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精霊界へ
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「普通は、精霊界に人は連れて行かぬのだが。特にアリアはともかく、お前は血が薄くて人間そのものだしな。しかし、試練のために特別に招待するとしよう。」
「お父さま!?彼に何を!」
「枯れた神樹を再生してもらう。」
「そんなこと…!精霊でも出来ないのに!」
「呪われた神樹。お前の先祖の樹だ。再生ができれば、赦されたということ。精霊界からの追放が解ける。それが、私がお前たちの結婚を許す条件。」
「神樹?先祖?」
突然のキーワードに、俺もキールも顔を見合わせる。
「キールの先祖は、精霊界を追放された何代か前の精霊王だったの。どちらかといえば、盟約云々より、呪われた存在に可愛い孫を渡すわけにはいかないという迷惑な爺心というか…。」
お母様はじろりと精霊王を睨んでいる。
「アルフォンスとの結婚を許していただけるなら、やります。」
「よし、行くぞ。」
精霊王が次元を曲げる。
「ユンス!俺がいない間は、頼む!」
「結婚式の準備は進めておきますよ。早めに帰ってきてください。」
精霊界に足を踏み入れる。
清浄で神聖な空気。
そして、目の前には。
枯れ果てた巨木があった。
アリアは、加護を授けた最初の王子に本当に魂がよく似ている。
確か彼の名前は、スプリームだったか。
代々の精霊王の記憶を継いだ精霊王は、その横顔を見て思った。
愛しい夫を心配している顔。
本当に二人は愛し合っているのだろう。
あの、キールとかいう帝国の王は、かつての、あの精霊王に魂が近いのかもしれない。
だからこそ、アリアに惹かれたのか。
愛しい王子を想うあまり、禁忌を犯した精霊王。
そのせいで自分の樹を枯らし、追放された。
「この樹は、なんで枯れたんだ?」
キールは、樹の朽ちた幹に触れ、精霊王に尋ねた。
「何でだろうな。樹に聞いてみるといい。」
「分かった。」
触れたまま、ゆっくり目を閉じる。
すーっと意識が遠くなり、目を開けると、見知らぬ男になっていた。
青白く輝く樹で出来た宮殿で、自分から澄んだ低い声が響く。
誰かの体の中に入って、中から様子を見ているようだ。
口からは勝手に言葉が紡がれる。
「これが、ウンディーネを助けてくれた、王子か。」
津波に遭って流されて、傷ついた水の精霊姫。
彼は、彼女が人間ではないことに気づくと、誰にも見られないよう匿いながら、手当や世話をした。
霧に投影された画面に、王子が映る。
蜂蜜色の髪に青い瞳。
身も心も美しい王子。
「何か褒美を与えなければならないな。彼は何か欲しいものはないのか?」
俺の前に、美しい銀色のうろこを持った、人魚姫が現れ、人の姿になると、膝をついた。
「彼には欲がありません。ただ、私なら。彼に加護を与えたいと思います。彼の国は、人が暮らすにはたいへん厳しい場所です。小さな島国で、あらゆる災害が度々発生し、どれだけ工夫しても、多くの命が失われる。彼は、そのことに心を痛めていますから。」
「そうか。だが、人間はすぐ死んでしまう。彼のように、加護を与えるのにふさわしい人間が、この後も続くとは考えられないしな。」
「それならば、加護に印をつけましょう。虹色の虹彩なんていかがでしょうか。王族に生まれ、加護にふさわしい人間だけがその虹彩をもつのです。それを、王になるべき者の証にしましょう。」
光の精霊が指で虹を書いた。
「そのようなものが生まれる確率をあげたい。それに、代替わりが続けば、いくら口伝していったとしても、我々のことは忘れてしまうだろう。精霊の姫を代々の王の妃として嫁がせることを約束させよう。」
俺はちらりとウンディーネを見る。
ウンディーネは、顔を赤らめる。
「スプリームには、お前が嫁ぐんだよ。ウンディーネ。人間として暮らし続ければ、お前は人間になってしまうが、幸せにおなり。」
王子と彼女が心を寄せあっていることを、俺は知っていた。
「お父さま!?彼に何を!」
「枯れた神樹を再生してもらう。」
「そんなこと…!精霊でも出来ないのに!」
「呪われた神樹。お前の先祖の樹だ。再生ができれば、赦されたということ。精霊界からの追放が解ける。それが、私がお前たちの結婚を許す条件。」
「神樹?先祖?」
突然のキーワードに、俺もキールも顔を見合わせる。
「キールの先祖は、精霊界を追放された何代か前の精霊王だったの。どちらかといえば、盟約云々より、呪われた存在に可愛い孫を渡すわけにはいかないという迷惑な爺心というか…。」
お母様はじろりと精霊王を睨んでいる。
「アルフォンスとの結婚を許していただけるなら、やります。」
「よし、行くぞ。」
精霊王が次元を曲げる。
「ユンス!俺がいない間は、頼む!」
「結婚式の準備は進めておきますよ。早めに帰ってきてください。」
精霊界に足を踏み入れる。
清浄で神聖な空気。
そして、目の前には。
枯れ果てた巨木があった。
アリアは、加護を授けた最初の王子に本当に魂がよく似ている。
確か彼の名前は、スプリームだったか。
代々の精霊王の記憶を継いだ精霊王は、その横顔を見て思った。
愛しい夫を心配している顔。
本当に二人は愛し合っているのだろう。
あの、キールとかいう帝国の王は、かつての、あの精霊王に魂が近いのかもしれない。
だからこそ、アリアに惹かれたのか。
愛しい王子を想うあまり、禁忌を犯した精霊王。
そのせいで自分の樹を枯らし、追放された。
「この樹は、なんで枯れたんだ?」
キールは、樹の朽ちた幹に触れ、精霊王に尋ねた。
「何でだろうな。樹に聞いてみるといい。」
「分かった。」
触れたまま、ゆっくり目を閉じる。
すーっと意識が遠くなり、目を開けると、見知らぬ男になっていた。
青白く輝く樹で出来た宮殿で、自分から澄んだ低い声が響く。
誰かの体の中に入って、中から様子を見ているようだ。
口からは勝手に言葉が紡がれる。
「これが、ウンディーネを助けてくれた、王子か。」
津波に遭って流されて、傷ついた水の精霊姫。
彼は、彼女が人間ではないことに気づくと、誰にも見られないよう匿いながら、手当や世話をした。
霧に投影された画面に、王子が映る。
蜂蜜色の髪に青い瞳。
身も心も美しい王子。
「何か褒美を与えなければならないな。彼は何か欲しいものはないのか?」
俺の前に、美しい銀色のうろこを持った、人魚姫が現れ、人の姿になると、膝をついた。
「彼には欲がありません。ただ、私なら。彼に加護を与えたいと思います。彼の国は、人が暮らすにはたいへん厳しい場所です。小さな島国で、あらゆる災害が度々発生し、どれだけ工夫しても、多くの命が失われる。彼は、そのことに心を痛めていますから。」
「そうか。だが、人間はすぐ死んでしまう。彼のように、加護を与えるのにふさわしい人間が、この後も続くとは考えられないしな。」
「それならば、加護に印をつけましょう。虹色の虹彩なんていかがでしょうか。王族に生まれ、加護にふさわしい人間だけがその虹彩をもつのです。それを、王になるべき者の証にしましょう。」
光の精霊が指で虹を書いた。
「そのようなものが生まれる確率をあげたい。それに、代替わりが続けば、いくら口伝していったとしても、我々のことは忘れてしまうだろう。精霊の姫を代々の王の妃として嫁がせることを約束させよう。」
俺はちらりとウンディーネを見る。
ウンディーネは、顔を赤らめる。
「スプリームには、お前が嫁ぐんだよ。ウンディーネ。人間として暮らし続ければ、お前は人間になってしまうが、幸せにおなり。」
王子と彼女が心を寄せあっていることを、俺は知っていた。
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