王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
19 / 87

精霊王の罪

しおりを挟む
精霊王は、美しい王子のことが忘れられず、夜更けに彼の国に一人で向かった。

まだ、この時代は精霊が見える者も多かったから、夜のほうが都合がいい。


彼の白い体や銀色の髪は、夜空に雲や星のように輝いた。




「スプリーム。」

声をかけると、スプリームは奇麗な目を大きくした。

「貴方様は……?」

「ウンディーネをありがとう。私は、精霊王だよ。」

「彼女は無事に帰れたのですね!本当によかった。」

屈託のない笑顔が眩しい。

「君に加護をあたえようと思う。君の国をあらゆる災害から守ってあげるよ。良い王になるんだよ。」

「精霊王さま。僕は王にはなりません。僕は末っ子なんです。上に6人、兄上がおります。でも、僕がいれば加護で国は守られるのですね。」

嬉しいです。と、彼は心の底から喜んだ。

「6人も兄君がいて、君だけが災害の研究をしていたのかい?」

「兄上は忙しいのです。役割分担ですよ。災害対策は、時間がかかりますし、成果もなかなか出ませんから。」


釈然としない。

精霊王は、こっそりと探りを入れた。


他の王子は、彼ほど民のことを思ってはいなかったし、面倒くさいことや、すぐに成果がでないこと、成果が出るかわからないことを全てスプリームに丸投げしていた。



成果が出れば、自分の手柄にするくせに。


そしてそのことに、スプリームはなんの疑問も思っていなかった。



腹立たしい。


このままでは、加護を与えても、彼は兄たちに使われて終わるのだ。



だから。



国王の枕元に立った。

「私は精霊王。お前の息子の一人の瞳に、虹色の虹彩が現れる。それは、精霊の加護の証。その王子を代々、国王に据えるのだ。順列は関係ない。精霊は姫を国王に嫁がせる。姫は友好の証であり、見張りである。加護持ちが未成年の時のみ、加護なしの治世を許す。」

「加護、とは……‥‥」

「あらゆる災害から守ってやろう。」


「おお!」


「だが、加護持ちの王子を追い出したり、加護のある王子以外を王太子にすれば、災いがあるぞ。」

「私の子のうちどの子が……。」



「それは、じきに分かるだろう。」



それは脅しだった。

しかし、スプリームに加護の瞳を与えて一月。

スプリームの取り巻く状況は変わらない。


「何故、スプリームを王太子にしない。」

「あの子の母親は側妃で位が低く、後継者順位は低いのです。」

スプリームは、王が侍女に乱暴して産ませた子だった。

この王のそういう資質も、精霊王には我慢がならなかった。


愛しい、愛しいスプリーム。

愛する者が別にいるスプリームに、愛を囁くことはできないが、何とかして彼を守ってあげたい。

彼が守りたい大切なこの国を、よくするためには。


「おまえが私の言うことを聞けないのなら、一人ずつ死んでいくだろう。私が殺したことをスプリームに言うのなら、おまえも殺す。あの優しい王子は、自分のせいで死んだと気に病むからね。」


王はまだこの時は、悪い夢だと思っていた。


だが、一月目に第一王子が死に
二月目に第二王子、
半年後にはスプリーム以外の全ての王子が死んでしまった。

優しいスプリームは、何も知らず、兄を思って泣いていたが、彼を恐ろしく思った王は、精霊王のことを言おうとして、その場で血を吐いて死んだ。



「僕が本当に王になってしまった。」

喪服で泣き崩れるスプリームの肩を精霊王は抱いた。


大好きなお父さま。お兄様。

僕は、あなた方の役にたてることが幸せだったのに。

王位などいらないから、みんなで幸せに、もっと一緒に生きたかった。


スプリームの綺麗な瞳から涙が零れ、彼の瞳に映る自分を見た瞬間。





精霊王は、罪悪感に苛まれ、闇に堕ち、自分の樹木は枯れ始めた。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

すべてを奪われた英雄は、

さいはて旅行社
BL
アスア王国の英雄ザット・ノーレンは仲間たちにすべてを奪われた。 隣国の神聖国グルシアの魔物大量発生でダンジョンに潜りラスボスの魔物も討伐できたが、そこで仲間に裏切られ黒い短剣で刺されてしまう。 それでも生き延びてダンジョンから生還したザット・ノーレンは神聖国グルシアで、王子と呼ばれる少年とその世話役のヴィンセントに出会う。 すべてを奪われた英雄が、自分や仲間だった者、これから出会う人々に向き合っていく物語。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

処理中です...