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春山一家は天使を見守りたい
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最初に会った時は、まるで自分が大女優かのような振る舞いと装いの、感じの悪い母親兼マネージャーに連れられていた。
あの母親はいけ好かない感じだったけど、本当にルナは性格が良くてかわいくて。
天使のようで。
私は、オーディションで彼を選んだ。
子どものひと夏の冒険を描いた作品には、環境問題や人を思いやる心の大切さを訴えるエッセンスを入れた。
昔のおとぎ話のように、見る人に教訓のような、メッセージを与える作品を作ることを心掛けていた。
しばらくして、彼をあてがきに作品を作ろうと思った矢先、子役を引退したという。
どうしても諦められなくて、彼を探した。
そうして見つけた彼の姿―――――。
髪は無造作に伸ばしっぱなしで、表情は暗く、痩せて、まだ癒えていない痣の痕が細い腕に残って。
あんなに表情豊かだったのに。
聡明で、愛嬌のある子だったのに。
涙があふれて、家に連れ帰った。
「おかえりなさい。ルナ。今日からここがあなたのお家よ。私は豊子。春山燻の奥さん。よろしくね。」
先にメールをしていたから、妻は承知して笑顔で受け入れてくれた。
「うわー、かわいい~~!この子が今日から僕の弟なの!僕弟欲しかったんだぁ!だって薫は一緒にロボットで遊んでくれないんだもん!僕ゆたか。よろしくね!」
「私だってお兄ちゃんよりかわいいーおとうとがほしかったんだもん!わたし、かおる!るな、いっしょにおままごとしようね!」
2人の子どもたちもルナに優しく接してくれた。
それから何年も経ち…。
ルナは芸名を『冬木香月』とし、顔を出さない声優であれば、問題なくその天性の才能を発揮できるようになった。
だが、本当はこんなもんじゃない。
君はあの場所でキラキラ笑っていた。
君がいるはずだった場所を取り戻してあげたい。
「全く、あいつら許せねぇ……。あいつらのせいで俺たちの可愛い天使がっ。今でも…っ。くそ!ぶちのめしてぇ!」
「その気持ちは同意だけども。昔、虐待を隠したのも、有名人のルナが報道で面白おかしく書きたてられるのを避けるためだって、お父さんもいってたでしょ。やろうと思えば住所も特定できるだろうけど、何もしないでよね?ネットで晒すのも無しだからね?父親は今じゃ実家に寄生して、どこにも就職できずに今でもコンビニバイトや夜の工事現場で働いているらしいし。母親は男から男に渡り歩いては捨てられて、今では小さな店のスナックにいきついたみたいよ。十分ざまぁじゃん。ここまで分かればいいよね?ルナの幸せだけを考えましょ。」
「薫。お前、興信所使った?」
「当たり前でしょう?万が一にもルナの前に現れないようにしなくちゃ!敵の情報把握は絶対必要だもの!」
ふふふ。子どもたちもすっかり弟だいすきなお兄ちゃんおねえちゃんだな。
最近、テレビでまたドラマを見るようになったルナは、夏目太陽がお気に入りらしい。
夏目太陽か。
ルナとは違うアプローチをする役者だが、いい役者だ。
ダイニングからリビングのルナを見ていたら、ルナがその桜貝のような唇から呟いた。
「僕も……あのままだったら、彼みたいだったのかな……。この人好きだな…。彼と共演してみたいな…。」
一瞬。
ほんの一瞬だが、ルナの口元が笑った気がした。
きっと本人も気付いていない。
ルナは表情を取り戻せる。
私は、私たちは『夏目太陽』とルナを関わらせることに決めた。
あの母親はいけ好かない感じだったけど、本当にルナは性格が良くてかわいくて。
天使のようで。
私は、オーディションで彼を選んだ。
子どものひと夏の冒険を描いた作品には、環境問題や人を思いやる心の大切さを訴えるエッセンスを入れた。
昔のおとぎ話のように、見る人に教訓のような、メッセージを与える作品を作ることを心掛けていた。
しばらくして、彼をあてがきに作品を作ろうと思った矢先、子役を引退したという。
どうしても諦められなくて、彼を探した。
そうして見つけた彼の姿―――――。
髪は無造作に伸ばしっぱなしで、表情は暗く、痩せて、まだ癒えていない痣の痕が細い腕に残って。
あんなに表情豊かだったのに。
聡明で、愛嬌のある子だったのに。
涙があふれて、家に連れ帰った。
「おかえりなさい。ルナ。今日からここがあなたのお家よ。私は豊子。春山燻の奥さん。よろしくね。」
先にメールをしていたから、妻は承知して笑顔で受け入れてくれた。
「うわー、かわいい~~!この子が今日から僕の弟なの!僕弟欲しかったんだぁ!だって薫は一緒にロボットで遊んでくれないんだもん!僕ゆたか。よろしくね!」
「私だってお兄ちゃんよりかわいいーおとうとがほしかったんだもん!わたし、かおる!るな、いっしょにおままごとしようね!」
2人の子どもたちもルナに優しく接してくれた。
それから何年も経ち…。
ルナは芸名を『冬木香月』とし、顔を出さない声優であれば、問題なくその天性の才能を発揮できるようになった。
だが、本当はこんなもんじゃない。
君はあの場所でキラキラ笑っていた。
君がいるはずだった場所を取り戻してあげたい。
「全く、あいつら許せねぇ……。あいつらのせいで俺たちの可愛い天使がっ。今でも…っ。くそ!ぶちのめしてぇ!」
「その気持ちは同意だけども。昔、虐待を隠したのも、有名人のルナが報道で面白おかしく書きたてられるのを避けるためだって、お父さんもいってたでしょ。やろうと思えば住所も特定できるだろうけど、何もしないでよね?ネットで晒すのも無しだからね?父親は今じゃ実家に寄生して、どこにも就職できずに今でもコンビニバイトや夜の工事現場で働いているらしいし。母親は男から男に渡り歩いては捨てられて、今では小さな店のスナックにいきついたみたいよ。十分ざまぁじゃん。ここまで分かればいいよね?ルナの幸せだけを考えましょ。」
「薫。お前、興信所使った?」
「当たり前でしょう?万が一にもルナの前に現れないようにしなくちゃ!敵の情報把握は絶対必要だもの!」
ふふふ。子どもたちもすっかり弟だいすきなお兄ちゃんおねえちゃんだな。
最近、テレビでまたドラマを見るようになったルナは、夏目太陽がお気に入りらしい。
夏目太陽か。
ルナとは違うアプローチをする役者だが、いい役者だ。
ダイニングからリビングのルナを見ていたら、ルナがその桜貝のような唇から呟いた。
「僕も……あのままだったら、彼みたいだったのかな……。この人好きだな…。彼と共演してみたいな…。」
一瞬。
ほんの一瞬だが、ルナの口元が笑った気がした。
きっと本人も気付いていない。
ルナは表情を取り戻せる。
私は、私たちは『夏目太陽』とルナを関わらせることに決めた。
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