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兄は妹を捨てる

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「ふぅ………。」


「坊ちゃま、お疲れさまでした。」

「もう辞めてよ。カルマンは死んだんだから。」



家令に終わった書類を預け、息をつく。

ルティは王命を守り、管理人として領地を切り盛りしている。

黒髪はわずかにのび、体はわずかに丸みを帯びて、ますます妹に似ている気がする。

暴かれた女の部分が覚醒し、その代わり精は出なくなった。

女遊びはしなかったが、年頃の若者らしく溜まったら自慰くらいはしていたのに、前を触ってもそれは出てこない。

だが、好都合だ。

家族があんなことをやらかして、自分が子を持つわけにはいかない。

どこぞに種を落とすことなど出来ない方が、国にとってもよいことだ。

初潮だってきたが、ならず者たちとの行為はただただ痛くて、怖くて、あんなこと二度とごめんだ。



バサバサ。



羽音に気づき、ルティが窓を見れば、立派な隼が窓を軽くつついていた。

「人に慣れた隼だな。ペットが逃げたのか?おやつのナッツは食べるだろうか。」


窓を開けると隼は部屋に入ってくる。

それはみるみる人になる。


「魔女の子よ。ウイッチが戻ってきた。」







それは私の役目。


隼の人は他にやることがあると言って、また飛び立っていった。

「確か、確か母の部屋にっ!」

鍵は母しか持っていない。


納屋にあった斧で扉を壊す。


「坊…………ルティ様!何を!」

「妹が、あの女が戻ってきた!あんな女が王妃になどなれば国の危機だ!気に入らない奴は容赦なく始末するだろう!それを阻止するんだ!母が触らせなかった大鏡が魔女の弱点らしい!」
駆けつけた家令に扉を壊しながら叫ぶ。


「なんと!それではこの私も!」

「いや、ジョルジュは屋敷の者を連れて避難していてくれ!もし私が失敗したら、ホワイト伯爵家のレオを頼って欲しい!ホワイト伯爵家は隣の領地だ!きっと助けてくれるから!」


「は、はいっ」

騒ぎを聞きつけて集まりだした使用人たちも連れて、家令のジョルジュは走っていった。

これでいい。


はっ。はっ。


力が弱くなってるな…。
痺れてきた。


だけど、もうすぐ。


やっと開いたそこは、鏡を中心に禍々しい気配が漂っている。



「この鏡を…壊せば…っ。」


斧を振り上げる。


「!!!」

鏡が鈍く光り、ぽこぽこと闇だまりのようなものが、鏡の淵から滲み出て、ルティの腕を締め上げた。




<サ……セナイ…!!!>



「ルティ!!!!!」

「レオ!?」


腕が解放され、レオの腕の中にルティはいた。
闇だまりを、レオの剣が斬り裂く。


<グウウウ!>


「私もいるからね?」

アース=ホワイト伯爵も、剣を握って駆けつけた。


「レオ、何故…。」

いくらなんでも早すぎないか?



「隼がこちらに寄ってくれたからね。ルティのためなら来るよ。」


<グウウウウウウウウウウ!>

ぽこぽこと闇だまりがあふれ、鏡が抵抗する。


「さぁ、みんなでこいつを破壊しよう。私とレオが邪魔者は片づける。」

「はい!」



兄は今、家族と、妹と完全に決別した。
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