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申の乱
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数年経ち、未だ愛しい番は見つからない。
そうこうしている間に、申の王族の最後の生き残りとして、シン王が現れた。
若き赤毛の将軍・エンを従え、知略で周辺諸国の後ろ盾を得、やがて、シルバーウルフ王国へ迫ろうとしている。
冷静沈着、黒髪の王は、顔の半分をマスクで覆っているが、素顔はたいへん美しいらしい。
そもそも、我が国が世界戦争をしかけたのは、申国の獣人差別が許せなかったからだ。
しかし、戦争に勝った後、我が国がやったことが、他の国々からの怒りを買い、完全に国を孤立させていた。
申国を武力で滅ぼし、王族は皆殺し。富を奪い、民を奴隷にした。
今、この国は、隣国だった申国を併合し豊かになったが、心は貧しいままだ。
申国民の奴隷を酷使し、見目良い若者は性奴隷になって、この数年で何人も混血児が誕生している。
はっきりいって、差別する側とされる側が変わっただけで、差別の内容は、むしろ今の方が酷い。
そこを、うまくアピールして、何も持たなかった最後の王は、我が国の喉元に刃をつきつけるほど力をつけた。
彼の望みは、一刻も早く祖国を取り戻し、民を開放することだろう。
はぁ。
陛下のお召しにため息をつきながら、玉座の下へ向かう。
「ブルック将軍。軍は何をやっていたのだね?お前たちは王族は全員始末したといっていたではないか。それが、一番末の王子が生きていて、今やこのありさま。いいか、戦争だ!戦争の準備をしろ!獣人が戦で負けるものか!今すぐ、派兵の準備をするのだ!」
「……は。」
全くうんざりする。
しかし、シン王とは、やりあってみたい。
一体、これからどういう手を彼はついてくるのだろうか。
「いよいよですね、シン王。」
「私たちを受け入れ、支援いただいて本当に感謝しております。」
砂漠を抜け、オアシスの国・宗教国クロス王国に逃れて、5年の月日が経った。
その間、残してきた民、一緒にテントで犯された仲間のことが胸によぎらなかった日はない。
だが、あの日、皆を連れて逃げることは、あのときの自分たちにはできなかった。
自分の身を恥じて、命を絶った者もいるかもしれない。
けれど。
準備が整った今だからこそ、国を取り返せる。彼らを救うことも。
クロス王国の王は穏やかで優しい老人だ。
この国の人たちは、みんな優しい。
申の民の現状を、ひどく憂いてくれ、ともに泣いてくれた。
潜伏先をここにしてよかった。
「おかあさま!」
てってっと、水色の服を着た黒髪の男の子が駆けてくる。
その子の頭には、狼の耳はないが、かわいらしい尾がふさふさと揺れている。
「待ってくださいよ~! キィ王子!」
俺の将軍のはずのエンが、息を切らして追いかけてきた。
ぽふっと俺の足にたどり着いて、にこにこと見上げてくる。
本当に素直で可愛い。
「キィは甘えん坊さんだなあ。」
そっと抱き上げると、ぱあっと花がさいたように笑った。
エンが振り回されるなんて、年々身体能力が上がっている。
半分だけど、獣人の血を引いているからかもしれない。
「ふふふ、キィ殿下はいつもご機嫌ですね。」
敵国の兵士に犯されて、この国で妊娠に気づき、出産した。
この国の人たちが優しくて、本当に助かった。
妊娠が分かった時、エンは堕胎を勧めたが、俺にはできなかった。
あの男のことを嫌いではなかったからかもしれない。
けれど、それ以上に、親族を失った俺の、新しい家族だったから失いたくなかったのだ。
申国は、獣人差別をするようなお高くとまった国だった。
それは、間違いだ。
種族差は確かにあるかもしれないが、命はみな等しく尊い。
少し苦手なことや優れたところがそれぞれ違うだけで、みな素晴らしい存在なのだ。
シルバーウルフを倒し、民を解放したら、差別のない国にしよう。
きっと、この数年で混血児もいるはずだ。
混血児も差別されないようにしなければならない。
キィのためにも。
まずは国をとりもどさなければ。
そのためには。
邪魔な敵国の将軍、カース=ブルック将軍を倒さなくては。
そうこうしている間に、申の王族の最後の生き残りとして、シン王が現れた。
若き赤毛の将軍・エンを従え、知略で周辺諸国の後ろ盾を得、やがて、シルバーウルフ王国へ迫ろうとしている。
冷静沈着、黒髪の王は、顔の半分をマスクで覆っているが、素顔はたいへん美しいらしい。
そもそも、我が国が世界戦争をしかけたのは、申国の獣人差別が許せなかったからだ。
しかし、戦争に勝った後、我が国がやったことが、他の国々からの怒りを買い、完全に国を孤立させていた。
申国を武力で滅ぼし、王族は皆殺し。富を奪い、民を奴隷にした。
今、この国は、隣国だった申国を併合し豊かになったが、心は貧しいままだ。
申国民の奴隷を酷使し、見目良い若者は性奴隷になって、この数年で何人も混血児が誕生している。
はっきりいって、差別する側とされる側が変わっただけで、差別の内容は、むしろ今の方が酷い。
そこを、うまくアピールして、何も持たなかった最後の王は、我が国の喉元に刃をつきつけるほど力をつけた。
彼の望みは、一刻も早く祖国を取り戻し、民を開放することだろう。
はぁ。
陛下のお召しにため息をつきながら、玉座の下へ向かう。
「ブルック将軍。軍は何をやっていたのだね?お前たちは王族は全員始末したといっていたではないか。それが、一番末の王子が生きていて、今やこのありさま。いいか、戦争だ!戦争の準備をしろ!獣人が戦で負けるものか!今すぐ、派兵の準備をするのだ!」
「……は。」
全くうんざりする。
しかし、シン王とは、やりあってみたい。
一体、これからどういう手を彼はついてくるのだろうか。
「いよいよですね、シン王。」
「私たちを受け入れ、支援いただいて本当に感謝しております。」
砂漠を抜け、オアシスの国・宗教国クロス王国に逃れて、5年の月日が経った。
その間、残してきた民、一緒にテントで犯された仲間のことが胸によぎらなかった日はない。
だが、あの日、皆を連れて逃げることは、あのときの自分たちにはできなかった。
自分の身を恥じて、命を絶った者もいるかもしれない。
けれど。
準備が整った今だからこそ、国を取り返せる。彼らを救うことも。
クロス王国の王は穏やかで優しい老人だ。
この国の人たちは、みんな優しい。
申の民の現状を、ひどく憂いてくれ、ともに泣いてくれた。
潜伏先をここにしてよかった。
「おかあさま!」
てってっと、水色の服を着た黒髪の男の子が駆けてくる。
その子の頭には、狼の耳はないが、かわいらしい尾がふさふさと揺れている。
「待ってくださいよ~! キィ王子!」
俺の将軍のはずのエンが、息を切らして追いかけてきた。
ぽふっと俺の足にたどり着いて、にこにこと見上げてくる。
本当に素直で可愛い。
「キィは甘えん坊さんだなあ。」
そっと抱き上げると、ぱあっと花がさいたように笑った。
エンが振り回されるなんて、年々身体能力が上がっている。
半分だけど、獣人の血を引いているからかもしれない。
「ふふふ、キィ殿下はいつもご機嫌ですね。」
敵国の兵士に犯されて、この国で妊娠に気づき、出産した。
この国の人たちが優しくて、本当に助かった。
妊娠が分かった時、エンは堕胎を勧めたが、俺にはできなかった。
あの男のことを嫌いではなかったからかもしれない。
けれど、それ以上に、親族を失った俺の、新しい家族だったから失いたくなかったのだ。
申国は、獣人差別をするようなお高くとまった国だった。
それは、間違いだ。
種族差は確かにあるかもしれないが、命はみな等しく尊い。
少し苦手なことや優れたところがそれぞれ違うだけで、みな素晴らしい存在なのだ。
シルバーウルフを倒し、民を解放したら、差別のない国にしよう。
きっと、この数年で混血児もいるはずだ。
混血児も差別されないようにしなければならない。
キィのためにも。
まずは国をとりもどさなければ。
そのためには。
邪魔な敵国の将軍、カース=ブルック将軍を倒さなくては。
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