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この恋が一方通行だったらいいのに
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「アバロン、ただいま。」
柔らかくほほ笑んだルピは、突然現れたアバロンに近づくと、手をとった。
「ルピ…。」
「今度は2年、こっちにいられるんですよ。みんなでお出かけする時間もたくさんあります。アバロンと長くいられてうれしい。……いつかは帰らなければいけないので、今からそれを思うと辛いですけど。」
甘い空気が漂う。
「なんなんだ、あいつらも番なのか?」
クロウがあっけらかんというものだから、キールは思わずクロウの口をふさいだ。
「まあ、とにかく早く部屋に行こうか。ルピも荷物の整理があるだろうし、クロウもお勉強の時間だよ~。」
パン!と手をたたいて、アルフォンスは場の空気を変えることにした。
お母様にも言われている。
明らかに二人は『そういう意味で』惹かれあっているけれど、お互いの気持ちはまだ互いに分かっていない。
かわいそうだけど、二人の立場を考えたら、このまま気づかないほうが幸せかもしれない。
本当は応援したいけど…。
「えええっ?べんきょ、にがて…。」
「だめだよ。クロウにはいい魔王になってもらわないと。ただ強さが上がるだけじゃだめだよ。クロウだって今の魔王様に不満があるから自分が魔王になりたいんでしょう?それと同じでクロウがせっかく魔王になっても、みんなが不満だったらすぐに追い落とされるからね?早く、お母さまも迎えに行きたいでしょ?」
「う、うん…。」
教師役はユンスなので、クロウはしぶしぶとユンスに連行されていった。
「がんばったら、ごほうびにお肉の量を増やしてあげるからね!」
後姿にアルフォンスが声をかけたら、しっぽがぐるぐる回転するのだった。
「アルフォンスは早速いい母親ですね。」
ルピは目を細める。
「ああ、子どもに構いすぎるから俺が寂しい。」
「ははは、キール。世の父親はみなそのようなものだそうだよ。ところで、土産も多く持ってきたんだ。あとでそれは渡すとして、肉をまず食糧庫に運んでもらいたいから、料理人たちを呼んでくれるかな?故郷のレシピも渡したいし。」
「ああ、ありがとう。早速今夜ご相伴にあずかろうかな。」
「ルピ…。」
つんつんと、後ろからアバロンが袖をひいた。
「ルピの部屋へいかないか?驚かせたいものもあるから。」
以前、泊まった王子夫妻の部屋。
その片隅に、見慣れないドアがついている。
「これは?」
「開けてみて?」
カチャリとあけると、そこは青く生い茂った、清浄な空気のする場所。
清らかな水と、植物の匂い。
青い。というか、青緑色の宮殿の内部だが、よくみると大きな植物の中である。
大きな窓から見える外は、まるで人の入れない深い森の中のようだ。
そして、自分には見えないが、そこには精霊がたくさんいるのだろう。
「ここが私の世界なんだ。綺麗なところだろう。この宮殿は、私の樹なんだよ。生命の樹。本当は人間をむやみに招くものではないのだが、ルピはトモダチだからな!」
「君の中に入ってしまったんですね。うれしいな。」
ことさらにアバロンが『友達』を強調するから、意地悪をしたくなる。
「そんな変な言い方をしないでくれ。」
意識してしまうじゃないか。と言わんばかりの反応。
そうだよ、意識させるためにそういう言い方をしたんだもの。
「あれ?ということは、いつでもアバロンは行き来できたのだから、前回泊まる必要はなかったんじゃ…。」
もしかして、私と一緒にいたかったのかな。
アバロンも私と同じ気持ちだったらいいと思っている。
立場的に簡単ではない。
それは私も重々承知。
でもこの想いがもし両思いなのだったら。とうに覚悟はできているのだ。
「………だっ……。ルピと はなれたく…なかっ……たから。」
真っ赤な顔で瞳を潤ませて、そんなふうに言葉を詰まらせて。
アバロンも同じだって、思っていい?
部屋に戻って来た。
たぶん、私の顔は赤い。
お願い、ルピ。私の気持ちに気づかないで。
「愛しています。アバロン。私はあなたよりすごく年下だけど、あなたのことばかり考えている。国に戻ってもずっと。ここに来たかった一番の理由は、あなたがここには来れるから。あなたの気持ちを聞かせてくれませんか。私は若すぎて相手にならないでしょうか。」
ああ。
嬉しい。
声がでない。出せない。
後ろからぎゅっとルピが抱きしめる。
この恋が一歩通行だったらよかったのに。
そうしたら、片思いのまま、気持ちを整理して思い出を大切に、気持ちに封が出来たのに。
部屋をノックする音が聞こえる。
「お父様、ルピ様。夕餉の時間だそうですよ。」
オフィリアだ。
助かった。
返事をしないまま、夕餉の場所へ向かう。
ルピはいつも通り。
でも、返事をしなくては。
柔らかくほほ笑んだルピは、突然現れたアバロンに近づくと、手をとった。
「ルピ…。」
「今度は2年、こっちにいられるんですよ。みんなでお出かけする時間もたくさんあります。アバロンと長くいられてうれしい。……いつかは帰らなければいけないので、今からそれを思うと辛いですけど。」
甘い空気が漂う。
「なんなんだ、あいつらも番なのか?」
クロウがあっけらかんというものだから、キールは思わずクロウの口をふさいだ。
「まあ、とにかく早く部屋に行こうか。ルピも荷物の整理があるだろうし、クロウもお勉強の時間だよ~。」
パン!と手をたたいて、アルフォンスは場の空気を変えることにした。
お母様にも言われている。
明らかに二人は『そういう意味で』惹かれあっているけれど、お互いの気持ちはまだ互いに分かっていない。
かわいそうだけど、二人の立場を考えたら、このまま気づかないほうが幸せかもしれない。
本当は応援したいけど…。
「えええっ?べんきょ、にがて…。」
「だめだよ。クロウにはいい魔王になってもらわないと。ただ強さが上がるだけじゃだめだよ。クロウだって今の魔王様に不満があるから自分が魔王になりたいんでしょう?それと同じでクロウがせっかく魔王になっても、みんなが不満だったらすぐに追い落とされるからね?早く、お母さまも迎えに行きたいでしょ?」
「う、うん…。」
教師役はユンスなので、クロウはしぶしぶとユンスに連行されていった。
「がんばったら、ごほうびにお肉の量を増やしてあげるからね!」
後姿にアルフォンスが声をかけたら、しっぽがぐるぐる回転するのだった。
「アルフォンスは早速いい母親ですね。」
ルピは目を細める。
「ああ、子どもに構いすぎるから俺が寂しい。」
「ははは、キール。世の父親はみなそのようなものだそうだよ。ところで、土産も多く持ってきたんだ。あとでそれは渡すとして、肉をまず食糧庫に運んでもらいたいから、料理人たちを呼んでくれるかな?故郷のレシピも渡したいし。」
「ああ、ありがとう。早速今夜ご相伴にあずかろうかな。」
「ルピ…。」
つんつんと、後ろからアバロンが袖をひいた。
「ルピの部屋へいかないか?驚かせたいものもあるから。」
以前、泊まった王子夫妻の部屋。
その片隅に、見慣れないドアがついている。
「これは?」
「開けてみて?」
カチャリとあけると、そこは青く生い茂った、清浄な空気のする場所。
清らかな水と、植物の匂い。
青い。というか、青緑色の宮殿の内部だが、よくみると大きな植物の中である。
大きな窓から見える外は、まるで人の入れない深い森の中のようだ。
そして、自分には見えないが、そこには精霊がたくさんいるのだろう。
「ここが私の世界なんだ。綺麗なところだろう。この宮殿は、私の樹なんだよ。生命の樹。本当は人間をむやみに招くものではないのだが、ルピはトモダチだからな!」
「君の中に入ってしまったんですね。うれしいな。」
ことさらにアバロンが『友達』を強調するから、意地悪をしたくなる。
「そんな変な言い方をしないでくれ。」
意識してしまうじゃないか。と言わんばかりの反応。
そうだよ、意識させるためにそういう言い方をしたんだもの。
「あれ?ということは、いつでもアバロンは行き来できたのだから、前回泊まる必要はなかったんじゃ…。」
もしかして、私と一緒にいたかったのかな。
アバロンも私と同じ気持ちだったらいいと思っている。
立場的に簡単ではない。
それは私も重々承知。
でもこの想いがもし両思いなのだったら。とうに覚悟はできているのだ。
「………だっ……。ルピと はなれたく…なかっ……たから。」
真っ赤な顔で瞳を潤ませて、そんなふうに言葉を詰まらせて。
アバロンも同じだって、思っていい?
部屋に戻って来た。
たぶん、私の顔は赤い。
お願い、ルピ。私の気持ちに気づかないで。
「愛しています。アバロン。私はあなたよりすごく年下だけど、あなたのことばかり考えている。国に戻ってもずっと。ここに来たかった一番の理由は、あなたがここには来れるから。あなたの気持ちを聞かせてくれませんか。私は若すぎて相手にならないでしょうか。」
ああ。
嬉しい。
声がでない。出せない。
後ろからぎゅっとルピが抱きしめる。
この恋が一歩通行だったらよかったのに。
そうしたら、片思いのまま、気持ちを整理して思い出を大切に、気持ちに封が出来たのに。
部屋をノックする音が聞こえる。
「お父様、ルピ様。夕餉の時間だそうですよ。」
オフィリアだ。
助かった。
返事をしないまま、夕餉の場所へ向かう。
ルピはいつも通り。
でも、返事をしなくては。
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