犬猿の仲の他国の将軍は敵国王を娶りたい

竜鳴躍

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最悪な日で最高の日

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「はぁ、あ、あぁッ。」

粗末なテントの中。


あちらこちらで、誰かが犯されている。


戦争だ。このキャンプは、シルバーウルフ王国に負けた、申国の民の難民キャンプ。

年若く、見目良い者が一纏めにされた時から、嫌な予感はあったのだ。

父も母も、兄弟も。親族はみな死んだ。生き残ったのは、自分だけ。



悔しい。


ここで終われない。終わってたまるか。

だから、こんな辱めを受けようと、死ねない。

「うっ、ウウッ…。」


涙を零し、下唇を噛むと、抱いている男は優しく口づけを落とす。


捕虜を犯しに来た一人のくせに。


「すまない、君は初めてだったのに…。でもどうか俺を嫌わないで。君は凄くいい匂いがする。きっと俺の番。」


そういう男の頭には犬の耳。

シルバーウルフ王国は、犬獣人の国だ。
暗いし、姿形のアウトラインしか分からないが、若く逞しい青年だというのはわかる。


「つ、つがい…?」


体を暴かれ、最奥を穿たれ、もう何度か中に放たれて、頭がふらふらする。

「大丈夫、君は俺だけにする。他の奴らには触れさせないから。だから、俺の番になって。」

ああ、こいつは素直そうだし、どことなく品がいいから高位貴族だろう。

まわりではひっきりなしに喘ぐ声と、嫌な水音、男達の吐息が聞こえる。

最初は叫び声だったのに、複数の男に輪姦されて。


こいつなら、いいか。


こいつだけなら。


「つ……して。番に。」


「うれしい、大切にするよ。」


男は嬉しそうに尻尾をくるんとさせ、より深くに穿った。


「あ、あぁあっ。」


腹の中はみっちりと一杯で、先に放ったものが泡だって後孔から流れる。

「いくよ。」

「あ、あ―――――」



奥へ、精がくる。熱い。

後孔から子宮に届いて、孕むかもしれないとぼんやりと考えた時、うなじを噛まれた。


奴らの種族の風習は分からない。


彼は、俺を清めると、仲間に俺が番だから襲わぬよう命じて、去っていった。




嵐が過ぎて、皆が気を失っている時。

渡りが来た。


元申国の兵士の一人で、次期将軍と言われていた青年エン。

「シン様、お待たせしま―――」

テントの中をみて、顔を青ざめさせる。



「おいたわしや、お迎えに上がるのが遅くなったばかりに。申し訳ありません…。」


「俺はマシな方だ。番だと噛まれはしたが、一人の相手ですんだからな。なかなか良さそうな男だったし。」

「情がわきましたか?」

「まさか。犬畜生など。しかしそうだな、忠犬そうで可愛らしかったから、我が申国がシルバーウルフ王国を倒した際には、飼ってやらんでもない。」


俺は、エンの手を取り、マントを羽織ってキャンプを出る。

申国の最後の王として、再び国を興すために。


「必ず、皆を助けるからな。」


テントの中の仲間に誓い、夜の闇の中。砂漠を進む。









勝利の喜びで、はしゃいでいる部下に誘われて、難民キャンプに来てしまった時は、こんなことは良くないから、どうやって抜けようかと思っていた。


部下は昼のうちに、かわいい若い子を見繕って一所に集めておいたという。

受け入れる方も入れる方も、外見には同じような性器をしているが、受け入れる側はよく見ると玉の膨らみが小さく、内部に子宮や卵巣がある。

キャンプでは管理のためといって、身体検査をしていた。


「凄く可愛い子がいるんだろう?」

「雰囲気的に貴族の子じゃないかという話じゃないか。」

「敵国の可愛い貴族の子を犯せるとか、楽しみだなあ。みんなで泣かせてやろうぜ。」


部下のゲスさにウンザリする。


だが、諌めるのはしない。

軍部の闇の慣例を止めない俺も大概だと自嘲する。


自分が抜けることを考えていた俺は、最初は譲るからと引き合わされた、貴族?の子を前にして、タガが外れてしまった。


黒い髪に白い肌。真っ黒な眼は黒曜石のようで、長いまつ毛が影を落とし、自分を見据えるその姿には、意志の強さと知性と気品が宿る。


細身だが華奢でもない。


そして、とてもいい匂い。フェロモンの香りがした。


間違いない。これは、俺の番。

なんて最高の日なんだ。

番が見つかるなんて。



彼を抱いて、うなじを噛んで番にした。

そして、部下に襲わないよう釘を刺し、陛下に結婚の窺いに行った。


許可が下りたら迎えに行こう。
すぐに屋敷に連れ帰ろう。


しかし、夜更けに迎えに行くと、彼はいなくなっていた。


親戚が保護していったか、
想い人と逃げたか、
儚んで死んだか。


そう言われたが、きっと死んではいない。

あの眼は何があっても生きることを諦めない眼だった。


「名前くらい明かせばよかった。名前くらい、聞けばよかった。」

必ず、君を見つける。

腕に抱いた、愛しい君を想い、子が出来ていることを願った。











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