惑星エトー神の召喚と裏切りの王ー

本編

閑話 あなたに会いたい② 〜別れ〜

ジャンは敵の人だけど、とてもいい人だった。


「俺さ、貧しかったけど勉強はできたんだ。母さんや弟や妹たちを楽させたくて、しつこく大人について回って読み書き計算を覚えた。ビスケット財団の奨学金で大学を出て、技術者になった。」

夜の薄明かり。

月の下でジャンは煙草をふかした。


「本当は、移民船に家族は乗れなかったんだ。船の容量に限りはあるから、地球人は金持ちや才能があったり、認められた、選ばれた者しか乗せてもらえない。ヴィクトール様が………乗せて下さったんだ………。だから、俺はっ。」


裏切れない。


ヴィクトール様を。


「俺、帰らなきゃならなくなった。シグマ。だから。」


ふっと、後ろから腕がのびて抱きしめる。



「だいて。ジャン。最後だから。」

「何いってんだ。若い娘が。」

「僕、子どもじゃないよ。好きなの、ジャンが。その思い出でこれから生きていく。頑張れるから。」

それに、ジャンだってココ、固くしてるくせに。
少しは意識してくれてるよね。


「後悔しても知らねえぞ！」

「しないよ。」



翌朝、ジャンと別れて。

ジャンが偽造したIDで街で暮らし始めて。

自分の中に命が宿ったことに気づいた。



もう一度だけ、あいたい。

この子を産むことだけ、報告したい。


だって、離れていても、僕たちは夫婦だから。


去り際に渡されたペアロケット。

ぐっと握りしめながら、１日が終わる。