王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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人間を愛する気持ちが分かるような気がする。

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どうぞ、と通された部屋は、本来王子夫婦の寝室のようで、広い部屋に大きな天蓋のベッドが一つだけあった。

部屋の奥には、侍女が控えるための場所と、お茶を入れるための設備、それにさらに奥にはパウダールームと浴室がある。


ルピは帝国と同じくらいの経済大国の王太子なので、その豪華さに驚くこともなく、想定の範囲内だが、目の前の緑色のアルフォンスはすべてが珍しいらしくキョロキョロしていた。


「ベッドが一つしかないですけど、気になりますか?私は気になりませんが。」

「ベッドは大丈夫だ。私も精霊界では王と呼ばれる存在。もちろん城も持ってはいるが、やはり世界が変われば何もかも新鮮で面白い。結婚式や披露宴の会場も面白かった…。ああ、もっとあのパテを食べたかった…!」

じゅるりと涎を垂らしそうにしている精霊王アバロン。


アルフォンスの母親の父親、つまり彼の祖父にあたるそうだし、精霊で長寿なのだから年齢不詳。

ずっとずっと年上の偉大な存在のはずなのに、どこか可愛らしい。


「そういえば、オフィリア様も肉が好物ですね。精霊はベジタリアンかと勝手に思っていました。」


「それは、精霊界には肉がないから!肉は美味しい!せっかく人間界にいるんだから肉食べたい!!」


アルフォンスの素直さは彼譲りなのかもしれない。


「……可愛らしいなぁ。アバロンとお呼びしてもいいでしょうか?不敬でしょうか?」

「なっ!こんなおじいさんを捕まえてカワイイだなんて!」

くすっと笑って、彼の髪の毛をつまむ。

植物の茎のような、鮮やかなペールグリーン。腰まで伸びた髪は艶やかだ。

かなりの年齢なのだろうけど、見た目はアルフォンスをもう少し大人にしたくらいにしか見えない。

20代後半から30代前半くらいに見える。


可愛いと言われて、顔を真っ赤にしてぷくーっと頬を膨らませたアバロンは、「一緒の寝床で寝るよしみで、アバロンって呼ぶの、許してあげてもいいんだからね!」と言ってくれた。


そんなに肉が好きならば、明日は市街でステーキでもご馳走してあげよう。











代々の精霊王の記憶があるから、加護持ちの王子を愛する気持ちは常にあって、でも過ちを犯しているから、誰かを想う気持ちに自分で制限をかける。

そんな癖のようなものが、私にはある。

もうこれは、精霊王の性としかいえない。

だから、一緒のベッドに寝ても大丈夫か?と聞かれ、『なんで気にする?』と思ってしまった。
しかし、パテをもっと食べたい話をしたのはまずかった。


あれじゃ、精霊王としての威厳はなかった。

肉好きで食いしん坊のあほの子のようだ。

確かに!『もっと人間界で肉を食べたいから』ということもあるが、それだけじゃないぞ。

彼らの今後が気になって去りがたいのも事実。
今回はただの女の私怨だったが、これからもアルフォンスには危険が付きまとうだろう。
この国の力を削ぎたい者がアルフォンスを狙うかもしれないし、様々な魔物が、アルフォンスや腹の子を食べたくて襲ってくるだろう。

とはいえ、精霊界をずっと留守にするわけにもいかないのだが。



しかし、この王子。

300歳を超える私に、可愛い可愛いと。

照れちゃうじゃないか。


まるで、恋人に愛を囁くみたいに私を見つめないでほしい。

制限をかけていた恋心が解き放たれそうで怖い。

こんな状態で同じベッドで寝るなんて怖い。



ルピはどのくらいこの城に滞在するつもりなのだろうか。

彼もずっとはいられないはずだから、彼が帰るまでは私もここにいようかなぁ。

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