後悔なんて知ったことではありません!~ボクの正体は創造神です。うっかり自分の世界に転生しました。~

竜鳴躍

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アースレッドの婚約

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まだ18歳まで1週間あるのに。

明日家を抜け出そうとしていたというのに、突然離れにやってきた父親に何やら正装をさせられて、馬車に乗せられ、連れて来られたのは―――――――――――。





「……えっ。」


僕でも分かる。

ホーリー王国のお城、だ。


先がとがった鉛筆がいくつも束ねられたような、荘厳な城。

ガラスがステンドグラスなのは、曲がりなりにも宗教国だからなのだろう。

ここは城であり、国の正教会の総本山でもある。

そして、陛下は国王であり、教皇なのだ。


ここに来るのは10歳の時以来。
10歳の時、僕は『加護ナシ』だって陛下から言われたんだ…。


でも。それは…。




「陛下と殿下たちがお見えになる。頭をさげろ。」

父のミルレッド=シルフィーが冷たい目をして僕に言った。
薄い紫の髪に緑色の目。

顔立ちはハンサムなんだろう。

長い髪をオールバックにして、筋肉質な体に正装が良く似合って威風堂々としている。

その隣には、緑色のドレスを着た義母。
僕の今世のお母様であるラーファお母様と姉妹なだけあって、顔はよく似ている。
どちらかといえば、母の方が清楚で美人系だけれど。
同じような銀髪と青い眼をして、でも品の悪さが滲み出て。

僕のことをニタァと見下している。

2人の後ろには弟のシーバ。お父様にそっくりだ。


空気が動く気配がして、面をあげよ、と言われ、顔をあげると。


記憶より年を召された金髪の美丈夫が玉座に座り、その横にはハニーブロンドが美しい美女、そして王子と思しき二人が立っている。

一人は王太子のエース=ケント=ホーリー殿下、もう一人がプラム=ヴァッカ=ホーリー殿下だろうか。
金髪が明るい方がエース殿下で、彼よりやや背が低いハニーブロンドの方がプラム殿下、だろう。




「こたびはそちの嫡男をプラムの妃とすることについて、我が命をのんでくれたことに感謝する。」


え?

僕が第二王子の妃???

どうして――――――?

確かにこの世界は、やろうと思えば同性同士でも魔法で子どもを授かれるけど…。



「臣下として当たり前でございます。アースレッドも王家に嫁げて幸せでしょう。」

「アースレッドよ。形ばかりの妃になってしまうが、王家として可能な限りのことはしよう。」

形ばかりとは?


「アースレッド。プラム殿下には真に想う相手がいらっしゃるのだ。聖なる魔法の加護を持つ方だが、男爵令嬢でな。爵位が低い。お前は加護ナシだが、伯爵令息だからな。陛下がここまでおっしゃってくれているのだ。お前にとってこれ以上のご縁はないだろう。お前は頭はよかった。王子妃教育を受け、殿下を生涯支えるのだぞ。」

父の言葉に合点がいく。

第二王子のお飾りの妃なんて高位貴族で誰も成り手がおらず、しめたと思った父が僕を薦めたんだ。
本当の妻は男爵令嬢。

恐らく僕の加護ナシやらなんやら……理由をつけて、第二妃として入るのだろう。
二番目以降なら、男爵令嬢でもアリだから。


僕の夫になるというプラム殿下は、終始つまらなそうに僕を見下ろす。


「王家の都合での婚姻だ。支度金などは要らぬ。こちらで全て面倒をみよう。それから、大事な嫡男をこのような形で奪う詫びだ。弟殿をエースの側近としよう。精進するのだぞ。」


「はい!ありがたき幸せ!」
シーバが満足そうに胸を張り、義母は扇の裏で醜く笑う。

なるほど、そういうことね。



ああ、ここに今、マークがいたら暴れてただろうな。
ここに連れて来られる時、置いてきちゃったから…。




「ふん。なかなか美形じゃないか。俺は男を抱く気などないが、生涯性の悦びを知らぬのも哀れだろう。俺の部下たちに下暢してやるか。」

「プラム!」

なるほど、プラム殿下はなかなかゲスな方らしい。
それを諫めるエース殿下はマトモなのか…?



ふーん。




ふーん。





「陛下。恐れながら僕にだって人として尊厳も権利もございます。今の殿下の発言はどうなのでしょうか。男爵令嬢と結ばれるために犠牲にしようとしている相手に言う言葉だとはとても思えないです。」

「こら!アースレッド!!!」

陛下が何か言う前に、父親が手を振り上げようとする。


「私から謝罪する。プラムにはよく言って聞かせよ「結構です。僕はこのお話をお断りいたします。僕はたった今から、ただのアースになる。お父様、そういうわけなので。」」


「何を馬鹿なことを言っているんだ!!!!!!!」
父親が怒りに任せて竜巻を練り上げた―――――――――――が、それは僕の前で霧散する。



「ば、ばかなっ。」


「お父様の風は消しました。そうだ、お父様たちの加護を消してあげましょうか。あなた方のような人に、?」


僕が手のひらから光を出すと、お父様たち3人の体は淡く光る。


「え、こ、これは??」

「う、何かが体から抜けていく………っ!!?」

「う、嘘…!あなたっ、魔法、魔法が……!スキルが頭から消え…っ!?」



陛下が、ガタっと玉座を立った。

息子たちや妃は狼狽えているようだ。(表情には出していないが)


「ま、まさかっ。『加護がなかった』のは……!!まさかっ!!!」



「汗びっしょりだよ?そう。さすがに一国の王で仮にも教皇であれば、僕の力の気配で気づいたんだね。」


「貴方、さまは!」

「へ、陛下!?」「父上?」

陛下は檀から降り、僕の足元に膝をつき、頭を垂れた。



「神様…!アースレッド=シルフィー様…!貴方様は神様の顕現体だったのですね…!!貴方様が『神』そのもの。生まれながらにして、この世に顕現されし神。既にすべての権能をお持ちなのだから、自分で自分に加護を与えるわけはない。ゆえに『加護ナシ』と判じてしまった…!神職でありながら気づかなかった………っ。この不肖の落ち度でございますっ!」


「神!!?」

「お父様、魔法が!加護が消えてっ!」

シルフィー家の家族は自分たちが『加護ナシ』になってしまったことに気付き、慌て始めた。



「お許しください!何卒ご慈悲を…!プラムは幼い頃は体が弱く…、つい甘やかして我儘にしてしまったのは、私の責任!息子の無礼をお許しください!縁談も白紙で…、白紙に致しますからッ!」

「父上!なんでそんな奴に…!?急にどうしたんだよ…!」


「黙りなさい、プラム!貴方のために父が謝っているのですよ!!」

「母上。いい加減にしてください。もう…。父上も。いくら甘やかしてしまったといっても、あそこまでクズになってしまったのは、本人が悪いです。プラムはもう大人なのだから、本人にも責任をとらせるべきです。いつまでも守るから、いつまでも自分の非が理解できないのです。上がしっかりしていれば下も見習うはずだから大丈夫だろう、兄なのだから弟を守れ、庇え…。私だって、父上と母上の子なのに、私は甘えが許されず、プラムは好き放題に生きてきた。そして、何か起これば私に後始末させてきましたよね。私はとても不満でしたよ。そういう育児の在り方が、プラムをこんな子にしてしまったのです。もう、矯正できないほどの、どうしようもない、クズに。」


「あ、兄上!?」

「エース、お前…そんなふうに…!?」


「ふふ、私は悪い兄なのでしょうね。けれど、施政者としては私の判断は間違っていないはずです。神様、私は貴方様をこの国に縛り付けるつもりはございません。神である貴方のご意志のとおり…。私は受け入れます。10歳の儀式のときの父の判断ミスやこうして無礼なことをしてしまった件につきましては、責任をとって退位していただきます。弟は男爵令嬢と添い遂げたいというのであれば、王族籍から除籍し、男爵家に入り婿として出しましょう。」


「善き判断です。それでは、エース陛下。これからこの国をお任せ致します。」


「はい。お任せください。」



前陛下と王妃は諦め、騒いでいるのはプラムとシルフィー家のみ。


「あぁああああああ、わしが、ワシが悪かった…!!!どうか、私たちの加護を!!加護を戻して!」

「許して!!!」

「今まで虐めてごめんなさあいいいいいいいいいいいい!!!」


つーん。ムシムシ。




「では、皆さまごきげんよう。さようなら!」

パチンと、指を弾くと、異空間ゲートを通って僕のマークが馬車ごと現れる。


「お待たせしました!アースレッドさま!行きましょう!」

「うん!」




僕はマークの操る馬車に乗り込んで、そして一瞬でホーリー王国から消えた。





一瞬のことで放心する人々。

王家はエースがいれば大丈夫だけど、シルフィー家はもう終わりだろう。




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