17 / 49
俺が奪ったら面白いだろうか
しおりを挟む
夏目太陽がこの時代劇の主役だ。
夏目太陽、武井一朗太は武家の三男。
のらりくらりと生きているようだが、実は将軍家の若殿様の覚えがめでたく、若殿の命で人知れず武家の闇を葬っている。
俺の役は、この若殿様。
一朗太は碁が上手く、碁の相手として城に上がり、二人になると差し合いながら指令の話になる。
「一朗太、最近山の方で騒ぎがあるようだよ。山猿のボスが実りを独り占めして、他の者が困窮しているようだ。どうやらボス猿は雌も独り占めしているようでね。いつの世も泣きを見るのは下の者だよ。やるせないねぇ。」
「暴動が起きたら里まで被害が出ることも。私は暇なので、見てきましょう。」
「ああ、一朗太頼んだよ。…………くっ。」
「はい。」
「投了だ……。」
がっくりと負かされて毎回場面が切り替わる。
俺だってカッコいい戦闘シーンをやってみたい。
だけど、顔をアップされる若殿様は、いつも最初と最後だけで終わる。
若殿は安全地帯で指令を出して報告を受けるだけなのだ。
良い役は良い役だけどさ!
見せ場ないの!?
見学しているあの声優――――――冬木香月は、落ち着いた様子で見ている。
表情を変えずに。
だが、その瞳は熱を持ってアイツを見ているようだ。
あのスンとした顔を啼かせてみたらどんなふうだろうか。
「貴様は何者だッ!」
「通りすがりの、お節介、かな?――――――荊山有山、民を苦しめ集めた財貨で謀反を起こすつもりだったな。その罪、地獄で贖え。」
「くぅうぅうううううう!!!ものども、賊だ!出会え出会え!」
はぁあぁぁあぁぁぁあ!!!!!
かっこいいぃ!
太陽かっこいい!
相手の刃を最小限の動きでスッとかわして、嶺打ちのカウンター。
僕、子どもの頃しかこういうお芝居してないから、格闘シーンは未経験。
でも、僕にはこんなことできそうもない。
おそらく、太陽は本当に強いんだ。
きっと、太陽はこれまでも役がつくたびに、演技を本物にするために、役に近づく努力を怠らない。
素敵………。
「カットォオオオオオオ!!!オッケー!!!!」
「素敵でした。」
「あ、今…。香月、今笑ったよ。ありがとう。」
え……。
「僕、笑えて…。」
「ああ、暑いなぁ。鬘蒸れちゃって。」
スポッと、鬘を脱ぐ。
「夏目さん、お疲れ様でした。殺陣、いつみても凄いですね。」
確かきらきらぷりんすっていう男性アイドルグループのリーダーの、入道アポロ。
若殿衣装の彼が、太陽に並んだ。
太陽のバディ役。いいなあ…。
「あ、こちらが噂の冬木さんですか。冬木香月さん、はじめまして。冬木さんのアニメ観てますよ。演技、参考になります。俺、2.5次元とかもあるので。今度、ゆっくりお話したいです。」
それじゃ、と名刺を渡して、入道さんが退出していく。
「アイドルはいつもキラキラだなあ。」
「太陽もきらきらしてるよ。」
「そう?香月も目が潰れるくらい輝いてるけど…。」
「あー、もうイチャイチャはあとで!」
「秋口。そうだな、汗流したい。スパいこ、スパ。よかったらみんなでスパいきませんか?」
ええーっ!
「いき、たい…。」
豊兄さんを見上げる。
服の裾をつまめば、苦しそうな声がして、オッケーがでた。
夏目太陽、武井一朗太は武家の三男。
のらりくらりと生きているようだが、実は将軍家の若殿様の覚えがめでたく、若殿の命で人知れず武家の闇を葬っている。
俺の役は、この若殿様。
一朗太は碁が上手く、碁の相手として城に上がり、二人になると差し合いながら指令の話になる。
「一朗太、最近山の方で騒ぎがあるようだよ。山猿のボスが実りを独り占めして、他の者が困窮しているようだ。どうやらボス猿は雌も独り占めしているようでね。いつの世も泣きを見るのは下の者だよ。やるせないねぇ。」
「暴動が起きたら里まで被害が出ることも。私は暇なので、見てきましょう。」
「ああ、一朗太頼んだよ。…………くっ。」
「はい。」
「投了だ……。」
がっくりと負かされて毎回場面が切り替わる。
俺だってカッコいい戦闘シーンをやってみたい。
だけど、顔をアップされる若殿様は、いつも最初と最後だけで終わる。
若殿は安全地帯で指令を出して報告を受けるだけなのだ。
良い役は良い役だけどさ!
見せ場ないの!?
見学しているあの声優――――――冬木香月は、落ち着いた様子で見ている。
表情を変えずに。
だが、その瞳は熱を持ってアイツを見ているようだ。
あのスンとした顔を啼かせてみたらどんなふうだろうか。
「貴様は何者だッ!」
「通りすがりの、お節介、かな?――――――荊山有山、民を苦しめ集めた財貨で謀反を起こすつもりだったな。その罪、地獄で贖え。」
「くぅうぅうううううう!!!ものども、賊だ!出会え出会え!」
はぁあぁぁあぁぁぁあ!!!!!
かっこいいぃ!
太陽かっこいい!
相手の刃を最小限の動きでスッとかわして、嶺打ちのカウンター。
僕、子どもの頃しかこういうお芝居してないから、格闘シーンは未経験。
でも、僕にはこんなことできそうもない。
おそらく、太陽は本当に強いんだ。
きっと、太陽はこれまでも役がつくたびに、演技を本物にするために、役に近づく努力を怠らない。
素敵………。
「カットォオオオオオオ!!!オッケー!!!!」
「素敵でした。」
「あ、今…。香月、今笑ったよ。ありがとう。」
え……。
「僕、笑えて…。」
「ああ、暑いなぁ。鬘蒸れちゃって。」
スポッと、鬘を脱ぐ。
「夏目さん、お疲れ様でした。殺陣、いつみても凄いですね。」
確かきらきらぷりんすっていう男性アイドルグループのリーダーの、入道アポロ。
若殿衣装の彼が、太陽に並んだ。
太陽のバディ役。いいなあ…。
「あ、こちらが噂の冬木さんですか。冬木香月さん、はじめまして。冬木さんのアニメ観てますよ。演技、参考になります。俺、2.5次元とかもあるので。今度、ゆっくりお話したいです。」
それじゃ、と名刺を渡して、入道さんが退出していく。
「アイドルはいつもキラキラだなあ。」
「太陽もきらきらしてるよ。」
「そう?香月も目が潰れるくらい輝いてるけど…。」
「あー、もうイチャイチャはあとで!」
「秋口。そうだな、汗流したい。スパいこ、スパ。よかったらみんなでスパいきませんか?」
ええーっ!
「いき、たい…。」
豊兄さんを見上げる。
服の裾をつまめば、苦しそうな声がして、オッケーがでた。
148
お気に入りに追加
381
あなたにおすすめの小説

ある少年の体調不良について
雨水林檎
BL
皆に好かれるいつもにこやかな少年新島陽(にいじまはる)と幼馴染で親友の薬師寺優巳(やくしじまさみ)。高校に入学してしばらく陽は風邪をひいたことをきっかけにひどく体調を崩して行く……。
BLもしくはブロマンス小説。
体調不良描写があります。

【完結】兄の事を皆が期待していたので僕は離れます
まりぃべる
ファンタジー
一つ年上の兄は、国の為にと言われて意気揚々と村を離れた。お伽話にある、奇跡の聖人だと幼き頃より誰からも言われていた為、それは必然だと。
貧しい村で育った弟は、小さな頃より家の事を兄の分までせねばならず、兄は素晴らしい人物で対して自分は凡人であると思い込まされ、自分は必要ないのだからと弟は村を離れる事にした。
そんな弟が、自分を必要としてくれる人に会い、幸せを掴むお話。
☆まりぃべるの世界観です。緩い設定で、現実世界とは違う部分も多々ありますがそこをあえて楽しんでいただけると幸いです。
☆現実世界にも同じような名前、地名、言葉などがありますが、関係ありません。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。


美形×平凡の子供の話
めちゅう
BL
美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか?
──────────────────
お読みくださりありがとうございます。
お楽しみいただけましたら幸いです。

好きなあいつの嫉妬がすごい
カムカム
BL
新しいクラスで新しい友達ができることを楽しみにしていたが、特に気になる存在がいた。それは幼馴染のランだった。
ランはいつもクールで落ち着いていて、どこか遠くを見ているような眼差しが印象的だった。レンとは対照的に、内向的で多くの人と打ち解けることが少なかった。しかし、レンだけは違った。ランはレンに対してだけ心を開き、笑顔を見せることが多かった。
教室に入ると、運命的にレンとランは隣同士の席になった。レンは心の中でガッツポーズをしながら、ランに話しかけた。
「ラン、おはよう!今年も一緒のクラスだね。」
ランは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑み返した。「おはよう、レン。そうだね、今年もよろしく。」

俺の親友のことが好きだったんじゃなかったのかよ
雨宮里玖
BL
《あらすじ》放課後、三倉は浅宮に呼び出された。浅宮は三倉の親友・有栖のことを訊ねてくる。三倉はまたこのパターンかとすぐに合点がいく。きっと浅宮も有栖のことが好きで、三倉から有栖の情報を聞き出そうとしているんだなと思い、浅宮の恋を応援すべく協力を申し出る。
浅宮は三倉に「協力して欲しい。だからデートの練習に付き合ってくれ」と言い——。
攻め:浅宮(16)
高校二年生。ビジュアル最強男。
どんな口実でもいいから三倉と一緒にいたいと思っている。
受け:三倉(16)
高校二年生。平凡。
自分じゃなくて俺の親友のことが好きなんだと勘違いしている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる