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夏目太陽(冬木視点)
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演じることは好きだ。
別の自分になれることが好きだ。
僕は、昔、『雪村ルナ』という芸名の子役だった。
地方のミスをしていた母親は、芸能界に憧れて上京し、芸能事務所に入ってモデル活動を始めたけれど、思ったように売れることができず、生活のためにキャバクラでホステスをしていた頃、上司の付き添いで来た父と知り合って結婚した。
そこそこ良い商社の商社マンで、僕から見てもカッコイイ見た目の人だった。
結婚して僕が可愛く生まれたものだから、母はすぐに赤ちゃんモデルに応募した。
父や祖父母は反対したらしいけど、母は僕を芸能人にするんだって張り切って、その時の僕は何も考えず、ただ楽しく子役として過ごしてた。
芸能人の僕には友達ができなかったけど、母から求められてうれしかった。
僕の世界には僕と母だけで、僕はそれでも満足していた。
子役の仕事が軌道に乗って、『天才子役』だなんて騒がれ始めた頃。
両親は、僕のことで喧嘩をするようになった。
芸能人として大成することを夢見るステージママの母。
芸能界なんてやめて、いい大学に入っていい仕事についてほしい父。
それからしばらくして、父の働く商社が潰れて父は解雇されて。
思うように再就職できず、今度は父が僕の収入をあてにするようになった。
離婚しようとする両親は僕を取り合ってもめて。
僕は泣いたり、笑ったりできなくなって。
子役が出来ない僕なんか『要らない子』だって。
殴られたりけられたりするようになって。
両親から捨てられて。
芸能界を辞めたのに、たった一回仕事でお世話になった春山監督が養子にしてくれた。
奥さんは僕のために小さな芸能事務所を立ち上げてくれた。
社長になった豊子さんは初めマネージャー兼任で、『声優』冬木香月のマネージャー。
声だけなら、大好きな仕事をまだ続けられたから。
監督と豊子さんには双子の兄妹の実子がいて、大好きなお兄さんお姉さん。
お兄さんの豊さんが、豊子さんを継いで僕のマネージャーになった。
お姉さんの薫さんは、監督の助手。
何気なくテレビをつけると、今日も夏目太陽が出てる。
繊細な演技は凄いと思う。
きっとこの人は、人物像をしっかりつかんでる。
セリフにはない、キャラクターのバックボーンまで考えて演技してる。
僕と入れ替わりに天才子役と言われるようになった彼。
「僕も……あのままだったら、彼みたいだったのかな……。この人好きだな…。彼と共演してみたいな…。」
ぽつりとした呟きを誰かが聞いてたのかは分からないけど、監督の新作映画に僕が呼ばれて。
相手役は、あの夏目太陽だって!
きゃああああ!
製作発表の日、初めて会える彼が待ち遠しくて。
やっと会えた彼はやっぱり素敵だった!
「冬木香月です。よろしくお願いします。」
緊張して、そんな言葉しか出なかった。
僕は顔に感情が出ないから、気づかないだろうけど、とってもドキドキしていたんだよ?
緊張で手汗が出ちゃってどうしようって思ったけど、彼の手も濡れていて安心しちゃった。
しっかりしてて。
研究熱心で。
仕事に真摯で。
僕より背が高くて、大人っぽくてすてき。
なんて幸せなんだろう。
彼の笑顔に僕も笑顔で返せたら、いいのに。
別の自分になれることが好きだ。
僕は、昔、『雪村ルナ』という芸名の子役だった。
地方のミスをしていた母親は、芸能界に憧れて上京し、芸能事務所に入ってモデル活動を始めたけれど、思ったように売れることができず、生活のためにキャバクラでホステスをしていた頃、上司の付き添いで来た父と知り合って結婚した。
そこそこ良い商社の商社マンで、僕から見てもカッコイイ見た目の人だった。
結婚して僕が可愛く生まれたものだから、母はすぐに赤ちゃんモデルに応募した。
父や祖父母は反対したらしいけど、母は僕を芸能人にするんだって張り切って、その時の僕は何も考えず、ただ楽しく子役として過ごしてた。
芸能人の僕には友達ができなかったけど、母から求められてうれしかった。
僕の世界には僕と母だけで、僕はそれでも満足していた。
子役の仕事が軌道に乗って、『天才子役』だなんて騒がれ始めた頃。
両親は、僕のことで喧嘩をするようになった。
芸能人として大成することを夢見るステージママの母。
芸能界なんてやめて、いい大学に入っていい仕事についてほしい父。
それからしばらくして、父の働く商社が潰れて父は解雇されて。
思うように再就職できず、今度は父が僕の収入をあてにするようになった。
離婚しようとする両親は僕を取り合ってもめて。
僕は泣いたり、笑ったりできなくなって。
子役が出来ない僕なんか『要らない子』だって。
殴られたりけられたりするようになって。
両親から捨てられて。
芸能界を辞めたのに、たった一回仕事でお世話になった春山監督が養子にしてくれた。
奥さんは僕のために小さな芸能事務所を立ち上げてくれた。
社長になった豊子さんは初めマネージャー兼任で、『声優』冬木香月のマネージャー。
声だけなら、大好きな仕事をまだ続けられたから。
監督と豊子さんには双子の兄妹の実子がいて、大好きなお兄さんお姉さん。
お兄さんの豊さんが、豊子さんを継いで僕のマネージャーになった。
お姉さんの薫さんは、監督の助手。
何気なくテレビをつけると、今日も夏目太陽が出てる。
繊細な演技は凄いと思う。
きっとこの人は、人物像をしっかりつかんでる。
セリフにはない、キャラクターのバックボーンまで考えて演技してる。
僕と入れ替わりに天才子役と言われるようになった彼。
「僕も……あのままだったら、彼みたいだったのかな……。この人好きだな…。彼と共演してみたいな…。」
ぽつりとした呟きを誰かが聞いてたのかは分からないけど、監督の新作映画に僕が呼ばれて。
相手役は、あの夏目太陽だって!
きゃああああ!
製作発表の日、初めて会える彼が待ち遠しくて。
やっと会えた彼はやっぱり素敵だった!
「冬木香月です。よろしくお願いします。」
緊張して、そんな言葉しか出なかった。
僕は顔に感情が出ないから、気づかないだろうけど、とってもドキドキしていたんだよ?
緊張で手汗が出ちゃってどうしようって思ったけど、彼の手も濡れていて安心しちゃった。
しっかりしてて。
研究熱心で。
仕事に真摯で。
僕より背が高くて、大人っぽくてすてき。
なんて幸せなんだろう。
彼の笑顔に僕も笑顔で返せたら、いいのに。
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