王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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オニキス3さい

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「オニキス!オニキス!!」


城の中では、父親であるキールの声が響き渡る。


「キール、どうしたの?剣を教えていたのではなかったの?」

心配性な父親は、オニキスの姿が見えなくなると、ひどく狼狽した。

束縛する父親から自由になりたいのか、やんちゃなオニキスは親の目をかいくぐって逃げ出すようになっていた。


全ての精霊の加護と、太陽神の加護を持つオニキス。

規格外なのは分かるけれど、まだどんな力があるのかは分からない。

精霊は見えてはいるようだけど。


だけれど、こうして俺やキールを3歳にして煙に巻くことを考えると、なにか力を使っているような気がするのだ。

そして自由に行動するために、その力を俺たちに隠しているような、そんな気さえする。


「心配しなくても、いつも帰ってくるじゃない。大丈夫だよ。大丈夫…。」


「うう。あぁあああ…。」


俺は、うずくまるキールを抱きしめるのだ。




キールの妹姫が殺されたのは、キールが10歳の頃。

そしてその時、妹姫は3歳だった。


心配で心配でたまらなくなるキールの気持ちは凄くわかる。
トラウマなのだろうし、もしかしたらフラッシュバックしているのかもしれない。

キールによく似た顔のオニキスは、妹姫に似ているのかもしれない。



「大丈夫、俺がいるよ。息を吸って、吐いて。」

落ち着いたら一緒に探しに行こう。









「クロウ兄さん!あそびにきたよっ!」

転移魔法で神出鬼没。ケロッとした顔で魔物の国の城に遊びに来るカワイイ弟は、とんでもないやつだ。

「オニキス、おまえ。本当にアルフォンスたちに断ってきてるのか?」

「チャントイッテルヨ。」

絶対、嘘。

なんなら、自分の能力のことさえ親にも言ってないと思ってる。


「だってさあ、息が詰まっちゃうよ。ずーーーーっとユンスか、お父様が俺にべったりなんだよ?一人になる時間だって欲しいし。大体、王子だから剣を習わなきゃいけないなんて誰が決めたのさ!」

「俺も、アルフォンスたちに鍛えてもらったんだぞ。だからこうして、今、王様をやれてる。嫌いでも、できないよりできた方がいいぞ。王族は命を狙われることもあるらしいからな。」

「だいじょうぶだよぉ、魔法があるもーん。」


「魔法が効かない相手とかどうするんだよ。」


「ねね、それはそうとさあ。魔物の国もようやく人間の国と開国したじゃない?今度の帝国で開かれるパーティって、クロウも来るの?来てくれるんでしょ?」

「そうだなぁ、母さんも、仕事を手伝ってくれてる友達もやっとマナーを覚えたんだ。おいしいものがいっぱいあるから、連れてってあげたいな。なあ、アラクネ。お前も行くか?」

クロウの背後に控えている蜘蛛の魔物の青年が反応する。

蜘蛛の足が生えているだけで、執事服にモノクルをつけた、紳士然とした美形だ。
昔はちょっと気弱なところもあったらしいけど、青い髪を襟足のところで束ねて、今はクールでセクシーな感じ。


「いえ、誰かはこの城を守らないと。王城をもぬけの殻にしてどうするんですか。いくら治世が安定しているとはいえ…。」

蜘蛛の糸で罠をしかけて、侵入者を迎撃してるのらしい。


「俺が言いたいのはさあ、お姉さまが待ってるよ、ってこ・と!」

「あ。アリステラがっ!」


「文通は続いているんでしょ~?お姉さま、めっちゃくちゃ綺麗になったよぉ。もう19歳だもん、適齢期だし。このままどっかにお嫁に行っちゃうかも?」

だから、早く迎えに来たらいいよ。

お姉さまは養女だから、クロウお兄様のお嫁さんにお姉さまがなったら、本当の兄弟になれるじゃない。



「あーあー。俺も好きな人ほしいなぁ。」


「まだまだ早いと思う。そろそろ帰ったらどうだ?早く帰らないと、キールの心臓が止まるぞ。」

「はあい。」



しゅんっ。と、オニキスは突然消えて、家に戻った。



「ふう、やれやれ。」


「……アリステラ、さまですか。」
アラクネが呟く。


「ああ。」


知ってる。

前の魔王を倒した時、一緒に転移させられてきていた時の魔法を使う娘。

あの頃は体も薄くて、子どものような体だったけど、今は、きっと美しく成長されているのだろう。


胸がきゅんとなる。


私がこの方とお会いする前から、魔王様の心には彼女がいる。

私がどんなにお慕いしても、この恋は実ることはない。


あなたが彼女に笑いかける姿を見たくない。


だから、私はいつも、留守番をする。

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