王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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クロウとアリステラ

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本当に夢じゃないかしら。

アリステラは、夢見心地だった。

パーティーが終わり、アリステラはそのまま城へ泊まった。


きれいなネグリジェを着せられて。
素敵なお部屋で眠った。


私の着ていた服は、お妃様………じゃなくてお母様が姫のフリをしていた時の服だった。

なんでも取っておくものだね。と微笑んで。

でも私のためのものを揃えるからと言われて、今日は朝から目を白黒させている。


「あわわわ、荷物の整理くらいは自分でやりますっ。これ以上の品は私には勿体ないです……!」

「何言っているの、アリステラ。俺だってもう少し持っていたよ。アリステラの物は申し訳ないけど殆ど使えないから、思い出の物をしまって分けていてね。残りは処分して、買い直さなきゃ。」

男性だけどお姫様育ちのお母様は、テキパキと指示をする。

「君は俺の恩人の娘だし、今はかわいい娘なんだから、今まで苦労した分も、色々やってあげたいんだよ。」

へい……お父さまも止めてくださらない。

「でも、いつもこんなに甘やかされていたら、私、だめな子になりそうです。揃えたら暫くはやめて下さいませ。」

なんかもう、諦めた。



「アルフォンス! 鏡台はここでいいのか?」
クロウ様の声。

鏡台が大きすぎて、彼の姿が見えない。
一人で持ってるの?
なんて力持ちなのかしら。

「ありがとう、クロウ。そこのベッドの向かいに置いてくれる?」

お母様の指示で、分かったと、ズシンと鏡台が設置される。

そして、その。


彼の姿を見て。


私は、固まってしまったのだ。



銀色の髪の頭の上に生えた耳は、ピョコピョコ動き、ズボンに開けた穴からは、フサフサした尻尾が、グルグル動いている。

そういえば、昨日握ったその手のひらは、ぽってりした感触があり、今思えば、剣ダコにしては柔らかかった。


私は、多分、顔に出してしまった。

彼は傷ついたような顔をして、黙って部屋を出ていった。


彼は、狼の魔物だったのだ。




「ごめん、アリステラ。色々麻痺してた。先に説明するべきだったね。」

「そうだな、突然。驚くのは当たり前だ。」

どうしよう。
彼を傷つけてしまった。
そのことが悲しくて泣く私に、新しい両親は話をしてくれた。


お母様のお腹の赤ちゃんが魔王に狙われていること。

その魔王を倒して、魔物と人間がともに暮らしていける世界を作るために、新しい魔王として、クロウ様を育てていること。


クロウ様は魔物の世界では迫害されて生きてきて、向こうに残してきたお母様や友だちのために魔王を目指していること。


「クロウは魔物だけど、優しくていい子だよ。それは、分かってくれているんだろう?」

アルフォンスお母様は、私の頭を撫でた。

分かってる。

私を助けてくれた王子さま。

自分も虐められていたから、私を助けてくれたのだ。

「この時間なら、庭だと思うよ。」

お父さま、ありがとう。


私は庭へ急いだ。
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