1 / 19
最悪な日で最高の日
しおりを挟む
「はぁ、あ、あぁッ。」
粗末なテントの中。
あちらこちらで、誰かが犯されている。
戦争だ。このキャンプは、シルバーウルフ王国に負けた、申国の民の難民キャンプ。
年若く、見目良い者が一纏めにされた時から、嫌な予感はあったのだ。
父も母も、兄弟も。親族はみな死んだ。生き残ったのは、自分だけ。
悔しい。
ここで終われない。終わってたまるか。
だから、こんな辱めを受けようと、死ねない。
「うっ、ウウッ…。」
涙を零し、下唇を噛むと、抱いている男は優しく口づけを落とす。
捕虜を犯しに来た一人のくせに。
「すまない、君は初めてだったのに…。でもどうか俺を嫌わないで。君は凄くいい匂いがする。きっと俺の番。」
そういう男の頭には犬の耳。
シルバーウルフ王国は、犬獣人の国だ。
暗いし、姿形のアウトラインしか分からないが、若く逞しい青年だというのはわかる。
「つ、つがい…?」
体を暴かれ、最奥を穿たれ、もう何度か中に放たれて、頭がふらふらする。
「大丈夫、君は俺だけにする。他の奴らには触れさせないから。だから、俺の番になって。」
ああ、こいつは素直そうだし、どことなく品がいいから高位貴族だろう。
まわりではひっきりなしに喘ぐ声と、嫌な水音、男達の吐息が聞こえる。
最初は叫び声だったのに、複数の男に輪姦されて。
こいつなら、いいか。
こいつだけなら。
「つ……して。番に。」
「うれしい、大切にするよ。」
男は嬉しそうに尻尾をくるんとさせ、より深くに穿った。
「あ、あぁあっ。」
腹の中はみっちりと一杯で、先に放ったものが泡だって後孔から流れる。
「いくよ。」
「あ、あ―――――」
奥へ、精がくる。熱い。
後孔から子宮に届いて、孕むかもしれないとぼんやりと考えた時、うなじを噛まれた。
奴らの種族の風習は分からない。
彼は、俺を清めると、仲間に俺が番だから襲わぬよう命じて、去っていった。
嵐が過ぎて、皆が気を失っている時。
渡りが来た。
元申国の兵士の一人で、次期将軍と言われていた青年エン。
「シン様、お待たせしま―――」
テントの中をみて、顔を青ざめさせる。
「おいたわしや、お迎えに上がるのが遅くなったばかりに。申し訳ありません…。」
「俺はマシな方だ。番だと噛まれはしたが、一人の相手ですんだからな。なかなか良さそうな男だったし。」
「情がわきましたか?」
「まさか。犬畜生など。しかしそうだな、忠犬そうで可愛らしかったから、我が申国がシルバーウルフ王国を倒した際には、飼ってやらんでもない。」
俺は、エンの手を取り、マントを羽織ってキャンプを出る。
申国の最後の王として、再び国を興すために。
「必ず、皆を助けるからな。」
テントの中の仲間に誓い、夜の闇の中。砂漠を進む。
勝利の喜びで、はしゃいでいる部下に誘われて、難民キャンプに来てしまった時は、こんなことは良くないから、どうやって抜けようかと思っていた。
部下は昼のうちに、かわいい若い子を見繕って一所に集めておいたという。
受け入れる方も入れる方も、外見には同じような性器をしているが、受け入れる側はよく見ると玉の膨らみが小さく、内部に子宮や卵巣がある。
キャンプでは管理のためといって、身体検査をしていた。
「凄く可愛い子がいるんだろう?」
「雰囲気的に貴族の子じゃないかという話じゃないか。」
「敵国の可愛い貴族の子を犯せるとか、楽しみだなあ。みんなで泣かせてやろうぜ。」
部下のゲスさにウンザリする。
だが、諌めるのはしない。
軍部の闇の慣例を止めない俺も大概だと自嘲する。
自分が抜けることを考えていた俺は、最初は譲るからと引き合わされた、貴族?の子を前にして、タガが外れてしまった。
黒い髪に白い肌。真っ黒な眼は黒曜石のようで、長いまつ毛が影を落とし、自分を見据えるその姿には、意志の強さと知性と気品が宿る。
細身だが華奢でもない。
そして、とてもいい匂い。フェロモンの香りがした。
間違いない。これは、俺の番。
なんて最高の日なんだ。
番が見つかるなんて。
彼を抱いて、うなじを噛んで番にした。
そして、部下に襲わないよう釘を刺し、陛下に結婚の窺いに行った。
許可が下りたら迎えに行こう。
すぐに屋敷に連れ帰ろう。
しかし、夜更けに迎えに行くと、彼はいなくなっていた。
親戚が保護していったか、
想い人と逃げたか、
儚んで死んだか。
そう言われたが、きっと死んではいない。
あの眼は何があっても生きることを諦めない眼だった。
「名前くらい明かせばよかった。名前くらい、聞けばよかった。」
必ず、君を見つける。
腕に抱いた、愛しい君を想い、子が出来ていることを願った。
粗末なテントの中。
あちらこちらで、誰かが犯されている。
戦争だ。このキャンプは、シルバーウルフ王国に負けた、申国の民の難民キャンプ。
年若く、見目良い者が一纏めにされた時から、嫌な予感はあったのだ。
父も母も、兄弟も。親族はみな死んだ。生き残ったのは、自分だけ。
悔しい。
ここで終われない。終わってたまるか。
だから、こんな辱めを受けようと、死ねない。
「うっ、ウウッ…。」
涙を零し、下唇を噛むと、抱いている男は優しく口づけを落とす。
捕虜を犯しに来た一人のくせに。
「すまない、君は初めてだったのに…。でもどうか俺を嫌わないで。君は凄くいい匂いがする。きっと俺の番。」
そういう男の頭には犬の耳。
シルバーウルフ王国は、犬獣人の国だ。
暗いし、姿形のアウトラインしか分からないが、若く逞しい青年だというのはわかる。
「つ、つがい…?」
体を暴かれ、最奥を穿たれ、もう何度か中に放たれて、頭がふらふらする。
「大丈夫、君は俺だけにする。他の奴らには触れさせないから。だから、俺の番になって。」
ああ、こいつは素直そうだし、どことなく品がいいから高位貴族だろう。
まわりではひっきりなしに喘ぐ声と、嫌な水音、男達の吐息が聞こえる。
最初は叫び声だったのに、複数の男に輪姦されて。
こいつなら、いいか。
こいつだけなら。
「つ……して。番に。」
「うれしい、大切にするよ。」
男は嬉しそうに尻尾をくるんとさせ、より深くに穿った。
「あ、あぁあっ。」
腹の中はみっちりと一杯で、先に放ったものが泡だって後孔から流れる。
「いくよ。」
「あ、あ―――――」
奥へ、精がくる。熱い。
後孔から子宮に届いて、孕むかもしれないとぼんやりと考えた時、うなじを噛まれた。
奴らの種族の風習は分からない。
彼は、俺を清めると、仲間に俺が番だから襲わぬよう命じて、去っていった。
嵐が過ぎて、皆が気を失っている時。
渡りが来た。
元申国の兵士の一人で、次期将軍と言われていた青年エン。
「シン様、お待たせしま―――」
テントの中をみて、顔を青ざめさせる。
「おいたわしや、お迎えに上がるのが遅くなったばかりに。申し訳ありません…。」
「俺はマシな方だ。番だと噛まれはしたが、一人の相手ですんだからな。なかなか良さそうな男だったし。」
「情がわきましたか?」
「まさか。犬畜生など。しかしそうだな、忠犬そうで可愛らしかったから、我が申国がシルバーウルフ王国を倒した際には、飼ってやらんでもない。」
俺は、エンの手を取り、マントを羽織ってキャンプを出る。
申国の最後の王として、再び国を興すために。
「必ず、皆を助けるからな。」
テントの中の仲間に誓い、夜の闇の中。砂漠を進む。
勝利の喜びで、はしゃいでいる部下に誘われて、難民キャンプに来てしまった時は、こんなことは良くないから、どうやって抜けようかと思っていた。
部下は昼のうちに、かわいい若い子を見繕って一所に集めておいたという。
受け入れる方も入れる方も、外見には同じような性器をしているが、受け入れる側はよく見ると玉の膨らみが小さく、内部に子宮や卵巣がある。
キャンプでは管理のためといって、身体検査をしていた。
「凄く可愛い子がいるんだろう?」
「雰囲気的に貴族の子じゃないかという話じゃないか。」
「敵国の可愛い貴族の子を犯せるとか、楽しみだなあ。みんなで泣かせてやろうぜ。」
部下のゲスさにウンザリする。
だが、諌めるのはしない。
軍部の闇の慣例を止めない俺も大概だと自嘲する。
自分が抜けることを考えていた俺は、最初は譲るからと引き合わされた、貴族?の子を前にして、タガが外れてしまった。
黒い髪に白い肌。真っ黒な眼は黒曜石のようで、長いまつ毛が影を落とし、自分を見据えるその姿には、意志の強さと知性と気品が宿る。
細身だが華奢でもない。
そして、とてもいい匂い。フェロモンの香りがした。
間違いない。これは、俺の番。
なんて最高の日なんだ。
番が見つかるなんて。
彼を抱いて、うなじを噛んで番にした。
そして、部下に襲わないよう釘を刺し、陛下に結婚の窺いに行った。
許可が下りたら迎えに行こう。
すぐに屋敷に連れ帰ろう。
しかし、夜更けに迎えに行くと、彼はいなくなっていた。
親戚が保護していったか、
想い人と逃げたか、
儚んで死んだか。
そう言われたが、きっと死んではいない。
あの眼は何があっても生きることを諦めない眼だった。
「名前くらい明かせばよかった。名前くらい、聞けばよかった。」
必ず、君を見つける。
腕に抱いた、愛しい君を想い、子が出来ていることを願った。
12
お気に入りに追加
169
あなたにおすすめの小説
【完結】何一つ僕のお願いを聞いてくれない彼に、別れてほしいとお願いした結果。
N2O
BL
好きすぎて一部倫理観に反することをしたα × 好きすぎて馬鹿なことしちゃったΩ
※オメガバース設定をお借りしています。
※素人作品です。温かな目でご覧ください。
表紙絵
⇨ 深浦裕 様 X(@yumiura221018)
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。

未必の恋
ほそあき
BL
倉光修には、幼い頃に離別した腹違いの兄がいる。倉光は愛人の子だ。だから、兄に嫌われているに違いない。二度と会うこともないと思っていたのに、親の都合で編入した全寮制の高校で、生徒会長を務める兄と再会する。親の結婚で名前が変わり、変装もしたことで弟だと気づかれないように編入した、はずなのに、なぜか頻繁に兄に会う。さらに、ある事件をきっかけに兄に抱かれるようになって……。

愛人は嫌だったので別れることにしました。
伊吹咲夜
BL
会社の先輩である健二と達哉は、先輩・後輩の間柄であり、身体の関係も持っていた。そんな健二のことを達哉は自分を愛してくれている恋人だとずっと思っていた。
しかし健二との関係は身体だけで、それ以上のことはない。疑問に思っていた日、健二が結婚したと朝礼で報告が。健二は達哉のことを愛してはいなかったのか?

勇者になるのを断ったらなぜか敵国の騎士団長に溺愛されました
雪
BL
「勇者様!この国を勝利にお導きください!」
え?勇者って誰のこと?
突如勇者として召喚された俺。
いや、でも勇者ってチート能力持ってるやつのことでしょう?
俺、女神様からそんな能力もらってませんよ?人違いじゃないですか?
秘花~王太子の秘密と宿命の皇女~
めぐみ
BL
☆俺はお前を何度も抱き、俺なしではいられぬ淫らな身体にする。宿命という名の数奇な運命に翻弄される王子達☆
―俺はそなたを玩具だと思ったことはなかった。ただ、そなたの身体は俺のものだ。俺はそなたを何度でも抱き、俺なしではいられないような淫らな身体にする。抱き潰すくらいに抱けば、そなたもあの宦官のことなど思い出しもしなくなる。―
モンゴル大帝国の皇帝を祖父に持ちモンゴル帝国直系の皇女を生母として生まれた彼は、生まれながらの高麗の王太子だった。
だが、そんな王太子の運命を激変させる出来事が起こった。
そう、あの「秘密」が表に出るまでは。

完結·助けた犬は騎士団長でした
禅
BL
母を亡くしたクレムは王都を見下ろす丘の森に一人で暮らしていた。
ある日、森の中で傷を負った犬を見つけて介抱する。犬との生活は穏やかで温かく、クレムの孤独を癒していった。
しかし、犬は突然いなくなり、ふたたび孤独な日々に寂しさを覚えていると、城から迎えが現れた。
強引に連れて行かれた王城でクレムの出生の秘密が明かされ……
※完結まで毎日投稿します
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる