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まだ分からない
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「シン…。やっと名前を知れた。」
俺の執務室に彼を入れた。エンが控えていてくれているが、二人っきりも同然だ。
エンは、『あいつが…。』というような、恨みめいた目で将軍を睨んでいる。
彼に愛しい者を見るような目で見つめられ、指先をとられて甘く口づけをされる。
首筋の傷痕が熱を持って、体が自分のものではないように彼を求めている、そんな気はする。
あの中に、キィの父親がいるとは思った。
もう一度会いたいと思っていた。
だから、仮面を外して謁見したのだ。…一生、仮面をかぶっているわけにもいかないと思ったからではあるが。
だが、まさか。ブルック将軍だったとは思わなかった。
身体能力が高く、脳筋で、頭を巡らすことがどちらかと言えば苦手な犬獣人だが、たまに将軍のように知力の高い者もいる。
子どもの父親が彼のように優れた者だと分かったのは嬉しい。
それに、彼は魅力的だった。
白銀色の髪、耳、尾。薄い褐色に近い肌。緑色の目は、エメラルドのようで情熱的だ。
将軍だけあって、体格もすごくいい。筋肉質で、190cmくらいはあるだろうか。がっしりしていて、体を全部預けたとしても、問題なく支えてくれるだろう。
「俺の番。結婚しよう、幸せにするから。それに、あの子…ああ、名前はなんていうんだ?彼を幸せにする権利を俺にもくれ。」
どうしよう、会いたいという気持ちはあったはずなのに。
実際に目の当たりにすると、戸惑いが先に来る。
分からない。自分の気持ちが分からない。
「…何バカなことを言ってるんだ!俺が王で、お前は敗戦国の将軍だぞ…!お前が俺を幸せにするなんておかしいだろう。なんで王が娶られるんだ。」
「でも、俺たちそのまんま雇ってくれるんですよね?王が変わっただけで、俺たちは何も変わらない。爵位も何もかも。実際に、民も平和そのものだ。価値観の急変に戸惑うだけ。あなたに逆らいさえしなければ、そうでしょう?」
「あの子の名前はキィだ。あの子の前では、仲の良い番とやらの振りをしてやってもいい。子どもには、知られたくない。どうやってできたのか、どんなふうに産んだのか。普通に愛し合って生まれた子だと思っていてほしい。だから、あの子の『父親』になることは許す。」
「シン!振りじゃない、俺は本当に…!」
「シルバーウルフの兵の統率管理は任せた。今日の話は終わりだ。」
「シン!」
「ブルック将軍、俺はお前をぶん殴りたい気持ちを抑えている。退室されよ。」
エン将軍が、ブルックを外に追い払ってくれた。
「…シン様。大丈夫ですか?」
「…ああ。大丈夫だ。」
俺は、彼をどうしたいのだろう。
彼とどうなりたいんだろう。
まだ分からない。
戦争はしたが、平和裏な国家併合と変わらない。
申の民が奴隷から解放されただけだ。
かつて戦争の引き金となった獣人への差別意識も、もはや彼らにはないだろう。
そう、思っていた。
混乱が続くとは思っていなかった。
俺の執務室に彼を入れた。エンが控えていてくれているが、二人っきりも同然だ。
エンは、『あいつが…。』というような、恨みめいた目で将軍を睨んでいる。
彼に愛しい者を見るような目で見つめられ、指先をとられて甘く口づけをされる。
首筋の傷痕が熱を持って、体が自分のものではないように彼を求めている、そんな気はする。
あの中に、キィの父親がいるとは思った。
もう一度会いたいと思っていた。
だから、仮面を外して謁見したのだ。…一生、仮面をかぶっているわけにもいかないと思ったからではあるが。
だが、まさか。ブルック将軍だったとは思わなかった。
身体能力が高く、脳筋で、頭を巡らすことがどちらかと言えば苦手な犬獣人だが、たまに将軍のように知力の高い者もいる。
子どもの父親が彼のように優れた者だと分かったのは嬉しい。
それに、彼は魅力的だった。
白銀色の髪、耳、尾。薄い褐色に近い肌。緑色の目は、エメラルドのようで情熱的だ。
将軍だけあって、体格もすごくいい。筋肉質で、190cmくらいはあるだろうか。がっしりしていて、体を全部預けたとしても、問題なく支えてくれるだろう。
「俺の番。結婚しよう、幸せにするから。それに、あの子…ああ、名前はなんていうんだ?彼を幸せにする権利を俺にもくれ。」
どうしよう、会いたいという気持ちはあったはずなのに。
実際に目の当たりにすると、戸惑いが先に来る。
分からない。自分の気持ちが分からない。
「…何バカなことを言ってるんだ!俺が王で、お前は敗戦国の将軍だぞ…!お前が俺を幸せにするなんておかしいだろう。なんで王が娶られるんだ。」
「でも、俺たちそのまんま雇ってくれるんですよね?王が変わっただけで、俺たちは何も変わらない。爵位も何もかも。実際に、民も平和そのものだ。価値観の急変に戸惑うだけ。あなたに逆らいさえしなければ、そうでしょう?」
「あの子の名前はキィだ。あの子の前では、仲の良い番とやらの振りをしてやってもいい。子どもには、知られたくない。どうやってできたのか、どんなふうに産んだのか。普通に愛し合って生まれた子だと思っていてほしい。だから、あの子の『父親』になることは許す。」
「シン!振りじゃない、俺は本当に…!」
「シルバーウルフの兵の統率管理は任せた。今日の話は終わりだ。」
「シン!」
「ブルック将軍、俺はお前をぶん殴りたい気持ちを抑えている。退室されよ。」
エン将軍が、ブルックを外に追い払ってくれた。
「…シン様。大丈夫ですか?」
「…ああ。大丈夫だ。」
俺は、彼をどうしたいのだろう。
彼とどうなりたいんだろう。
まだ分からない。
戦争はしたが、平和裏な国家併合と変わらない。
申の民が奴隷から解放されただけだ。
かつて戦争の引き金となった獣人への差別意識も、もはや彼らにはないだろう。
そう、思っていた。
混乱が続くとは思っていなかった。
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