王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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破滅へのカウントダウンをあの女は知らない。

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パーティーの最後には、キール王だけが現れて、挨拶をした。 

妃は体調が優れないらしい。


マルシェは面白くて笑いそうなのを堪えていた。


絶対に嘘。


本当はアルフォンスが消えて、内心穏やかではないはず。

顔に出さぬよう気をつけて、親族の陰に隠れ、会場を出ると、用意していた馬車で目的地に向かう。


その後ろをユンスが後をつけた。




馬車は、港のある街で止まり、マルシェは馬車を見送ると、宿へ行く振りをして、倉庫街へ向かった。


破滅へのカウントダウンが始まっていることを知らずに。








「……ッ! どういうことだッ!」

磯の匂いのする薄暗い小屋に、後手で縛られて、二人転がされる。


「………ん。」


衝撃で、姫も目を覚ましたようだ。


「ここは!? ルピ? いったいどういうこと?!」

「アルフォンス、すまない…。私は騙されたらしい。」



「へへへっ、ここで王子様には死んでもらうぜ…!お姫様にはちょっと、死んだことになってもらおうかな。依頼人はお前らを駆け落ちの末の心中に見せかけて殺したいようだが、気が変わってね。お姫様とお腹の子は売り物になってもらうよ。」

馬車を操作していた男が、御者の帽子を脱ぎ捨て、下卑た笑いを浮かべた。



「…このっ!」


お姫様は、力を込めて魔力を男の方に集中するが、彼がかなりの魔法の手練れであることは有名で、よく知っている。


「おっと!こいつは大切なお友達なんだろう?今ここで、すぐに殺してもいいんだよ?」

「うっ!」

奥の方からわらわらと暗い色の服を着た男たちが現れ、ルピが髪の毛を掴まれて、唸る。
諦めて、魔力を霧散させた。



「ボス!確かにこいつは上玉ですね!男でもいいから味見したいや。」

「へっへっへ、まああわてるな。腹の子も高く売れるだろうから、優しくしてやらなくちゃな。だが、俺たちの言うことをきいて大人しくする気になるくらいには…。」



男たちの手が伸びる。


「アルフォンス!アルフォンス!」


「い、いやあああああ!」




「ちょっと!あなたたち!約束が違うじゃないの! 何をやっているのよ!!」

カツカツ、とヒールを鳴らして、この場には似つかわしくない派手な装いをした中年の女が現れた。

黙っていればそれなりの美貌はあるが、性格の悪さが滲み出て、醜い貌をしている。



フン!と転がるアルフォンスとユピを見て、いい気味と鼻で笑う。

「さっさとこいつらを殺しなさいよ。高いお金を払ってるんだから!」




『さっさとこいつらを殺しなさいよ。高いお金を払っているんだから!』



「!?」



自分の声のすぐ後に、くぐもった自分の声が聞こえ、マルシェは慌てて周囲を見渡す。


「な!?なに!!?」



「………おいおいおい。お前さん、つけられたんじゃないのか?これだから素人はよおお!!」

盗賊団のボスも、あたりの気配を探る。




「待たせたな。」

キールとユンスが闇から現れた。




「…全く、遅いぞ。キール。」

「もう少しで腕が死ぬとこでした。」


ふと見れば、にょきにょきとアルフォンスから蔦が伸びて、二人の拘束を解き放っている。




「ひっ!残酷王!! えっ、嘘!なによ!そっちもアルフォンスじゃないじゃないの!」


さっきまでアルフォンスのようだった髪の色は緑に変わり、長さも腰まで伸びる。
結婚式の時、アルフォンスをエスコートしていた母方の親族。




「さて。断罪の時間だよ。」

キールはにっこりとほほ笑んだ。








そのころ、城ではアルフォンスが目を覚まし、マルシェのこと。今みんなで始末をつけに行っていることをオフィリアから聞いていた。


「あの女もおしまいね。あれが夫を操って、あなたのお父様を殺させたのよ。因果応報、やっと報いがきたってところだわ。」

「キール…。」


「アルフォンスも行く?あなたならすぐ飛んでいけるとは思うけど。」


「ううん。キールは俺にここにいてほしいって思っているんだし、俺が信じてあげないとね。」


「信じるって何を?」


「キールはもう、残酷王を卒業するってこと。」









「ポート王国のサングリア王らよ。今の映像をご覧になっていただけたと思うが。」

よく見ると、小型のカメラをユンスは構えており、先ほどの音声も含めて筒抜けだ。


「えっ!お父様!!?」


マルシェが青い顔をする。


『お前は本当に馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、どうしようもない。どうしても姪の晴れ姿がみたい、大人しくするというからこっそり連れてきてみれば。まさかこれほどお前が愚かで碌でもない人間だったとは。』

「ち、ちがうの!私は、こいつらにそそのかされて…!」



「おい!」


ボスは怒りのあまり声を荒げた。

こいつのせいで、盗賊団もおしまいだ。

残酷王がいて、ここから無事に逃げられる気がしない。

もう、抵抗するだけ無駄。



「サングリア王。俺も結婚して大人になった。あなたのところで始末をつけてくださるのなら、俺は貴国と仲よくしよう。二度目はないがな?」


『承知した。この娘などもう娘ではないと言いたいが、子であることには変わりない。産んだ親の責任として、この子を一生、誰の目にも届かない場所で幽閉しよう。罪人として扱う。絶対に逃げることはできない。もし、誰かを抱き込んだりして逃げたり、また悪事を働こうとするようなら、仕方がない。顔を焼き、のどを潰し、足の腱を斬ってマルシェではない別の名で投獄することになる。それが嫌なら、大人しく過ごすことだ。マルシェ。これが最後の通告だぞ。』


実の父親の容赦ない冷たい言葉に、マルシェは放心し、その場で放尿した。


「さあ、帰るか。愛する妻が待っている。」


「大人になりましたね、キール。」


「これがうまい落としどころだろう?遺恨も残るまい。」


盗賊団のボスが予想していた通り、倉庫を出ると帝国の軍隊が取り囲んでいて、逃げ場はなかった。

クロノス王国をねぐらにしていた盗賊団はこれで全て投獄され、マルシェは連行されて親に引き渡された。

帝国の者が付き添いの上、国元で刑に服すことになる。



豊かな王国で王妃としてちやほやされて贅沢に生きることを夢見ていた悪女は、冷たい牢の中で孤独に惨めに生きることになった。








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