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ホワイト伯爵家のレオ
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「はあ…………。アップル公爵家を断罪できたはいいが、まさかスノウが影をしていたとは。いまだに結婚なんてしないで出世して伯爵家を盛り立てるとか言ってるし。公爵にならないなんて言うし。」
時間は朝に遡る。
ホワイト伯爵家では、早々に朝食を済ませて学園に向かったスノウを見送った伯爵が頭を抱えていた。
ミルクティー色の髪は綺麗にセットされ、鍛えられた肉体はシャツを格好よく若々しく見せる。
端麗な顔に疲労の影がおちた。
「あの子ったら、いつまでも私たちに気兼ねして。あの子の幸せはいつか公爵家に戻ることだと思っていましたけど、勝手な思い込みだったのかしら。」
妻のセレニティがお茶を淹れる。
本当の当主であるセレニティの髪は銀髪で、アイスブルーの瞳が美しい。
母親似の息子のレオも席に着いた。
息子は当主補佐の仕事をしつつ、城勤めをしている。
剣の腕も立つが、息子は法廷や刑罰に携わる仕事をしている。
「長すぎたんですよ。もっと早く断罪してスノウを自由にできれば変わったでしょうに。大体、ゆくゆく公爵家に戻すつもりだったからとはいえ、体のせいで捨てられて養子になったと育てられれば、いくら私たちが愛情深く育てたとして自分への評価が低くなるのは仕方ないでしょう。長くなればなるほどそれは変われませんよ。だいたい、何のために私が法廷官吏になったとお思いで?しがない伯爵家であるうちが公爵家を相手取るためでしょうに。」
深いため息が槍のように刺さる。
「そんなこと言われても、あいつらは狡猾で。失敗は許されないし。物証があるから出せれば勝ちだがその前に握りつぶされたら終わるし。そのために陛下に進言する前に仲間が必要だったし。」
ウイッチがやらかしていたから、被害にあった家にウイッチが黒幕だと証明したら、仲間になってくれた。
ビューア侯爵家にカナリア伯爵家、クランベリー伯爵家。
彼らは殿下の卒業パーティーで断罪しようと言って、陛下と打ち合わせていた。
王太子殿下が自ら調べ上げて、我々の出る幕なくやってくれたが。
「次期騎士団長だったかもしれない割に小心者なんだから。母上にもらってもらえて正解ですよね。」
「うぐ。」
いくら腕が立ったとしても、そんなようでは指揮官に向かない。
息子からズバリ言われてぐうの音も出ない。
「…………でも、学園に通わせたり、社交をさせなかったのは正解でしたよ。あの顔をみたら、あいつらに気づかれていたでしょうから。」
うん。ほめて?
「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいウチのスノウに一片の危険もあってはいけませんからね。ああ、スノウ。結婚なんかしないで家にいたいというのなら、私のお嫁さんになったらどうでしょう。」
「まあ、それはいい考えだわ!仲が良い兄弟ですもの!」
我が息子の愛が重い。
ガクッと肩がおちた。
私はレオ。
レオ=ホワイト。
ダークブロンドと呼ばれる銀髪は肩甲骨の長さではためき、黒の法衣は威厳を感じさせる。
見張りの衛兵に一礼をし、レオは職権で城の地下に降りた。
「お前はッ」
薄暗い地下牢。
清潔に保たれているが、娯楽の類は一切ない。
粗末な空間に粗末な囚人服。そして粗末な食事。
かつてアップル公爵としてこの国の貴族社会を牛耳っていた男は、レオの姿を見るなり牢の鉄の柵を掴んだ。
「やあ。タルト。やっとお似合いの姿になったね。」
「………っ、お前はッ。」
黒髪の美丈夫は見る影もない。白髪が少し増えたかな?痩せた?やつれたのかな。
「兄公爵の殺害とその夫人の傷害致死。息子の殺害未遂。国への虚偽の報告。脱税。犯罪組織との黒いつながり。ぜんぶ、ぜ~~~んぶ。フフッ、分かってるからね。うちの可愛い天使は、どこに出しても恥ずかしくない、それこそ王妃になることだって公爵として領地経営をすることだって今すぐできる逸材だけどね。公爵よりうちでうちのために働きたいんだって。なんていい子なんだろうって思わない?そこのメス豚とはえらい違いじゃない。」
「メス豚とは何よ!」
手入れをされていない絡まった黒い髪を振り乱して、すっかり汚れた女が叫ぶ。
おやおや美貌が台無しだ。
「メス豚じゃなければ悪魔だよ。自分が王太子の妃になりたいからって、ライバルになりそうな令嬢を片っ端から襲って排除するなんて。被害者たちの家からの申し入れもあってね。君にはただ処刑されるだけではない、きつい罰が待っているからね。お楽しみに。」
「……私は。私と母はどうなるんだ。」
暗闇から男が出てきた。
黒髪の美しい男。アップル公爵家の長男だった男。私の同級生。カルマン。
「君の母親も残念ながらタルトの共犯者だ。救えない。だが、当時幼児だった君自体は何もしていない。妹の犯罪も妹だけの所業だ。………今日ここに来たのもその要件だよ、カルマン。君だけは処刑を免れることができる。両親と妹を捨てることができるのなら。両親の悪事を君は知らない場所にいただろう。後継だからわざとそう育てたのだろうがね。君はまともだ。」
カルマンはふるふると首を横に振った。
「そうか。」
レオはカツカツと靴音を鳴らして、また地上へ戻った。
時間は朝に遡る。
ホワイト伯爵家では、早々に朝食を済ませて学園に向かったスノウを見送った伯爵が頭を抱えていた。
ミルクティー色の髪は綺麗にセットされ、鍛えられた肉体はシャツを格好よく若々しく見せる。
端麗な顔に疲労の影がおちた。
「あの子ったら、いつまでも私たちに気兼ねして。あの子の幸せはいつか公爵家に戻ることだと思っていましたけど、勝手な思い込みだったのかしら。」
妻のセレニティがお茶を淹れる。
本当の当主であるセレニティの髪は銀髪で、アイスブルーの瞳が美しい。
母親似の息子のレオも席に着いた。
息子は当主補佐の仕事をしつつ、城勤めをしている。
剣の腕も立つが、息子は法廷や刑罰に携わる仕事をしている。
「長すぎたんですよ。もっと早く断罪してスノウを自由にできれば変わったでしょうに。大体、ゆくゆく公爵家に戻すつもりだったからとはいえ、体のせいで捨てられて養子になったと育てられれば、いくら私たちが愛情深く育てたとして自分への評価が低くなるのは仕方ないでしょう。長くなればなるほどそれは変われませんよ。だいたい、何のために私が法廷官吏になったとお思いで?しがない伯爵家であるうちが公爵家を相手取るためでしょうに。」
深いため息が槍のように刺さる。
「そんなこと言われても、あいつらは狡猾で。失敗は許されないし。物証があるから出せれば勝ちだがその前に握りつぶされたら終わるし。そのために陛下に進言する前に仲間が必要だったし。」
ウイッチがやらかしていたから、被害にあった家にウイッチが黒幕だと証明したら、仲間になってくれた。
ビューア侯爵家にカナリア伯爵家、クランベリー伯爵家。
彼らは殿下の卒業パーティーで断罪しようと言って、陛下と打ち合わせていた。
王太子殿下が自ら調べ上げて、我々の出る幕なくやってくれたが。
「次期騎士団長だったかもしれない割に小心者なんだから。母上にもらってもらえて正解ですよね。」
「うぐ。」
いくら腕が立ったとしても、そんなようでは指揮官に向かない。
息子からズバリ言われてぐうの音も出ない。
「…………でも、学園に通わせたり、社交をさせなかったのは正解でしたよ。あの顔をみたら、あいつらに気づかれていたでしょうから。」
うん。ほめて?
「かわいいかわいいかわいいかわいいかわいいかわいいウチのスノウに一片の危険もあってはいけませんからね。ああ、スノウ。結婚なんかしないで家にいたいというのなら、私のお嫁さんになったらどうでしょう。」
「まあ、それはいい考えだわ!仲が良い兄弟ですもの!」
我が息子の愛が重い。
ガクッと肩がおちた。
私はレオ。
レオ=ホワイト。
ダークブロンドと呼ばれる銀髪は肩甲骨の長さではためき、黒の法衣は威厳を感じさせる。
見張りの衛兵に一礼をし、レオは職権で城の地下に降りた。
「お前はッ」
薄暗い地下牢。
清潔に保たれているが、娯楽の類は一切ない。
粗末な空間に粗末な囚人服。そして粗末な食事。
かつてアップル公爵としてこの国の貴族社会を牛耳っていた男は、レオの姿を見るなり牢の鉄の柵を掴んだ。
「やあ。タルト。やっとお似合いの姿になったね。」
「………っ、お前はッ。」
黒髪の美丈夫は見る影もない。白髪が少し増えたかな?痩せた?やつれたのかな。
「兄公爵の殺害とその夫人の傷害致死。息子の殺害未遂。国への虚偽の報告。脱税。犯罪組織との黒いつながり。ぜんぶ、ぜ~~~んぶ。フフッ、分かってるからね。うちの可愛い天使は、どこに出しても恥ずかしくない、それこそ王妃になることだって公爵として領地経営をすることだって今すぐできる逸材だけどね。公爵よりうちでうちのために働きたいんだって。なんていい子なんだろうって思わない?そこのメス豚とはえらい違いじゃない。」
「メス豚とは何よ!」
手入れをされていない絡まった黒い髪を振り乱して、すっかり汚れた女が叫ぶ。
おやおや美貌が台無しだ。
「メス豚じゃなければ悪魔だよ。自分が王太子の妃になりたいからって、ライバルになりそうな令嬢を片っ端から襲って排除するなんて。被害者たちの家からの申し入れもあってね。君にはただ処刑されるだけではない、きつい罰が待っているからね。お楽しみに。」
「……私は。私と母はどうなるんだ。」
暗闇から男が出てきた。
黒髪の美しい男。アップル公爵家の長男だった男。私の同級生。カルマン。
「君の母親も残念ながらタルトの共犯者だ。救えない。だが、当時幼児だった君自体は何もしていない。妹の犯罪も妹だけの所業だ。………今日ここに来たのもその要件だよ、カルマン。君だけは処刑を免れることができる。両親と妹を捨てることができるのなら。両親の悪事を君は知らない場所にいただろう。後継だからわざとそう育てたのだろうがね。君はまともだ。」
カルマンはふるふると首を横に振った。
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