65 / 87
それでも
しおりを挟む
「うぅ…。」
アバロンが目を覚ますと、ルピの寝室だった。
「アバロン!」
目が覚めて、真っ先に心配そうなルピの顔があった。
そして、その後ろには申し訳なさそうなサークレット。ダラも見守っている。
「ごめんなさい。大事な体だと分かっていながら…。」
ルピに支えられて体を起こすと、サークレットはルピの隣に座った。
「いえ、私も見てみないふりをしていたのです。あなたに言われたことは、私も考えたことはあります。でも、それでも、ルピの側にいたい。そう思って…。考えないようにしていました。」
「この子は男ですから、よくわからないのですよ。跡取りを産むことを義務付けられた女がどれだけ辛いのか。年上の妻がどれだけの想いを胸にするのか…。王妃というものが、どれだけの重圧なのか。」
親戚もなく、嫌がらせをいうような貴族はいないだろう、誰からも恐れられた残酷王に嫁いだアルフォンスには、周囲にそんな重圧をかけてくるものはいないと思う。
だが、歴史が長く、古臭い考えを持っているような貴族が幅を利かせているゴールド王国は、そんなものではない。
「母上。私が考えが足らず、申し訳ありませんでした。ですが、私たちはそれでも愛し合っています。どうしても私は…。妃が傍にいなくても、私は構いません。周囲に何と言われても、私は頑張ります。それは私の我儘なのだから、この人を妃にできるのならば、そのくらい覚悟しています。…でも、私がそのつもりでも、アバロンがそのことを辛く思うことまでは想像できていませんでした。」
ルピは、アバロンの手をそっと握る。
「…私も精霊王でありながら、ルピとこうなったのだから。…覚悟はできている。辛く思うこともあるかもしれないが、ルピと一緒になれないほうが辛い…。」
「アバロンさま…。ルピ。よくわかりました。二人を認めますわ。」
サークレット妃殿下は優しくほほ笑み。
「アバロンさま、ルピをよろしく頼みますね。」
「!!」
「母上、ありがとうございます。」
「初めから、意地悪しているわけではないですよ。二人が心配だっただけです。」
もう一生結婚することはないだろう、よくて後妻かもしれないと思っていた頃。
請われて、まさかまさかの王妃になった。
あの頃の自分は遅く来た初めての恋に浮かれていて、年下だけど頼りがいがあって素敵なダラに情熱的に愛を囁かれて、全然何もわかっていなかった。
跡取りを。
複数の王子を。
閨をともにすれば、最初の月で子は出来るものと思っていた。
旦那様は若く、毎日のように愛されていたし。
でも、来る月も来る月も月のものがきて、落胆する日々が続いた。
運よく懐妊することができて、ルピが生まれて、少しほっとした。
跡取りは産めた。
ダラはどちらでもいいと言ってくれていたけど、王妃なのだから、王子を産まなければならない。
でも、ほっとしていたら、一人じゃ足らないと言われた。
戦争で死ぬこともある。
病気で死ぬこともある。
王子は複数人いなければならないのだと。
王族は子をたくさんもうけなければならないのだと。
実際にダラには2人の弟がいて、現在は公爵家の地位にいる。
他国に嫁いだ姉や妹もたくさん。
まだ存命だったダラのお母様にも散々嫌味を言われて。
側妃をもうけてもよいと、ある日ダラに言った。
だが、ダラは私だけでいいのだと。
ダラもダラなりに私を守ってくれていたのだとは思う。
面と向かって分かりやすい意地悪はなかったから。
でも、真綿でゆっくりと締め付けられるように、ちくちくと、重圧が続いた。
もう私は子を産める年齢ではないけれど、ぎりぎりまでずっと、頑張った。
年齢とともに子は望んでもできにくくて、やっとできても流れてしまう。
それで生まれてきてくれた子は、みな姫だった。
今、ダラの隣にいても、いまだに私は辛いのだ。
私は50を超えたおばあさん。
でも、ダラはまだ若い。
私がダラにあった年齢の妃であったなら、まだ子が産めた。
まだこんなに素敵なダラなら、今からでも側妃を迎えることもできるのに。
いつまでも、私は、『この人に相応しくない』という思いに駆られ続けている。
どんなにダラに愛されても。
きっと、アバロン様も私と同じように苦しむわ。私以上だと思う。
あの子はダラに似ているから、心配していない。
「アバロン様、ルピ。私、しばらくこの国に留まります。」
えっ!と、一同が目を丸くする。
「高齢出産は大変なのですよ、経験者としてアバロン様をサポートしますわ。それに、息子の嫁と仲良くお茶したり、縫物するのが夢でしたの。実際に王妃の仕事はしないにしても、いろいろと教えてあげたいこともありますもの。」
「えっ、そっ、そんな。サークレット、私に一人でゴールド王国に帰れと…。」
「娘たちがたくさんいるではないですか。」
目の前で喧嘩をする両親に、ルピは慌てている。
アバロンはほっとして、また、ベッドに横になった。
アバロンが目を覚ますと、ルピの寝室だった。
「アバロン!」
目が覚めて、真っ先に心配そうなルピの顔があった。
そして、その後ろには申し訳なさそうなサークレット。ダラも見守っている。
「ごめんなさい。大事な体だと分かっていながら…。」
ルピに支えられて体を起こすと、サークレットはルピの隣に座った。
「いえ、私も見てみないふりをしていたのです。あなたに言われたことは、私も考えたことはあります。でも、それでも、ルピの側にいたい。そう思って…。考えないようにしていました。」
「この子は男ですから、よくわからないのですよ。跡取りを産むことを義務付けられた女がどれだけ辛いのか。年上の妻がどれだけの想いを胸にするのか…。王妃というものが、どれだけの重圧なのか。」
親戚もなく、嫌がらせをいうような貴族はいないだろう、誰からも恐れられた残酷王に嫁いだアルフォンスには、周囲にそんな重圧をかけてくるものはいないと思う。
だが、歴史が長く、古臭い考えを持っているような貴族が幅を利かせているゴールド王国は、そんなものではない。
「母上。私が考えが足らず、申し訳ありませんでした。ですが、私たちはそれでも愛し合っています。どうしても私は…。妃が傍にいなくても、私は構いません。周囲に何と言われても、私は頑張ります。それは私の我儘なのだから、この人を妃にできるのならば、そのくらい覚悟しています。…でも、私がそのつもりでも、アバロンがそのことを辛く思うことまでは想像できていませんでした。」
ルピは、アバロンの手をそっと握る。
「…私も精霊王でありながら、ルピとこうなったのだから。…覚悟はできている。辛く思うこともあるかもしれないが、ルピと一緒になれないほうが辛い…。」
「アバロンさま…。ルピ。よくわかりました。二人を認めますわ。」
サークレット妃殿下は優しくほほ笑み。
「アバロンさま、ルピをよろしく頼みますね。」
「!!」
「母上、ありがとうございます。」
「初めから、意地悪しているわけではないですよ。二人が心配だっただけです。」
もう一生結婚することはないだろう、よくて後妻かもしれないと思っていた頃。
請われて、まさかまさかの王妃になった。
あの頃の自分は遅く来た初めての恋に浮かれていて、年下だけど頼りがいがあって素敵なダラに情熱的に愛を囁かれて、全然何もわかっていなかった。
跡取りを。
複数の王子を。
閨をともにすれば、最初の月で子は出来るものと思っていた。
旦那様は若く、毎日のように愛されていたし。
でも、来る月も来る月も月のものがきて、落胆する日々が続いた。
運よく懐妊することができて、ルピが生まれて、少しほっとした。
跡取りは産めた。
ダラはどちらでもいいと言ってくれていたけど、王妃なのだから、王子を産まなければならない。
でも、ほっとしていたら、一人じゃ足らないと言われた。
戦争で死ぬこともある。
病気で死ぬこともある。
王子は複数人いなければならないのだと。
王族は子をたくさんもうけなければならないのだと。
実際にダラには2人の弟がいて、現在は公爵家の地位にいる。
他国に嫁いだ姉や妹もたくさん。
まだ存命だったダラのお母様にも散々嫌味を言われて。
側妃をもうけてもよいと、ある日ダラに言った。
だが、ダラは私だけでいいのだと。
ダラもダラなりに私を守ってくれていたのだとは思う。
面と向かって分かりやすい意地悪はなかったから。
でも、真綿でゆっくりと締め付けられるように、ちくちくと、重圧が続いた。
もう私は子を産める年齢ではないけれど、ぎりぎりまでずっと、頑張った。
年齢とともに子は望んでもできにくくて、やっとできても流れてしまう。
それで生まれてきてくれた子は、みな姫だった。
今、ダラの隣にいても、いまだに私は辛いのだ。
私は50を超えたおばあさん。
でも、ダラはまだ若い。
私がダラにあった年齢の妃であったなら、まだ子が産めた。
まだこんなに素敵なダラなら、今からでも側妃を迎えることもできるのに。
いつまでも、私は、『この人に相応しくない』という思いに駆られ続けている。
どんなにダラに愛されても。
きっと、アバロン様も私と同じように苦しむわ。私以上だと思う。
あの子はダラに似ているから、心配していない。
「アバロン様、ルピ。私、しばらくこの国に留まります。」
えっ!と、一同が目を丸くする。
「高齢出産は大変なのですよ、経験者としてアバロン様をサポートしますわ。それに、息子の嫁と仲良くお茶したり、縫物するのが夢でしたの。実際に王妃の仕事はしないにしても、いろいろと教えてあげたいこともありますもの。」
「えっ、そっ、そんな。サークレット、私に一人でゴールド王国に帰れと…。」
「娘たちがたくさんいるではないですか。」
目の前で喧嘩をする両親に、ルピは慌てている。
アバロンはほっとして、また、ベッドに横になった。
3
お気に入りに追加
1,598
あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男
りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ
しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
某国の皇子、冒険者となる
くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。
転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。
俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために……
異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。
主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。
※ BL要素は控えめです。
2020年1月30日(木)完結しました。
どうも、死んだはずの悪役令嬢です。
西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。
皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。
アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。
「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」
こっそり呟いた瞬間、
《願いを聞き届けてあげるよ!》
何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。
「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」
義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。
今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで…
ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。
はたしてアシュレイは元に戻れるのか?
剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。
ざまあが書きたかった。それだけです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる