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本編
閑話 あなたに会いたい① ~出会い~
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「よお、クルス!今日も一緒に修行付き合ってくれよ!」
「またかよ、シグマ。いいぜ、今日俺が勝ったら、勝ち越しだな!」
「いーや、勝つのは俺だね!」
騎士の里では、小さな子どもから剣を鍛える。
隣に住んでいる幼馴染の男の子と、訓練用の木剣を持って駆けていく娘を見て、母親はため息をついた。
「全くもう、シグマったら。剣の訓練はいいけど、いつまでも男の子みたいなんだから。」
そして、それが母子の最期の別れとなった。
「なんかおかしい。………地球人だ!こんなところまでっ。」
地球人が裏切って、彼らの軍隊が各地で紛争を起こしている。
騎士の里の者として、今は身を隠しながらも、牙を研ぎ、いつか行方不明の王子を見つけて、国を再興しようと。
皆でそう思って剣のうでを磨いていたのに。
「あんなやつら、返り討ちにした……んだよな?」
様子を窺い、不安が胸をよぎるシグマに、クルスは振り返った。
「俺がちょっくら様子をみてくるよ。シグマはこのへんに隠れてな。」
「……あっ!ちょっ…。」
そして、クルスも帰ってこなかった。
時が経ち、夜になって、地球人の軍人たちもいなくなったのを見計らってから、里へ行った。
里はボロボロで、家は打ち壊され、焼け野原になっていた。
「おかあぁさん! おとうさんっ! じっちゃ! ば…ちゃ!!! くるすっ!」
泣きながら叫んでも、誰も返事をしない。
分かってた。
血の匂い、肉の匂い、静けさ。
家の跡で、里が大事にしていた『月の剣』を見つけた。
王家の騎士に選ばれた者に与えられる特別な剣。
これを振るえる剣士になることが夢だったし、クルスとの競争だった。
涙を拭って剣を背に抱え、焼け跡から食べられそうなものとお金に替えられそうな貴金属を集めて、その場をたとう、とした。
「お前、なにやってんだ?」
白衣の男。
肌の色が濃くて、髪の毛がくるくるしている。
色のついた眼鏡をつけた男が、こっちを見ている。
地球人。
「博士!なんかありましたか!?」
博士と呼ばれたその男は、とっさに俺のうでを引いて、白衣の中に隠した。
「?なんですか。子ども?」
軍人が話しかける。
「いやぁあ、俺が可愛がってる子なんだけど、町からついてきちゃったみたいでさー。俺の仕事に興味ありアリみたいなのよ。危険だから、連れて帰ろうと思ったとこだよ。」
じゃ、やつらの遺留品の捜索頼むねぇ~!
「博士も大変っすねー。じゃ、おつかれさました!」
白衣に剣ごと隠されたまま、俺を連れ帰った男は、大きなキャンピングカーに俺を押し込んだ。
中には、よく分からない装置がたくさんある。
「………なんで俺を助けたんだよ。」
「なんでかな。自分を見てるみたいだったからかな。俺もスラム上がりだったから…。」
男の名前はジャン=メッシュ。
立場上、上の人に逆らえないが、本当はエト人の虐殺なんて嫌なのだそうだ。
多くを救うことはできないが、俺だけでも救えたからよかったと言った。
「幸い、エト人は地球人と見た目は区別つかないからよ。お前、俺の知り合いの子ってことにするから。安全そうなとこにつくまで、俺と一緒にいろよ。いいか?俺の側が一番安全なんだからな!」
彼は科学者で、あちこちキャンピングカーで採取して回っては、新しいものづくりの研究をしているのだそうだ。
「まずは風呂だな。狭いけどちゃんと浴槽があるんだぞ。待ってろ、沸かしてくるから。」
「わかった。」
できたぞー。 気の抜けた合図を聞いて、服を脱いで入る。
「は?え?あ。わあぁぁ!」
気の抜けた声で叫ばれた。
なんでだ。
ささーっと風呂場から出て、外から情けない声が聞こえてくる。
『おまえ、女の子だったのか!!』
「そうだよ。」
『まじかー。まじかぁぁあ。』
「不都合でもあんのかよ。」
『ありまくりだろ?若い男と女がだな。ていうより、俺、なんていうんじゃありません!』
「別にいいだろう。女のくせに、って思ってるんだろ!」
『百歩譲って、僕、にしなさい!ぼ・く!俺、はちょっと乱暴すぎる!』
なんか面白い男。
これが僕たちの出会いであり、二人の生活の始まりだった。
「またかよ、シグマ。いいぜ、今日俺が勝ったら、勝ち越しだな!」
「いーや、勝つのは俺だね!」
騎士の里では、小さな子どもから剣を鍛える。
隣に住んでいる幼馴染の男の子と、訓練用の木剣を持って駆けていく娘を見て、母親はため息をついた。
「全くもう、シグマったら。剣の訓練はいいけど、いつまでも男の子みたいなんだから。」
そして、それが母子の最期の別れとなった。
「なんかおかしい。………地球人だ!こんなところまでっ。」
地球人が裏切って、彼らの軍隊が各地で紛争を起こしている。
騎士の里の者として、今は身を隠しながらも、牙を研ぎ、いつか行方不明の王子を見つけて、国を再興しようと。
皆でそう思って剣のうでを磨いていたのに。
「あんなやつら、返り討ちにした……んだよな?」
様子を窺い、不安が胸をよぎるシグマに、クルスは振り返った。
「俺がちょっくら様子をみてくるよ。シグマはこのへんに隠れてな。」
「……あっ!ちょっ…。」
そして、クルスも帰ってこなかった。
時が経ち、夜になって、地球人の軍人たちもいなくなったのを見計らってから、里へ行った。
里はボロボロで、家は打ち壊され、焼け野原になっていた。
「おかあぁさん! おとうさんっ! じっちゃ! ば…ちゃ!!! くるすっ!」
泣きながら叫んでも、誰も返事をしない。
分かってた。
血の匂い、肉の匂い、静けさ。
家の跡で、里が大事にしていた『月の剣』を見つけた。
王家の騎士に選ばれた者に与えられる特別な剣。
これを振るえる剣士になることが夢だったし、クルスとの競争だった。
涙を拭って剣を背に抱え、焼け跡から食べられそうなものとお金に替えられそうな貴金属を集めて、その場をたとう、とした。
「お前、なにやってんだ?」
白衣の男。
肌の色が濃くて、髪の毛がくるくるしている。
色のついた眼鏡をつけた男が、こっちを見ている。
地球人。
「博士!なんかありましたか!?」
博士と呼ばれたその男は、とっさに俺のうでを引いて、白衣の中に隠した。
「?なんですか。子ども?」
軍人が話しかける。
「いやぁあ、俺が可愛がってる子なんだけど、町からついてきちゃったみたいでさー。俺の仕事に興味ありアリみたいなのよ。危険だから、連れて帰ろうと思ったとこだよ。」
じゃ、やつらの遺留品の捜索頼むねぇ~!
「博士も大変っすねー。じゃ、おつかれさました!」
白衣に剣ごと隠されたまま、俺を連れ帰った男は、大きなキャンピングカーに俺を押し込んだ。
中には、よく分からない装置がたくさんある。
「………なんで俺を助けたんだよ。」
「なんでかな。自分を見てるみたいだったからかな。俺もスラム上がりだったから…。」
男の名前はジャン=メッシュ。
立場上、上の人に逆らえないが、本当はエト人の虐殺なんて嫌なのだそうだ。
多くを救うことはできないが、俺だけでも救えたからよかったと言った。
「幸い、エト人は地球人と見た目は区別つかないからよ。お前、俺の知り合いの子ってことにするから。安全そうなとこにつくまで、俺と一緒にいろよ。いいか?俺の側が一番安全なんだからな!」
彼は科学者で、あちこちキャンピングカーで採取して回っては、新しいものづくりの研究をしているのだそうだ。
「まずは風呂だな。狭いけどちゃんと浴槽があるんだぞ。待ってろ、沸かしてくるから。」
「わかった。」
できたぞー。 気の抜けた合図を聞いて、服を脱いで入る。
「は?え?あ。わあぁぁ!」
気の抜けた声で叫ばれた。
なんでだ。
ささーっと風呂場から出て、外から情けない声が聞こえてくる。
『おまえ、女の子だったのか!!』
「そうだよ。」
『まじかー。まじかぁぁあ。』
「不都合でもあんのかよ。」
『ありまくりだろ?若い男と女がだな。ていうより、俺、なんていうんじゃありません!』
「別にいいだろう。女のくせに、って思ってるんだろ!」
『百歩譲って、僕、にしなさい!ぼ・く!俺、はちょっと乱暴すぎる!』
なんか面白い男。
これが僕たちの出会いであり、二人の生活の始まりだった。
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