい。


「シルバーウルフの王子として、シン王と婚姻の儀を結びましょう!それであれば、みな納得するというもの。」


「ほかの王子たちや王族貴族が、すっかり牙を抜かれたものな。全く、身体能力では劣っていても、人間はそれを補う知恵がある。俺を立ててどうする?国を興すのか?」


「いえ、国はこのままでも。前王の愚策で国際社会からだいぶ嫌われましたからね。?番、なんですから。」


「シン王を傀儡にして、実権をこちらで操ろうということか?」


目がYESと言っている。


「ばかばかしい。」


「私に言わせれば、王子がどうかしていると思いますよ。番契約は、一度したら絶対に切れない、獣人が確実に自分の雌に子を孕ませ、産ませるための契約魔法の一種だ。呪いと言ってもいい。番になった雌は、必ず雄を愛するようになり、たとえ強姦による妊娠であったとしても、一人でも子を出産してくれる。雌は雄に逆らえないのですから。シン王だって、口ではああいっていてもーーーーーーーーーーーー。




「そうか。なるほどな。番とは、そういうことだったか。」



冷え冷えとした視線で、背後からシン王が見ていた。








じゃあなにか。俺のこのよくわからない感情も、どうしていいか分からない憤りも、お前を可愛いと思ったのも、キィを産んだのも、みんなその契約のせいなのか?


哀しいのか、悔しいのか、怒っているのか、全く分からない。

あるいは、そのすべてなのかもしれない。

だが、キィに罪はない。

あの子を愛おしく思う気持ちは、確かに自分の気持ち。



「お望み通り、婚姻してやるよ、ブルック将軍。お前は王子だったのだな。いいか、俺たちは象徴だ。種族を乗り越え、遺恨を乗り越え、互いにやっていくための。」


そして、残念ながら、俺はお前の傀儡になってやるつもりは全くない!

お前がどんな術や呪いをかけようがな!
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