王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
2 / 87

絶対に逃がさない

しおりを挟む
「クリスタル陛下にはご機嫌麗しゅう。」

伴もつけずにお忍びでいらした陛下は、若い。

黒髪黒眼。エキゾチックな美丈夫で、がっしりした体格。
年はまだ20代前半の若者だが、策略と力で政敵を一掃し、邪魔な者を全て死罪にした残酷王。

彼の治世で、帝国はより強固に栄えている。

隣国の怪物。


年齢にそぐわぬ威圧感で、汗が止まらない。


「ああ、楽に。今日は前王のアリア王女を我が嫁にいただけないかと思ってきた次第だ。」

「アリアを……ですか。子どもの頃は美しい子でしたが、正直、パッとしない子です。よろしいのでしょうか。」


「いいんだ。精霊の加護の瞳を持っているのだろう? 帝国は産業は栄えたが、代わりに汚染も進んでしまった。験担ぎでもいいから、欲しいのだよ。代わりに、お前の国へは軍をこさせないでおこう。」

婚姻の申し入れには無粋だからね、国境沿いにおいてきたんだよ。

無邪気な笑顔が逆に恐ろしい。

「わかりました、アリアを輿入れさせます。」


「その母親も面倒みるから、ね。」

「はい!」



そういうことがあったのが、今日の午前中。




「やばい!明日が婚約式!! 結婚式みたいにこの国で国民の前で宣誓させられる!」

男で男と結婚できるわけがない!
ただでさえ今まで姫のふりをしてるのに、罪が重くなる!

輿入れしてから、男とバレるのもたいへんだ。


「逃げましょ! 今すぐ!」

幸い金はギルドに貯金している。

俺は長い髪をナイフで切って、足がつかないように火魔法で燃やし、精霊に戻った母親とともに、最低限の荷物を手に城を出た。

まずはギルドに行こう。
ギルドの銀行は、どこからでも引き落とせるけど、当座の資金と、宿を手配したい。





「珍しいわね、夜にあなたが来るなんて。」

ギルドの酒場は、客でごった返していた。

「今までありがとう。実は、今夜国を出ようと思って。旅賃を下ろしたいのと、今日泊めてほしくて。」

「そうなの。寂しくなるわね。お金は大丈夫だけど、部屋は困ったわ。」


えっ。満室なのか……。
ここが一番追手的に安心だったんだけどなぁ。

余計な詮索されないし。


「アルフォンスじゃないか!」


酒場から、声がする。

昼間にパーティーを組んだキールだ。


「どうしたんだい?髪も切っちゃって。」

「実は、急なんだけど国を出ようと思って。髪は…気分転換? 遅いからここに泊まって、明日出立する予定だったんだけど、満室だからどうしようかなと思っていたところ。」

「ふーん。」

キールは、腕を組んで考えると、パチンと指を鳴らした。

「じゃあ、俺の部屋に泊まるといいよ。」

「え、いいよ。こうなったら、夜だけど出立するし。野宿でもなんとか……」

「夜は危ないよ。悪い狼に食べられちゃうかもよ?……まあ、知らない仲じゃないし。男同士なんだからいいだろ?それに、俺はリッチなんだ。物盗りの心配もないよ。」


確かに、キールの装いはリッチだ。
何処かの貴族のお忍びって言ってもおかしくない、質のいい生地に仕立てがいい。


「じゃあ、お願いしようかな。ありがとう。」

「どういたしまして。」



逃さないよ。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...