聖女の力を搾取される偽物の侯爵令息は本物でした。隠された王子と僕は幸せになります!もうお父様なんて知りません!

竜鳴躍

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バリュー公爵家

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「くそう、くそうっ!」


バリュー公爵は頭を城の地下牢の壁に打ち付ける。

遠くの牢では、奇声を発する醜い娘の叫び声と、罵りあう男女の声が聞こえる。


金髪碧眼の美丈夫は、見せしめのようにパーティで断罪された。


「貴方!」


「煩い!元はといえば、お前らがクレアを毒殺してチャールズを虐めるからだろうッ!」

「キャア!」

力いっぱい過去第二夫人だった――――――従妹のミレーユの顔を殴る。


ミレーユの体は吹き飛び、顔を赤くした。きっと、腫れて痛む。

その体を、公爵とミレーユの間に生まれたレインが受け止めた。



「お父様!」


公爵もミレーユも元は王家に連なり、金髪碧眼の美形だ。
今の陛下に顔立ちは似ている。

だから、王子然としたレインは母を支えた。


だが、その口から紡がれた言葉は、冷たく震えている。


「クレア様を毒殺したというのは……本当だったんですね?」



陛下から聞かされても、自分の両親のことである。半信半疑だったのに。

クレア様は、優しい人だった。チャールズと分け隔てなく接してくれた方だった。

僕は…好きだったのに。亡くなって、チャールズも家出をしてしまって悲しかったのに。




「殺すつもりなんてなかったのよ!たとえ振りでも、あの女が第一夫人として大事にされるのが許せなかったの!人質のくせに……っ!あの女を部屋に閉じ込めておきたくて……、弱らせる、その程度のつもりだったのにっ。あの女が弱かったのよ!」


「全く浅ましい!お前のおかげで我が公爵家も、反帝国派もおしまいだ!お前のせいでチャールズも逃げた!それでバレたんだ!!!」



「何よ!あなただって気にしていなかったじゃないの!」

また拳を振り上げるのを、息子に止められた。





ユーカリ王国は元々、聖女が度々出現する聖なる国。

帝国の傘下などありえない。

我々は誇り高きユーカリ。神の国。

誰にも頭を垂れない、世界の中心を目指すべき。

帝国が先々代の時代に、同盟国を家臣のように扱いだしたのを忘れない。
軍事力や技術力で他を脅して、制圧したことも忘れない。


だから――――。


それなのに、陛下はあの場で言い放った。




『帝国の王妹を妻に娶っておきながら、彼女を毒殺し、あまつさえ帝国の王族の血を引く我が子を冷遇したな。帝国は全て知っている。帝国の手引きで匿われたその者は、既に帝国の陛下の養子となった。チャールズ=クレイ=オランジュリー。チャーリーという名でホワイト侯爵家に一度養子になっているが、今回の件でリリーと一緒に迫害され、オランジュリー帝国へ今頃二人は向かっているはずだ!帝国に対して、思うところがある者は多いだろう。だが、向こうも先代から王統が変わり、先々代の王統への整理をようやく終えたということで連絡があった。今の王統は信頼できる。帝国の技術力は素晴らしい!力のある国に喧嘩を売って何になる!?戦争で勝てるつもりか?そもそも意味がない。今の王統が続くように協力体制をとるのが最善である!この王統に戦争をふっかけ、万一にでも弱らせてみよ!過激派の王統が息を吹き返すぞ!!!!!聖女を失ったこと、あわや国を危機に陥れるところであったこと。バリュー公爵家も処分を免れぬと心得よ!!』



平凡な、何の意見も持たない、王妃の言いなりの男だと高を括っていたのに。
男爵令嬢に惑わされて幽閉された兄とは違い、とってかわった弟は、立派な国王だった。





「沙汰を言い渡す。元公爵とその夫人は国家反逆罪で斬首刑とする。」

翌朝、騎士が来て宣誓された。



「…………ッ!」



「騎士さま、僕は実行犯ではないですが、平民になるのでしょう。鉱山でしょうか?家族の罪は僕の罪、僕は逃げません。」


レインは、真摯に騎士を見つめた。



「レイン様は平民にはなりません。帝国の使いから、チャールズ様からの手紙が届きました。兄弟仲は良かったようですね。貴方は何も知らなかった。バリュー家は伯爵家になります。貴族社会での立場も弱くなり、王族とかかわれることもなくなるでしょうが、レイン様が新しい当主になり、一族をするよう。それが陛下からの処分です。」



「分かりました。我が一族や、反帝国派の残党がよからぬ動きをせぬよう、必ずや僕が監督いたします。」




両親に一瞥もせず、レインだけが牢から出された。





地下牢では奇声や悲鳴があちこちからあがっていた。




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