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デビュタントの前に
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「あっ…。あのっ。ハーウェイ=フリューゲル様っ。」
お手洗いで一人になった時に、マチルダ嬢に声をかけられた。
「君、また、男子トイレの前で待ち伏せしていたの…?麗しの公爵令嬢ともあろう人が。」
「だって、お話しできるタイミングがないんですもの…。ずっと殿下と一緒なんですから。おひとりの時にお話したいのですもの。仕方ないじゃないですか。」
私だって恥ずかしいんです!
痴女みたいじゃないですか!
「この間のプレゼントは助かりましたよ。陛下たちからお礼があったでしょう?」
「あなたのお役に立てたのなら、それが一番嬉しいんです。それで…っ!」
「もうプレゼントはやめてください。携帯電話は殿下のためにということだったので受け取りましたが…。次からは正式に王宮を通して…。」
「そう!じゃないんです!!」
マチルダの目が潤む。
ぐっとハーウェイは息をのんだ。
「…あなたは、言われてきたみたいな人ではないわ。本当は優しい人よ。殿下たちが男同士で婚約するから、殿下狙いを引きずると行き遅れるよ、って遠回しに助言もくれたわ。私………。あなたをお慕いしているの。」
「私がメス豚って罵っても退かないの?」
「退かないわ。どうせ本心じゃないもの。言いたければ言えばいいわ。」
とん。
壁に手を突いて、ハーウェイはマチルダの顔を間近で見た。
口づけをされるのではないか、そういう距離。
この子の魂はきれいだな。
マチルダはぽーっと顔を赤らめている。
「私は生まれつき視力が極端に悪くて、この距離じゃなければ顔も見えない。だから、他の人より必死に勉強や剣の腕を磨いて、殿下の側近を務めてきた。宰相職は継がないし、公爵位も継がない。もちろん領地も。卒業後は殿下の嫁入りについてウインター王国で城勤めをする予定だ。」
どうする?
マチルダは、まさか何でもそつなくこなすハーウェイにそんな障がいがあったなんて寝耳に水で、将来の話も。うすうす予感していたとはいえ、衝撃で目を丸くした。
「君がしたかったのは、私をエスコート役に誘うことだよね。デビュタントの。」
「………ええ。そうよ。」
「こうしよう。君には携帯電話のお礼を兼ねて、水色のドレスと、ピンク色のドレスを贈るよ。もし、君が、今私が言ったことを踏まえても私と添い遂げたいと。家を捨てて爵位も継げない男を隣国まで追っていくというのなら、水色のドレスを着てきて。私は会場の門の前で待ってるから。」
お手洗いで一人になった時に、マチルダ嬢に声をかけられた。
「君、また、男子トイレの前で待ち伏せしていたの…?麗しの公爵令嬢ともあろう人が。」
「だって、お話しできるタイミングがないんですもの…。ずっと殿下と一緒なんですから。おひとりの時にお話したいのですもの。仕方ないじゃないですか。」
私だって恥ずかしいんです!
痴女みたいじゃないですか!
「この間のプレゼントは助かりましたよ。陛下たちからお礼があったでしょう?」
「あなたのお役に立てたのなら、それが一番嬉しいんです。それで…っ!」
「もうプレゼントはやめてください。携帯電話は殿下のためにということだったので受け取りましたが…。次からは正式に王宮を通して…。」
「そう!じゃないんです!!」
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ぐっとハーウェイは息をのんだ。
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「私がメス豚って罵っても退かないの?」
「退かないわ。どうせ本心じゃないもの。言いたければ言えばいいわ。」
とん。
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この子の魂はきれいだな。
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どうする?
マチルダは、まさか何でもそつなくこなすハーウェイにそんな障がいがあったなんて寝耳に水で、将来の話も。うすうす予感していたとはいえ、衝撃で目を丸くした。
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「………ええ。そうよ。」
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