76 / 90
馬鹿なっ!?
しおりを挟む「言っておくけど、私は将校57人から推薦されて、将校になったからね」
「「なっ!57人!!」」
まぁ、驚くことも仕方がない。普通はそのようなことは無いらしいから。
「おい、何をした!俺たちですら、2ヶ月かかってやっと騎士になったんだぞ!」
「ゼクトデュナミス。ここで騒ぐのはよくない」
そうだね。ザインの言うとおりだ。ザインは何かと突っ走るゼクトの諌め役だ。恐らく神父様がゼクトを一人にしておくと問題を起こそうとするので、ザインをつけたのだろう。
「だが、あの弱いアンジュだぞ!訓練もサボって最低限しか参加しなかったアンジュだぞ」
あ、それはバイトしていたから朝の聖水の作成作業と教会の清掃以外の訓練の免除を神父様から許可をもぎ取っていたし、どうしても出ろと言われた時の戦闘訓練は面倒だから手を抜いていたからね。
「リュミエール神父に色目使っていたアンジュだぞ」
「恐ろしいこと言わないでもらえる?」
なぜ、私が神父様に色目を使わなければならないのか。当たり障りなく接することに苦心しても、決して媚を売った覚えはない!
「だったらなんで、リュミエール神父の部屋によく出入りしていたんだ!」
「それはお説教と反省文という名の経済学の論文を書かされていたから」
「リュミエール神父とよく出掛けていたよな!」
「ボードゲームで神父様に勝てばケーキを奢ってくれるという報奨物のため」
ん?今思えば、何かと神父様に課題を出されていたな。
ゼクトは私が将校になることが気にいらないらしい。いつもながら、よくわからないことで、突っかかってくる。私が決めたことじゃないのに、ここで騒がないでほしい。
「ねぇ。これ以上騒ぐと、神父様に説教してもらうよ。ここに神父様が来ているからね」
すると、ゼクトはピタリと文句を言うのを止め、ザインのところまで戻っていき私に背を向けた。
やはり、神父様が怖いのは皆同じらしい。だけど、私を後ろ目で睨んでくることに変わりはなかった。
その時、この聖堂の鐘が鳴り響いた。音楽でもかなでるように音階が違う鐘が鳴り響く。聖典に書かれている聖女の祈りの一節の音階だ。儀式が始まるのだろう。
「ザインメディル・フラヴァール!」
ザインの名が一番初めに呼ばれた。
一人一人名を呼ばれ、聖女の石像に誓いの言葉を言うだけの儀式だ。
普通の騎士団なら王から剣を承り、剣を捧げる儀式もするそうだが、いない人物が騎士に向けて剣を掲げるわけにはいかないので、言葉だけを捧げるだけだ。
「ゼクトデュナミス・エヴォリュシオン!」
5分ぐらいの間隔を開けてゼクトの名が呼ばれた。
何度かゼクトの名を聞いたことがあるけど、いつもながら全く聞き取れない。私の病気は成長しても治ることはなかった。
「アンジュ!」
なんだか家名がないと味気ないな。そう思いながら、金の装飾がされた扉の前に行き、祭壇側から開けられた扉をくぐって、進んでいく。そこは、人、人、人に埋め尽くされた空間だった。その視線が一斉に突き刺さる。そして、ざわざわとざわめきが沸き起こる。
聖女至上主義の狂信者共め。黙っていろ。全身を嘗めるような気持ち悪い視線を向けてくるな。
私は祭壇の中央上部に設置してある。手を組んで天を見上げている女性の像の前に立つ。どこの聖女像も同じ姿をしている。決して剣を捧げる騎士を見ることはない。
その前に跪く。そして、飾りである腰の剣を抜き、目の前に掲げ、左手を剣身に添える。息を吸い、決まりきった文言を言う。
「我が剣は魔を払い。我が盾は闇を払い。我が身は天使の聖痕を化現されし、聖なる者を命をかけて守らん」
心にもないことを誓わされるつまらない儀式だ。そして、私の名を呼んだ同じ声で階級の授与の言葉が示される。
「この者に将校の階級を与える」
この言葉に合わせて拍手がされ、私は立ち上がり、踵を返して狂信者共がいる方に向けて一礼する。
これで終わり。顔を上げると私の正面上段から見下ろす白い王と視線が合った。ああ、彼の周りのモノたちは聖堂の中でも顕在なのか。
「この場を借りて皆に報告がある」
いつの間にか私の隣にはルディが立っていた。え?気配を感じなかったのだけど?
「私、シュレイン・ルディウス・レイグラーシアとアンジュは一年後に婚姻することとなった。これは国王陛下に許可をいただいた婚姻だ」
ザワザワとざわめきが大きくなる。所々から『あの虐殺の王弟が』とか『死神が』とか聞こえてくる。ルディの痛い二つ名は貴族の間でも有名なようだ。
「王家に白銀の色を入れる婚姻だ。この場では婚約をしたという報告をさせてもらう」
ん?その言い方だと悪いように捉えられないだろうか。私の疑問は拍手の海にかき消されてしまった。
私はルディに手を引かれ、祭壇前から連れ出された。待ち時間が長いわりには、誓いの儀式は直ぐに終わってしまった。まぁ、長々と説法を解かれても耳から耳へ通り抜けていくだけだから、これで良かったと思おう。
無言で長い廊下を歩いていると、私とルディの行く道を遮る者がいた。ゼクトなんたらかんたらだ。
「おい!やっぱり卑怯な方法で将校になってるじゃないか!」
何をいきなり言い出すのか。私は呆れた目をしてゼクトを見たのだった。
33
お気に入りに追加
1,011
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
リンドグレーン大佐の提案
高菜あやめ
BL
◾️第四部連載中◾️軍事国家ロイシュベルタの下級士官テオドアは、軍司令部の上級士官リンドグレーン大佐から持ちかけられた『提案』に応じて、その身を一晩ゆだねることに。一夜限りの関係かと思いきや、その後も大佐はなにかとテオドアに構うようになり、いつしか激しい執着をみせるようになっていく……カリスマ軍師と叩き上げ下級士の、甘辛い攻防戦です【支配系美形攻×出世欲強い流され系受】
【完結】追放された聖女は隣国で…神王に愛され求婚される
まゆら
ファンタジー
いきなり聖女を首になった白薔薇の乙女ヒルダ。
聖女を辞めて王子の嫁とかありえませんから!
しかも、勝手に罪を偽造されて国外追放って‥
隣国に亡命して最強聖女に君臨して私を首にした人達をざまぁするしかないですね?
マイペースでヤバい位の鈍感力の持ち主である聖女ヒルダがアーライ神国で普通の女の子に憧れながらも、聖魔力ぶっ放したり、初恋のヒトと…
何か起こるかわからないハラハラドキドキファンタジーなのか?
学園ラブコメファンタジーになってしまうのか?
私、今日から魔王になります!とコラボ中です!
新人魔王様がイケメンの側近達とのんびり魔界で暮らしているお話です。
そんな魔界にいきなりラハルト達が迷い込んだら…
空から来ましたが、僕は天使ではありません!
蕾白
BL
早島玲音(はやしま・れね)は神様側のうっかりミスで事故死したことにされてしまった。
お詫びに残った寿命の分異世界で幸せになってね、と言われ転生するも、そこはドラゴン対勇者(?)のバトル最中の戦場で……。
彼を気に入ってサポートしてくれたのはフェルセン魔法伯コンラット。彼は実は不遇の身で祖国を捨てて一念発起する仲間を求めていた。コンラットの押しに負けて同行することにしたものの、コンラットの出自や玲音が神様からのアフターサービスでもらったスキルのせいで、道中は騒動続きに。
彼の幸せ転生ライフは訪れるのか? コメディベースの冒険ファンタジーです。
玲音視点のときは「玲音」表記、コンラット視点のときは「レネ」になってますが同一人物です。
2023/11/25 コンラットからのレネ(玲音)の呼び方にブレがあったので数カ所訂正しました。申し訳ありません。
悪役令息の七日間
リラックス@ピロー
BL
唐突に前世を思い出した俺、ユリシーズ=アディンソンは自分がスマホ配信アプリ"王宮の花〜神子は7色のバラに抱かれる〜"に登場する悪役だと気付く。しかし思い出すのが遅過ぎて、断罪イベントまで7日間しか残っていない。
気づいた時にはもう遅い、それでも足掻く悪役令息の話。【お知らせ:2024年1月18日書籍発売!】
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
[BL]王の独占、騎士の憂鬱
ざびえる
BL
ちょっとHな身分差ラブストーリー💕
騎士団長のオレオはイケメン君主が好きすぎて、日々悶々と身体をもてあましていた。そんなオレオは、自分の欲望が叶えられる場所があると聞いて…
王様サイド収録の完全版をKindleで販売してます。プロフィールのWebサイトから見れますので、興味がある方は是非ご覧になって下さい
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる