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愛はそこにあった

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あれは……。私の元妻。



私の棺を前にして、ぽろぽろと泣いている。



ただ、棺があるだけの。

誰もいない、寂しい葬儀。



そうだ。二人ともアルコールでやられたけど、先に逝ったのは私だった。


「今更、なんだ!帰れっ、そんなウソの涙に騙されないぞ!!お前らのせいだ、お前らが俺たちをこんなふうにしたんだ!俺だって長くないっ!」

乱がふらついた体で悪態をつく。



「もう、いいよ。行こう、お母さん。」

さりなに連れられて、あいつはこじんまりした葬祭場から離れた。




「私の、私のせいっ…。」

「違うよ。あいつら自業自得だよ!私知ってるよ、母さんが殴られてたってことも!」

「あの人ね、可愛らしい時もあったのよ。私あの人のころころした体型も、つるつるした頭も、一生懸命動く手足も大好きだったの。いい時もあった。あの人ったら、毎日1本ずつ薔薇をプレゼントしてくれて。あんなに熱心にくどかれたのは初めてだったの。愛してた時もあったのよ。」


「母さん…。」


「あの人がいろんなことで義理のお兄さんに劣等感を抱いていたのは知ってたわ。私を自慢するのは、よかったの。でもね、あの人が自分をあげるために周りを下げようとするところが嫌だって思ってた。会社がうまくいかなくても、私が支えるからいいでしょうって思ってたのよ。でも、劣等感があったから……きっと、その状況も全部、許せなかったんだわ。」



(私は……醜かったのに…。妻は私を愛してくれていたのか…。金で結婚したんじゃなかったのか…。)


「その劣等感を、傷ついた心をなんで私は癒してあげられなかったのかしら。私がモデルで稼ぐから大丈夫よ、じゃなくて、あの人の会社のためにどうして一緒に働かなかったのかしら。私が、愛を向けていれば、きっと……っ。」

「泣かないで、お母さん。」





(私が……。私が悪かったんだ。愛はそこにあったのに。兄さん、勝手に羨んで……。ごめん。)







【なっ…!なんだっ…く、くるしっ…】


魔王の体から男が離れ、倒れる。


魔王は霧状の存在に戻った。


魔王から別れた男は、全てを吸いつくされたように萎んで、衰弱してすぐに事切れた。




「やったな、エレナ。幻覚魔法が効いたな!」

「幻覚じゃないわ。こないだ会った時に、ね…。」



【うううううううううっ!こうなったら………!分けた方へ…!】


「あああ!」


魔王は霧状の体を飛ばした。次の宿主の下へ。
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