王様との縁談から全力で逃げます。〜王女として育った不遇の王子の婚姻〜

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
1 / 87

全力で逃げます。

しおりを挟む
「アリア。相変わらず地味ですこと。どうして、あんな美しい母親からあなたみたいなそばかすブスが産まれたのかしら!」
宮殿の端で派手なドレスに身を包み、俺をコケ下ろすのは、いとこで今の王の娘のプルミエ王女。
そこそこ美人だが、飛び抜けてるわけでない。俺にとってはどうでもいい。


「私もそう思います。」
とりあえずこう言っておけばいい。


「あなたがきれいなのは、瞳だけね。虹色の虹彩の青い瞳。迷信だけど、縁起ものらしいから、そういうのが好きな年寄にでも、貰っていただけるといいわね!」

自分はいいとこの王子様との縁談が決まっているからか、マウントをとってくる。


めんどくさっ。



適当にやり過ごして、自室に戻ると鍵をかける。

メイクのそばかすを落とし、
伸ばしっぱなしの蜂蜜色の髪を束ねる。
ドレスを脱いで、タンスの奥の男物。
腰に剣を下げて、俺は窓から駆ける。


「シルフィ!ウイング!!」



俺が精霊を呼ぶと、背中に羽が生える。


「今日はどこにいこうかな。」

プルミエなんてメじゃないくらい、母親似で美しく、精霊に愛され、すべての属性魔法が使え、高い魔力。

そして、男。


それが本当の俺。


俺は、いつものように空を飛び、市街へ向う。
目指すは、冒険者ギルド。


冒険者としての俺の名前は、アルフォンス。
二つ名は、『無詠唱』。
結構有名人なんだ。





この、クロノス王国は小さな島国だ。海に囲まれ、自然豊かで、精霊が守護する国と言われている。

精霊の代行者の証である青い瞳に虹色の虹彩を持つ王子が代々王位についていたが、昔は神秘性のあったそれも風化し、19年前に王族同士の争いで王統が変わった。
精霊の力を宿すと言われた王ではなくなったが、何も悪いことは起きていない。
つまるところ、迷信。
以降は平和なもんだ。


王が倒された時、美姫だった俺の母親は、第一子を孕んでいた。

産まれたのは、俺だ。

正統王位後継者の証である瞳を持った男子の誕生は、このタイミングでは、とても危険だった。
だから、俺は姫になった。


母親似の美しい姫は、政略結婚の道具になるから、母親ともども生かされた。

だが、いとこの王子や王女がとても面倒くさくて、ある程度成長してからは、メイクで地味にして、学校の授業も手抜きして、才覚も本性もひた隠しにした。

嫉妬はめんどくさい。


俺は、地味なソバカスブスで、魔法も勉強も取り柄のない、凡庸な役立たず。

それでいい。

それで、政略結婚にも使えない俺は、めでたく、お母様ともども来週の18歳の誕生日に城から追い出されるのだ!

やったね!

俺は男に戻って、冒険者として幸せに生きるんだ!





「きゃあ!アルフォンス! 相変わらず美人ねぇ! で、今日は何の依頼を受けるの?」

冒険者ギルド兼酒場に行くと、受付嬢のジェシカが声をかけてくれる。

「どうしようかなあ。近々やっと家から自由になるんだよ。まとまったお金が欲しいからなあ。」

「でも、今お金になるのはパーティーにしか出してないのよね。リバイアサンの巣の駆除なんだけど。」

「俺ならソロでもいけそうだけど。」

「ごめんなさい。パーティーメンバー探して受けてくれる?」

うーん。出自がめんどいからソロがよかったんだけどなあ。

そう思っていたら、奥から酒場の客が手を上げた。

黒髪黒目の、きりりとした美形の男。

「俺じゃだめかな?パーティーメンバー。回復魔法使えるよ。」







用事ついでに酒でも飲んで帰ろうと、何気なく寄ったギルドだった。

蜂蜜色の髪を1つに束ね、キメが細かそうな白磁の肌。スッとした鼻筋に、キラキラした虹色が映る青い大きな瞳。長い睫毛が影を落とし、小さめな唇は桃色で。

女性だとしても、絶世の美女と言える風貌の奇麗な男が、ギルドに入るなり受付嬢にクエストの受注を相談している。

有名人みたいだが、何者だろうか。

「すまん、彼はいったい? 随分目立つ人だね。」


「ああ、アルフォンス。S級冒険者だよ。訳ありらしくて、ちょっとした小遣い以外は、報酬を全部貯金してるんで、いいとこの子なんだろうって噂だな。」

「S級! 意外と強いんだね。英雄クラスじゃないか。」

「ああ、この国の軍隊が役立たずで、あわやだったドラゴンの襲撃を、一人で倒しちゃったんだよ!ははは、あの時の騎士団の悔しそうな顔は見物だったんだぜ!? 王と王太子が率いてたんだが、全く役立たずで。」

無詠唱で自在に魔法を駆る英雄。
それが、アルフォンス。

「ふうん。」

興味深い。

彼の会話に耳を澄ますと、パーティーメンバーが必要らしい。


俺は、手をあげてメンバーに名乗りをあげた。

彼はまだ渋っていたが、俺が異国の人間で後腐れがないと分かると、パーティーを組むことになった。

彼は凄かった。

無詠唱でリバイアサンの水攻撃を凍らせて固めながら、自分と俺を強化して速度上昇と浮遊をつけ、雷撃で巣を焼き切った。


「やったあ!」

「アルフォンス! お前は凄いやつだな!」

凄い美人でこんなに凄いのに、彼は全然偉ぶらない。

表情豊かで、本当にかわいい。


それじゃあこのへんで、と報酬の手続きをして別れたあと。

気になって後をつけた。


市場でお土産だろう串焼きを買って抱えて、彼は、この国の城のある部屋へ壁伝いに帰っていった。



確かに、彼の瞳は、この国の王族に現れるもの。

だが、今の王家には、あの瞳の王子も王女もいないはず。

ただ一人、前王の姫を除いては。


「ふふっ。これは面白い。なんて偶然か。」

腹を抱えて笑った。





「ただいま、お母様!」

「アリア!おかえなさい!」

窓から帰ると、いつまでも若々しい母親が抱きついてくる。

桃色の髪、グリーンの瞳。

春の花のような美女。

「お母様、串焼き。お土産だよ、一緒に食べよう。」

「きゃあ、おいしそう!ありがとう!」

ポンッとお母様は人間の姿を解く。

肩に乗るくらいのサイズの、虹色の羽を持つ。

お母様こそ、この地の精霊王の娘だった。

「ごめんねえ、へんなタイミングで産んじゃったから……。」

お母様が精霊だということは秘密。

妊娠出産の時期に妖精サイズになるわけにいかず、俺を守るため、お母様は人間として城へ留まった。

「いいよ。命があって嬉しい。お母様のおかげ。ようやくここから出られる。そうしたら、二人で好きなとこで暮らそう。冒険者の稼ぎ、結構いいんだよ。」

「ふふ、楽しみだわ!」


とんとん。


ノック。


それは、王からの呼び出し。



残酷王と噂の、クリスタル帝国のキール=クリスタル王への輿入れが決まったとの話だった。



俺、じつは男だし。
無理だし。


全力で逃げます!




しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました

SEKISUI
BL
 ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた  見た目は勝ち組  中身は社畜  斜めな思考の持ち主  なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う  そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される    

学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語

紅林
BL
『桜田門学院高等学校』 日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する野球ドーム五個分の土地が学院としてなる巨大学園だ しかし生徒数は300人程の少人数の学院だ そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語である

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

某国の皇子、冒険者となる

くー
BL
俺が転生したのは、とある帝国という国の皇子だった。 転生してから10年、19歳になった俺は、兄の反対を無視して従者とともに城を抜け出すことにした。 俺の本当の望み、冒険者になる夢を叶えるために…… 異世界転生主人公がみんなから愛され、冒険を繰り広げ、成長していく物語です。 主人公は魔法使いとして、仲間と力をあわせて魔物や敵と戦います。 ※ BL要素は控えめです。 2020年1月30日(木)完結しました。

どうも、死んだはずの悪役令嬢です。

西藤島 みや
ファンタジー
ある夏の夜。公爵令嬢のアシュレイは王宮殿の舞踏会で、婚約者のルディ皇子にいつも通り罵声を浴びせられていた。 皇子の罵声のせいで、男にだらしなく浪費家と思われて王宮殿の使用人どころか通っている学園でも遠巻きにされているアシュレイ。 アシュレイの誕生日だというのに、エスコートすら放棄して、皇子づきのメイドのミュシャに気を遣うよう求めてくる皇子と取り巻き達に、呆れるばかり。 「幼馴染みだかなんだかしらないけれど、もう限界だわ。あの人達に罰があたればいいのに」 こっそり呟いた瞬間、 《願いを聞き届けてあげるよ!》 何故か全くの別人になってしまっていたアシュレイ。目の前で、アシュレイが倒れて意識不明になるのを見ることになる。 「よくも、義妹にこんなことを!皇子、婚約はなかったことにしてもらいます!」 義父と義兄はアシュレイが状況を理解する前に、アシュレイの体を持ち去ってしまう。 今までミュシャを崇めてアシュレイを冷遇してきた取り巻き達は、次々と不幸に巻き込まれてゆき…ついには、ミュシャや皇子まで… ひたすら一人づつざまあされていくのを、呆然と見守ることになってしまった公爵令嬢と、怒り心頭の義父と義兄の物語。 はたしてアシュレイは元に戻れるのか? 剣と魔法と妖精の住む世界の、まあまあよくあるざまあメインの物語です。 ざまあが書きたかった。それだけです。

[離婚宣告]平凡オメガは結婚式当日にアルファから離婚されたのに反撃できません

月歌(ツキウタ)
BL
結婚式の当日に平凡オメガはアルファから離婚を切り出された。お色直しの衣装係がアルファの運命の番だったから、離婚してくれって酷くない? ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

処理中です...