王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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肉の君と精霊の祝福1

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「あなたのお名前は!?」
「どちらのお家の!?」

オフィリアと一曲踊り終わると、クロウの周りには良家の子女が集まってきた。

オフィリアは既に肉料理の下へ走っている。
ずるい!

「クロウと申します。訳あって妃殿下にかわいがっていただいております。」

休憩したいので、失礼。と、がんばって綺麗なあいさつをして、肉のところへ向かった。

変な匂いのする奴らだ。
自慢の鼻が壊れてしまう。

おにく!おにく!!


食事が置かれているテーブルに向かうと、モサッとした娘が地味なドレスを着て、一心不乱に肉を囓っていた。


「どれが一番うまい?」

クロウの問に驚いたようだが、ローストビーフを指差す。

「………あれ。」

「いい食べっぷりだな。お前。」

「……はしたないですよね。でも、今のうちに食べないと、いつ食べられるかわからないから。」

その言葉。

細い手首に不自然に体を隠す衣装。


スラムで虐げられていたクロウには、分かってしまった。

「お前もデビュタントなんだよな。てことは、キゾクの子なんだろ。なんでそんな。」

「私は………」

「あらあ、こんなところにいたのね。アリステラ。」

彼女とは違う、臭い香水の縦ロールがきた。

アリステラはシッシッと追い払われる。

「クロウ様。すみません。あれは、私の姉ですの。姉と言っても父の連れ子で、私とは血は繋がってないのですのよ。父が亡くなって、私の兄が爵位は継ぎましたが、かわいそうなので、家においてやっているんですの!」 

こいつ馬鹿な女だ。

こういう奴。アルフォンスもキールも嫌い。
俺も嫌い。

適当に流して、俺はアリステラを探した。


「ひっ!もう私には構わないで!」

「いいから、来い!」


アリステラを引きずって、俺はアルフォンスのところへ行った。

「妃殿下っ!」
アリステラが慌ててカーテンシーをする。

「クロウ。そちらは?」

「私はアリステラ=ダイヤモンドと言います。」

「ああ、亡くなった先代のダイヤモンド公爵のお嬢さんだね。公爵は残念だった。奥さんを亡くして再婚したばかりだったのに、俺たち家族の争いに巻き込まれて。」

キールが近づいて、アリステラを見て言った。
少し面識があったらしい。

「貴方を守って死んだ父を私は尊敬しております。」

「しかしその姿は…。」
デビュタントとしたら最低限の古いドレス。
メイクはなく、髪の毛も結われていない。
下級貴族ならともかく、公爵令嬢なのに。

「仕方ないのです。今や公爵は義理の兄。私はご厄介になっている身ですから。」

「アルフォンス。こいつ、きれいにしたい、こいつ苛められてるんだ!」

彼女の手をぎゅうっと握って、鼻を膨らませた俺をアルフォンスは優しく撫でた。





「まだ膿があったか。」
キールが眉を潜める。

「キール。それはどんなにしても出てくるものだよ。人には誰でも悪い心がある。立ち直れる人もいる一方、魔が差してそのままエスカレートする人もいる。」

ユンスを呼んで、侍女にアリステラを任せた。

きっと彼女は美しい。

クロウは彼女に付き添っているようだ。
クロウは虐めを見過ごせないのだろう。
魔物だけど、いい子だと思う。
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