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魔物
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くんくんくん。
ああ、なんだかおいしそうな匂いがする。
俺たちが入ることが出来ない不可侵の精霊界に引きこもっている精霊王。
何故か、その匂いが人間界に留まっているのにも涎が垂れるけど、それよりももっと美味しそうなのがいる。
精霊王は一瞬で精霊界に逃げちゃうけど、そっちは人間の匂いも少し混ざっているから、捕まえやすいといいなぁ。
俺以外にもこの匂いに気づいたやつは多いんだろうなァ。
よーし、みんなより先に匂いの先を見つけて食べちゃうぞ。
食べる獲物が上等なだけ、進化できるんだ。
魔物の王も夢じゃない。
「ひひっ。」
分厚い毛皮で全身を覆われたウルフの魔物が、鼻を動かしながら向かっている。
霧の晴れたクリスタル帝国へと。
「ふふふふふふ。」
「うれしいけど、いい加減に離れてよ。暑い。」
ルピ以外の参列者を全て見送った朝。
今日もキールはアルフォンスにべったりで、暇さえあれば彼の腹を撫でている。
「だってうれしいんだ。早く生まれてこないかなぁ。絵本も読むし、お母さま仕込みの剣術を教えてあげたいなあ。」
離宮からオフィリアが、隣の部屋からルピとアバロンが出てきても、べったりは変わらない。
「まだ2か月目にすらならないのに。人間とは気が早いものだ。」
アバロンは呆れている。
「キール様、いい加減アルフォンス妃を離してください。朝餉の時間ですよ。」
さあさあと、ユンスがみんなをダイニングルームへ押し出す。
細長い机が縦に並んだダイニングルーム。
そこへ建物の中で水栽培した葉物のサラダと、ふんわりしたオムレツ、ハム、スープにパンが並ぶ。
「ハムだ!ハムだ!」
「アバロン、私の分もあげますね。ふふっ。」
アバロンの隣でルピがほほ笑む。
「ルピ王子、お父様を甘やかさないでください。それはそうと、ずいぶん仲良くなったのですね。」
「ああ、ルピはいいやつだぞ。なかなか男前だし、誠実だし、優しいし。お肉をくれる。」
餌付けされてるのかい。
なんとなく、一つの部屋に押し込めたせいなのか…。二人の雰囲気がちょっと。
「精霊王は独身を通す生き物だと思っていたんですけどねぇ…。」
オフィリアはナイフとフォークでオムレツをぱくっと口に入れた。
「そういえば、ルピはいつくらいに帰るの?俺はおなかに子どもがいるからって、みんなが外に出してくれないんだ。だから一緒に街をまわることはできないんだけど…。」
「今日は一日ゆっくりして、明日帰るよ。」
「「帰っちゃうのか!」」
キールとアバロンの声がはもった。
「キール様、初めてできたお友達がうれしいのは分かりますが、ルピ様も大国の王太子なのですよ。お忙しいのです。」
ユンスに諫められる。
「忙しいと言っても、両親はまだまだ現役ですし。もうしばらくは自由な時間もありますよ。ちょっと国に戻って、またこちらへ伺います。生まれてくる子の顔を私も見たいし。キールやアルフォンスとも遊びたいし。」
そっか。また来るんだ…と、キールとアバロンはシンクロした。
「お父様はどうされるんですか?いつまでも孫の家にべったりなんて嫌われますよ?」
オフィリアはなんとなく、アバロンがルピに心を寄せ始めていることに気づいていたが、精霊王が精霊界を放って人間界にいっぱなしになることは許されることではない。
ましてや、確かルピはたった一人の王子で王太子だったはずで。例えば、彼と恋仲になったとしても彼を精霊界に攫うことはできないはずなのだ。
初めての恋に気が付く前に、元の生活に戻っていただきたい。お父様には悪いけど。
「ちょうどいいから、ルピが戻ったら戻るよ。一瞬で帰れるんだから。まだまだお肉を食べためて帰らないと。」
「精霊王が太ったら威厳に欠きますからね。注意してくださいね。」
そういうオフィリアもモリモリとハムを食べているのだった。
離れがたそうにしてはいたキールだったけど、そこは気持ちを切り替えて執務に行った。
俺はユンスを連れて、軍部へ顔を出す。
昨夜はお世話になったようだし、お礼を言いたい。
ああ、なんだかおいしそうな匂いがする。
俺たちが入ることが出来ない不可侵の精霊界に引きこもっている精霊王。
何故か、その匂いが人間界に留まっているのにも涎が垂れるけど、それよりももっと美味しそうなのがいる。
精霊王は一瞬で精霊界に逃げちゃうけど、そっちは人間の匂いも少し混ざっているから、捕まえやすいといいなぁ。
俺以外にもこの匂いに気づいたやつは多いんだろうなァ。
よーし、みんなより先に匂いの先を見つけて食べちゃうぞ。
食べる獲物が上等なだけ、進化できるんだ。
魔物の王も夢じゃない。
「ひひっ。」
分厚い毛皮で全身を覆われたウルフの魔物が、鼻を動かしながら向かっている。
霧の晴れたクリスタル帝国へと。
「ふふふふふふ。」
「うれしいけど、いい加減に離れてよ。暑い。」
ルピ以外の参列者を全て見送った朝。
今日もキールはアルフォンスにべったりで、暇さえあれば彼の腹を撫でている。
「だってうれしいんだ。早く生まれてこないかなぁ。絵本も読むし、お母さま仕込みの剣術を教えてあげたいなあ。」
離宮からオフィリアが、隣の部屋からルピとアバロンが出てきても、べったりは変わらない。
「まだ2か月目にすらならないのに。人間とは気が早いものだ。」
アバロンは呆れている。
「キール様、いい加減アルフォンス妃を離してください。朝餉の時間ですよ。」
さあさあと、ユンスがみんなをダイニングルームへ押し出す。
細長い机が縦に並んだダイニングルーム。
そこへ建物の中で水栽培した葉物のサラダと、ふんわりしたオムレツ、ハム、スープにパンが並ぶ。
「ハムだ!ハムだ!」
「アバロン、私の分もあげますね。ふふっ。」
アバロンの隣でルピがほほ笑む。
「ルピ王子、お父様を甘やかさないでください。それはそうと、ずいぶん仲良くなったのですね。」
「ああ、ルピはいいやつだぞ。なかなか男前だし、誠実だし、優しいし。お肉をくれる。」
餌付けされてるのかい。
なんとなく、一つの部屋に押し込めたせいなのか…。二人の雰囲気がちょっと。
「精霊王は独身を通す生き物だと思っていたんですけどねぇ…。」
オフィリアはナイフとフォークでオムレツをぱくっと口に入れた。
「そういえば、ルピはいつくらいに帰るの?俺はおなかに子どもがいるからって、みんなが外に出してくれないんだ。だから一緒に街をまわることはできないんだけど…。」
「今日は一日ゆっくりして、明日帰るよ。」
「「帰っちゃうのか!」」
キールとアバロンの声がはもった。
「キール様、初めてできたお友達がうれしいのは分かりますが、ルピ様も大国の王太子なのですよ。お忙しいのです。」
ユンスに諫められる。
「忙しいと言っても、両親はまだまだ現役ですし。もうしばらくは自由な時間もありますよ。ちょっと国に戻って、またこちらへ伺います。生まれてくる子の顔を私も見たいし。キールやアルフォンスとも遊びたいし。」
そっか。また来るんだ…と、キールとアバロンはシンクロした。
「お父様はどうされるんですか?いつまでも孫の家にべったりなんて嫌われますよ?」
オフィリアはなんとなく、アバロンがルピに心を寄せ始めていることに気づいていたが、精霊王が精霊界を放って人間界にいっぱなしになることは許されることではない。
ましてや、確かルピはたった一人の王子で王太子だったはずで。例えば、彼と恋仲になったとしても彼を精霊界に攫うことはできないはずなのだ。
初めての恋に気が付く前に、元の生活に戻っていただきたい。お父様には悪いけど。
「ちょうどいいから、ルピが戻ったら戻るよ。一瞬で帰れるんだから。まだまだお肉を食べためて帰らないと。」
「精霊王が太ったら威厳に欠きますからね。注意してくださいね。」
そういうオフィリアもモリモリとハムを食べているのだった。
離れがたそうにしてはいたキールだったけど、そこは気持ちを切り替えて執務に行った。
俺はユンスを連れて、軍部へ顔を出す。
昨夜はお世話になったようだし、お礼を言いたい。
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