王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

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残酷王の溺愛

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馬と船を乗り継いで、向こう岸のクリスタル帝国についた。

大型の高速船が出ているので、船へは馬車や馬ごと乗り込める。

数時間で、帝国にはつく。



俺は、気持ちの整理がつかずにいた。



プルミエたちが当たりをつけていたくらいだ。

キールももちろん、俺が冒険者ギルドに出入りしていることは当たりをつけていた。

見張りの者からの連絡を受け、すぐに追いかけたらしい。



助けてくれて、嬉しいけど。

二人は死んでしまった。



キールが駆る馬に一緒に乗って、城に向かう。

背中にキールを感じる。



その暖かさが心強くもあり、その存在が怖い。

わかってはいるんだ。

俺は甘い。


彼らは、どこまでも俺を恨んで。
どこまでも俺を追いかけてきただろう。
そしていつか、殺されたかもしれない。


だから、あそこでああすることが最善だったことは。


「ついたよ。」

エスコートされて降りると、白の石でできた美しい宮殿。


「おかえりなさい!アリア!!」


精霊姿のお母様が飛んでくる。

「ただいま。お母様。」


お母様は元気そうだ。


「アリアは元気ないわねえ。まずは休むといいわ! 部屋へ案内してあげる!」


お母様に連れて行かれたそこは、王の部屋とコネクトルームになった王妃の部屋。


高い天井。シャンデリア。広い部屋には金糸で縁取られた赤でカーテンや絨毯が統一され、素敵な調度品もある。

ラベンダーの香りのする香も焚かれていた。


でも、落ち着かない。


「う、ふうっ。」


一人になった部屋で泣いた。




「アリア妃。夕餉の時間ですが、いかがいたしますか?」


キールが俺につけてくれた侍従は、キールの乳兄弟で幼なじみらしい。

俺は男だから、侍女じゃなくて助かった。


「ユンス。ありがとう。でもごめん、食欲がないんだ。一人にさせて。」


「……分かりました。軽いものをなにかお持ちしますから、気が向いたら少し腹に入れてください。体を壊します。」


「ありがとう。」


早めに部屋にある風呂に入り、ユンスが持ってきてくれた果物と果実水を口にして休んだ。


目を閉じると、二人の最期が焼き付いて、寝られず、涙がこぼれた。

嫌な思い出しかない、嫌いな従兄弟だったけど、悲しかった。

自分が本当の姿を明かして王位を取り返していたら、ああならなかったんじゃないか。

結局、自分がよかれとした行動が、ああいう結果を産んだのではないか。



夜になると、キールが部屋に来た。
寝たふりをする俺を起こさず、後ろから優しく抱き締めて。


何もしないで、二人で眠った。

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