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冬木香月

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冬木香月。

しゅっとして、美形で、クール…。

言葉少なに挨拶をして握手をしたけれど、それだけで。
製作発表会でも、無表情に淡々と挨拶をこなすだけ。


カメラは慣れてないのかな?

少し離れたところにいる彼のマネージャーは、ハラハラしているようだ。 


キャラ設定見たけど、俺の役はちょっとおとなしめのフツメン(顔は整っていてかわいい系)で?あっちは明るくてグイグイ俺様キャラだったよな?

キャラと真逆だなあ。

まあ、俺もそういう仕事あるけど。こういう自分とは真逆な役の方が、演じていて楽しいんだよ。




だけど、なんだか引っかかる。

あの顔、どっかで見た気がする。

どこだったかなあ………。








『きゃ~!夏目太陽がBL!』
『冬木香月☓夏目太陽とか…耳が幸せすぎでしょ!』
『夏目太陽もイイ声だもんね!だけど声優大丈夫かなあ。やっぱアニメの声は本職がさぁ…。』
『冬木様ってこんなに美形だったんだ…。夏目太陽に負けてないよ!なんで顔出しNGだったんだろ。』
『ヤバいファンでもいたんじゃないの?』
『冬木様ついに声優以外もいくのかな?』
『やだ…っ中の人もキャラも美形×美形とか……冬夏しか勝たん。』



「うーん。ネットは概ね好意的、で悪くない。けど、見事に『冬木香月』だな~。」

「太陽、夕食中くらいスマホは置きなさい。」
「そうだぞ。そんなの気にしたって仕方ない。良い仕事をすれば良い評価はついてくる。」

なんてことない普通の住宅地にあるマンションの一室が俺の家で、今でも両親と生活している。
母親は病院事務で父親は銀行員。
夏目家は『芸能一家』ではない。
ちょっとぽっちゃりしているけど、今でも可愛らしく、若い頃美人だった名残のある母親が、父親にカレーのお代わりを入れた。
父親も今では腹が出てるけど、昔はイケメンエリート銀行員ってモッテモテだったらしい。
急な腹痛で訪れた救急外来の会計で二人は出会い、互いに一目ぼれだっていうんだから、すごいよなー。

「父さん母さん、仕方ないんじゃない?芸能界は人気商売だからねー。エゴサしたくもなるんでしょ。」
俺にそっくりの2つ下の弟は、俺と違って堅実派で、将来は国家公務員を目指している、最難関大学の学生。
騒がれるのが嫌いだから、外では伸ばした前髪をおろしっぱなしにして、伊達眼鏡をかけている。

「青空!お兄ちゃん傷ついちゃう!」

「そんな簡単に傷つくならとっくに芸能界なんて引退してるでしょ。しっかしみんな騙されてるよなぁ。どこにでもいるごく普通の人間なのに。」

「太陽は頑張ったもの。青空が『勉強』だったように、太陽は『芸能』だったのよね。何かコレ!って見つけたらとことんいくのは同じよ。」

「動機は不純だったけどな。ほら、誰だっけ。あ、『雪村ルナ』!」

「あー、あの子凄かったわよねぇ。あの子に憧れて子役になりたいって言うから養成所に入れたのよねぇ。まさか本当にうちの子がゲイノウジンになるなんて思わなかったけど!」

「本当に天才子役って言うのは、兄さんじゃなくてあの子みたいな子だよな~。なんで芸能界やめちゃったんかね。」

「才能があるのと、やりたいのは別なのよ。それに、家庭のご事情もあるかもしれないし。」

「そうだな。うちは子どもがまっとうに生きて幸せになるなら何でもいいってスタンスだが、子役は子どものうちだけでって考えるご家庭も多いそうだ。」

うーん。俺だって残念だなって思ってるよ。
一回くらい共演してみたかった。
俺がテレビやCMによばれるようになったころには、彼はこの世界からいなくなっていたから。


「じゃあご馳走様。台本読んだりいろいろしてるから部屋は開けないでね。」








――――――――――惑星エターナル

俺の役、黒影洸(くろかげほのか)。

身長 172cm 中肉中背 黒髪黒目。やや童顔。
ちょっとだけいい学校の、真ん中くらいの成績で、特段取り柄があるわけじゃない普通の高校生男子。
今時のおしゃれをして整えればそれなりに見目はいいけど、おしゃれの仕方がイマイチ分かってなくて垢抜けない。
実はイジメられていたけど天然で気づいていなかった。

クラスカースト上のイジメっ子である天道勇気と一緒に異世界転移され、気がつけば城内、陛下面前。
本当は自分が『勇者』だったが、勇気に立場をかすみ取られ、市井に放り出される。


ふむ。
今流行りの異世界転生、テンプレかな?
まあ導入はわかりやすい方がいいからな。


現代のパートからモブにまで心理描写が細かいのは、流石、春山監督。


「……どうしよう。これから。」

日暮れが近くなり、住む場所もなく、あてもなく。

お腹が空いて。

仕方なく城から餞別に渡された僅かなお金を持って、匂いを頼りに屋台を見つけて入る。

街角には、露出の多い服を着た男女がパラパラ立ち始め、もしかしたら自分もそうなってしまうのかと背筋が寒くなる。




ここにきても勇気を恨まないこの子は、きっと何不自由なく愛情深く育てられたに違いない。
うちと近いのかもな。
だとすると、台本にセリフはなくても、胸の奥ではもう会えない家族を思って泣くだろう。


そこにあいつが来るわけだ。



―――おっちゃん、肉串3つ!
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