王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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アバロンとルピの赤ちゃん

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「こわい、こわいこわいこわい!」

ベッドの上で、恐怖におびえるアバロン様の周りには、たくさんの精霊たちが、応援している。


「大丈夫ですよ、気をしっかり持って!楽しみにしていた赤ちゃんにやっと会えるのではないですか!二人で刺繍をした産着、きっとよく似合いますよ!」

サークレット様が、励ましている。



ようやく産気づいて、医師を呼び。

部屋の前ではまた、男性陣が待機している。

きっと、ゴールド王国ではダラ陛下が、そわそわして吉報を待っているはずだ。

扉の前では、ルピがうーん、うーんと念を送っている。


「何をしているの?」

俺が聞くと、ルピは、『愛情を送っている。』と言った。

精霊にとって、愛は力になるから。

「母上が、年をとってから、しかも初めての出産は危険な出産になることが多いっていうから。安全に出産ができるようにと思って…。」

祈るくらいしか、できることがないものね。


「よし、俺たちも祈るか。」

「そうだね。」


部屋の前でしゃがみこんで祈りを捧げる集団は、端から見たら相当シュールだとは思うけれど、それで無事に生まれてくれるなら。




俺もかなり時間がかかったけど、アバロン様は1日がかりだった。



そうやって、ようやく、可愛い赤ちゃんが産まれた。




黄色い髪に、金色の瞳をした。
ルピにもアバロン様にもよく似たあかちゃん。





「はぁ、はぁつ。…おかあさま。どっち……




「アバロンさん。かわいい。 女の子ですよ。」


「そう、ですか…。おんなのこ…。」



嬉しいはずなのに。

どっちでも可愛い我が子なはずなのに。



どうしてこんなに押しつぶされそうなのだろう。





「うっ、うぅぅぅ。ただでさえ、ご迷惑をおかけしているのにっ。不出来な嫁で…


「そんなことを言ってはいけません!泣かないで。ほら、かわいいでしょう?初めて、あなたがその体で産んだ我が子ですよ。人の子であるルピと愛し合って生まれた子です。」


産湯を浸かって綺麗になって、対面した赤ちゃんは小さくて。

この子がお腹の中にいたんだ、と。


「いざとなれば、私があなたを守りますよ。革命でも起こしましょうか?女王もいいと思いませんか。」



「はい…。」


散々、苦しんできたサークレットの優しさが骨身に染みる。




「アバロン!!」

部屋のドアが開かれ、ルピが真っ先に駆け込んでくる。


「娘か!なんて可愛いんだ!アバロンに似て絶世の美女になったらどうしよう!」

「あらいやだ、この子ったらもう親ばかで。」



気持ちが楽になる。

でも心の片隅にくすぶる様に、次を産まなければ、次こそ男子を。

そういう思いが湧き上がる。


ああ、これが。

サークレット様が心配していたことなんだ。
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