44 / 90
攻め会
しおりを挟む『黄色い裸族が、ぷらんぷらんさせながら徘徊しているらしい』
そんな都市伝説が巷を騒がしている。
夜更けに街中で見かけた警邏の隊員が「そこのキミ、ちょっと待ちなさい」と声をかけて、うしろから肩を掴んだら、とたんにパシャンと崩れて消えてしまったとか。あとの地面がべっちょりと濡れてオシッコを漏らしたみたいに黄色くなっていたとか。
この話をわたしに聞かせてくれたのは、移住村の女の子。以前より熱心な要望があったので、公園にブランコを増設に行ったときに教えてくれた。
いま子どもたちの間で、一番ホットな話題なんだとか。
子どもってばビビりのくせして、この手の怖い話ってわりと好きだからねえ。
わたしにも覚えがあるよ。小さい頃にテレビでホラー映画とか心霊特番を見ては、夜中にお母さんの布団に潜り込んで、しょっちゅう夫婦の営みを邪魔したものである。もしもあんなことがなかったら、今頃かわいい弟や妹の一人や二人いたのかもしれない。
まぁ、それはともかくとして、この「黄色い裸族」の話を聞いたとき、わたしの脳裏にサッとよぎったのは、かつて魔族領の隅っこにあるダンジョンにて遭遇したヤツのこと。
スーラと呼ばれる、歩くこんにゃくゼリーの塊みたいなモンスター。
ゴミだろうが死肉だろうが生餌だろうが、なんでも消化して食べる。食べた物によって色が変わるというから、おもしろがって光の剣の残骸を与えてみたら、超絶進化して黄色いオッサンになった。
しかしあまりにもウザい言動と、見苦しい股間のぶらぶら具合にイヤ気がさして、穴を掘って地中深くに埋めて、コレを封印。
もしや、そいつが復活したのかっ!
まさか、いや、そんなハズはあるまい。そう思い込み忘れようとした。しかし一抹の不安をどうしても拭いきれない。気になるあまり夢にまで見て、ぷらんぷらんされる始末。
そこでわたしは、この心のモヤモヤを晴らすべく宇宙戦艦「たまさぶろう」にて、確認に赴くことにした。
魔族領の端っこの方にある深い深い森の奥が目的地。
いちおうは魔族領ということもあり、鬼メイドのアルバに先導をさせる。
だが、ひさしぶりに訪れた現地は、すっかり様変わりしていた。
「すごい賑わいですねえ」とアルバ。
「あの寂れっぷりは、いったいどこへ」あまりの盛況ぶりに唖然とするわたし。
「宿屋に武器屋に道具屋に酒場にと、すっかり開拓されていますね」とはルーシー。
訪れる者とてほとんどおらず、世間から忘れさられて、自然に埋没しかかっていたダンジョン。
だが、いまでは周囲の森が開拓され、ダンジョンを中心にして建物が乱立し、ちょっとした町のよう。
そこに集いひしめき合うは、腕に覚えアリと云わんばかりの魔族の猛者たち。
アルバがその辺にいる連中に声をかけて事情をたずねたところでは、すべては聖魔戦線の停戦締結から始まったらしい。
いきなり戦争が終わって、お役御免となり、ヒマになった連中が巷に溢れた。
かつては戦場で勇ましく武器を手に奮闘していたお父ちゃんも、家に帰ればただの置物。
はじめの数日こそは、お母ちゃんも労をねぎらい大切にしてくれていた。それこそ上げ膳据え膳にて。新婚の頃のようにかいがいしく世話を焼いてくれた。
が、十日も過ぎれば「いい加減にしろ! このごく潰し。いつまでも調子こいて、ゴロゴロしてんじゃないよ。掃除の邪魔だ。アンタ、そんなに暇ならダンジョンにでも行って稼いできな」となった。
どこのご家庭も似たり寄ったりにて、家に居場所のないお父ちゃんたちはゾロゾロとダンジョンへと向かうことに。
かくして大盛況となったらしい。おかげで長らく放置されてあった各地のダンジョンが見直され、開発ラッシュの真っ最中。魔族領全域にてダンジョンバブル到来。
前向きなんだか後ろ向きなんだか、よくわからない理由だ。
しかし、そのせいで自ら口を閉ざしていたダンジョンが、ふたたびその口を開いてしまったようだな。
ダンジョンはノットガルド八不思議の一つに数えられる存在にて、その正体は超巨大生物。
体内に招き入れた者らから、生命エネルギーやら魔力をかすめ取って生きている。そんなダンジョンにとって、大挙して押し寄せてくる来客はごちそう。
目の前にそんなものをぶら下げられて、これをガマンしろというのが酷というもの。
念のために、黄色いオッサンを埋めた地点も調べたかったのだが、それは叶わない。
なぜなら、わたしたちは一歩たりともダンジョン内に立ち入ることが許されなかったからだ。
いい加減、アレからずいぶんと時間も経っているし、イケるかと思ったのだが考えが甘かった。
正面入り口に立ったとたんに、バタンとダンジョンの入り口が閉じた。
明確なる拒絶の意志。
どうやらわたしに対する出禁は、まだ解除されていなかったらしい。
いきなりダンジョンの入り口が閉じちゃったものだから、周辺および内部に取り残された連中がパニック。
一時、現場が騒然となる。騒ぎを聞きつけてどんどんと集まって来るゴリゴリの魔族たち。
このままではマズいと判断し、わたしたちがその場を離れてしばらくすると、ダンジョンの口がふたたびゆっくりと開いたので、どうには騒動は自然に収まってくれた。
この一件にて内部調査は諦め、外部での聞き取り調査にシフト。
そしてここでも「黄色いオッサン」の目撃談らしき情報を得る。
あくまでまた聞きのまた聞きなので、正確なところではないが、周辺開拓初期の頃、夜中に「自由への飛翔! 臥薪嘗胆、復讐するは我にアリ!」と叫びながら、ダンジョンからものスゴイ勢いで飛び出してきた、黄色い裸族を見かけたとかなんとか。
って、もう確定だよね。これは……。
その後もリンネ組を動員してウワサや目撃情報を追う。
宇宙戦艦「たまさぶろう」の艦橋内にて地図を広げて、情報があったところにバツ印を入れていく。
するとそれは魔族領を飛び出し、あちこちを移動しながらも、ある方へとじょじょに向かっていることがわかった。
「これは……、まさかヤツはすでにリスターナに侵入しているのか!」
判明した事実にわたしは戦慄を禁じ得ない。
「いえ、リンネさま。あくまでウワサが先行しているようです。ですがこの分では時間の問題かと」
「ルーシー先輩、ヤツの目的はやはり生き埋めにした我々への復讐でしょうか?」
「目撃証言からはそう推察されますが。アレの言動はちんぷんかんぷんにて、まともに付き合うだけバカをみます。その辺のことはこの際、丸っとムシして、まずは身柄を抑えることに専念すべきでしょう」
ルーシーの提言を受けてわたしは「わかった。いそいで戻って、対策を練ろう」と言った。
だがしかし、そのときすでにリスターナでは……。
33
お気に入りに追加
1,011
あなたにおすすめの小説

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。
【完結】雨降らしは、腕の中。
N2O
BL
獣人の竜騎士 × 特殊な力を持つ青年
Special thanks
illustration by meadow(@into_ml79)
※素人作品、ご都合主義です。温かな目でご覧ください。
【完結】塩対応の同室騎士は言葉が足らない
ゆうきぼし/優輝星
BL
騎士団養成の寄宿学校に通うアルベルトは幼いころのトラウマで閉所恐怖症の発作を抱えていた。やっと広い二人部屋に移動になるが同室のサミュエルは塩対応だった。実はサミュエルは継承争いで義母から命を狙われていたのだ。サミュエルは無口で無表情だがアルベルトの優しさにふれ少しづつ二人に変化が訪れる。
元のあらすじは塩彼氏アンソロ(2022年8月)寄稿作品です。公開終了後、大幅改稿+書き下ろし。
無口俺様攻め×美形世話好き
*マークがついた回には性的描写が含まれます。表紙はpome村さま
他サイトも転載してます。
今世はメシウマ召喚獣
片里 狛
BL
オーバーワークが原因でうっかり命を落としたはずの最上春伊25歳。召喚獣として呼び出された世界で、娼館の料理人として働くことになって!?的なBL小説です。
最終的に溺愛系娼館主人様×全般的にふつーの日本人青年。
※女の子もゴリゴリ出てきます。
※設定ふんわりとしか考えてないので穴があってもスルーしてください。お約束等には疎いので優しい気持ちで読んでくださると幸い。
※誤字脱字の報告は不要です。いつか直したい。
※なるべくさくさく更新したい。
社畜だけど異世界では推し騎士の伴侶になってます⁈
めがねあざらし
BL
気がつくと、そこはゲーム『クレセント・ナイツ』の世界だった。
しかも俺は、推しキャラ・レイ=エヴァンスの“伴侶”になっていて……⁈
記憶喪失の俺に課されたのは、彼と共に“世界を救う鍵”として戦う使命。
しかし、レイとの誓いに隠された真実や、迫りくる敵の陰謀が俺たちを追い詰める――。
異世界で見つけた愛〜推し騎士との奇跡の絆!
推しとの距離が近すぎる、命懸けの異世界ラブファンタジー、ここに開幕!
魔性の男は純愛がしたい
ふじの
BL
子爵家の私生児であるマクシミリアンは、その美貌と言動から魔性の男と呼ばれていた。しかし本人自体は至って真面目なつもりであり、純愛主義の男である。そんなある日、第三王子殿下のアレクセイから突然呼び出され、とある令嬢からの執拗なアプローチを避けるため、自分と偽装の恋人になって欲しいと言われ─────。
アルファポリス先行公開(のちに改訂版をムーンライトノベルズにも掲載予定)
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。
愛しの妻は黒の魔王!?
ごいち
BL
「グレウスよ、我が弟を妻として娶るがいい」
――ある日、平民出身の近衛騎士グレウスは皇帝に呼び出されて、皇弟オルガを妻とするよう命じられる。
皇弟オルガはゾッとするような美貌の持ち主で、貴族の間では『黒の魔王』と怖れられている人物だ。
身分違いの政略結婚に絶望したグレウスだが、いざ結婚してみるとオルガは見事なデレ寄りのツンデレで、しかもその正体は…。
魔法の国アスファロスで、熊のようなマッチョ騎士とツンデレな『魔王』がイチャイチャしたり無双したりするお話です。
表紙は豚子さん(https://twitter.com/M_buibui)に描いていただきました。ありがとうございます!
11/28番外編2本と、終話『なべて世は事もなし』に挿絵をいただいております! ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる