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ドリアは外面が良い~迫りくるざまあの空気を本人は知らない~
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チーズ王国は山岳地帯にあり、酪農国だ。
豊富な水源にも恵まれ、マリーナ王国のエレナとレイ=シュドー夫婦の支援により、精密機械の一大産業が起きた。
マリーナ王国との共同出資で、チーズ王国で作られた機器が部品となり、精巧な時計やタイプライター、鉄でできた船や列車が次々と作られている。
列車が出来たことで、新鮮なミルクやチーズを隣国まで売ることができ、互いに良好な関係にあった。
マリーナ王国の王族とチーズ王国の王子の縁談は、そのためのものだったのである。
「陛下、妃殿下。お呼びでしょうか。」
恭しく礼をする第二王子。
ストロベリーブロンドの巻き毛に菫色の瞳をした華やかな容姿の第一王子・ドリアと比べ、茶色の髪に茶色の目のグラタンは地味である。
第一王子は、マリーナ王国との連携事業で様々な製品を提案し、学校の成績もよく、また社交でも人当たりがよくて国民にも人気があり、王太子の座はドリアでほぼ決まりかけていた。
だが…………。
「申し訳ない。今までのドリアの功績はグラタン、お前のものだと気づいた。一体いつからだ。いつから、あれの分の仕事をしていた?」
「やっと気づかれたのですか。私が幼い頃より何度と申し入れをしたことか。あれは猫かぶりもうまいですからね、仕方ないとあきらめていました。」
「………そんなに幼い頃からか。もしや、王子教育が始まったころから…。」
「はい。あれは努力が嫌いですからね。まともにすればそれなりにはできるでしょうけど。」
マリーナ王国に送った王家の影からの連絡で、ドリアが婚約者をないがしろにし、男爵令嬢と懇意になっていること。
あろうことか学校の課題は婚約者に丸投げし、テストは王族だから免除するよう圧力をかけ。挙句の果てに婚約者を男爵令嬢と自分を引き裂く悪役令息だと罵って学園内で婚約破棄を宣言し、男爵令嬢と一緒になって乱暴する。
信じられない情報が次々と報告されて、陛下は頭が痛くなった。
自分たちの前ではいい子だったのだ。
ものすごく。
「はぁ…。私もまだまだだな………。」
今回、いつもの影が渡航のタイミングで酷い腹痛になり、私の影を送ったのだが。それで発覚した。
今まで私に上がってこなかったのは、まさかとは思うがそうだろう。ドリアが抱き込んでいたのだ。
「よかったですね。王太子になる前に分かって。」
「グラタン…。」
ああ、お前がドリアの影に薬を盛ったのか。なるほど。グラタンこそ王に相応しい。
「兄は国内でも同じことをしていましたよ。幼少の時は家庭教師が見えない隙に私に課題を押し付けていましたし、学園ではとりまきに全部丸投げしていました。テストはすり替えてましたね。すり替えられた方がかわいそうなので、私から追試が受けられるよう手回ししていました。兄は前世の記憶がうんたらかんたら言って、発想はあるのですが、それを実現するためのプランが練れないのですよ。その発想も、そもそも公爵家も同じように既に考えてらっしゃるので、意味がないのですが。私はエレナ様やレイ様と打ち合わせをしながら、改良や開発を進めております。あれがいなくなったのに同じように公務や共同プロジェクトが進んでいるので、おかしいな?と思いましたでしょう?」
「グラタン。お前、どうしたい?」
「私はシュトローム様をお救いしたいです。」
「ああ。全くアレは…。シュトローム様の両親である公爵夫妻がいるからこそ、我が国とマリーナ王国との共同プロジェクトも上手くいっているというのに…。両国の絆を壊すような真似を…。」
「シュトローム様は可憐で、とても愛らしい方です。私があの方と結婚してはダメですか!何度か打ち合わせで向こうに行って、私はあの方に恋をしてしまいました…。」
「いいだろう。では算段をたてようか。」
「ありがとうございます。」
破滅フラグを立てたことを本人だけが知らない。
豊富な水源にも恵まれ、マリーナ王国のエレナとレイ=シュドー夫婦の支援により、精密機械の一大産業が起きた。
マリーナ王国との共同出資で、チーズ王国で作られた機器が部品となり、精巧な時計やタイプライター、鉄でできた船や列車が次々と作られている。
列車が出来たことで、新鮮なミルクやチーズを隣国まで売ることができ、互いに良好な関係にあった。
マリーナ王国の王族とチーズ王国の王子の縁談は、そのためのものだったのである。
「陛下、妃殿下。お呼びでしょうか。」
恭しく礼をする第二王子。
ストロベリーブロンドの巻き毛に菫色の瞳をした華やかな容姿の第一王子・ドリアと比べ、茶色の髪に茶色の目のグラタンは地味である。
第一王子は、マリーナ王国との連携事業で様々な製品を提案し、学校の成績もよく、また社交でも人当たりがよくて国民にも人気があり、王太子の座はドリアでほぼ決まりかけていた。
だが…………。
「申し訳ない。今までのドリアの功績はグラタン、お前のものだと気づいた。一体いつからだ。いつから、あれの分の仕事をしていた?」
「やっと気づかれたのですか。私が幼い頃より何度と申し入れをしたことか。あれは猫かぶりもうまいですからね、仕方ないとあきらめていました。」
「………そんなに幼い頃からか。もしや、王子教育が始まったころから…。」
「はい。あれは努力が嫌いですからね。まともにすればそれなりにはできるでしょうけど。」
マリーナ王国に送った王家の影からの連絡で、ドリアが婚約者をないがしろにし、男爵令嬢と懇意になっていること。
あろうことか学校の課題は婚約者に丸投げし、テストは王族だから免除するよう圧力をかけ。挙句の果てに婚約者を男爵令嬢と自分を引き裂く悪役令息だと罵って学園内で婚約破棄を宣言し、男爵令嬢と一緒になって乱暴する。
信じられない情報が次々と報告されて、陛下は頭が痛くなった。
自分たちの前ではいい子だったのだ。
ものすごく。
「はぁ…。私もまだまだだな………。」
今回、いつもの影が渡航のタイミングで酷い腹痛になり、私の影を送ったのだが。それで発覚した。
今まで私に上がってこなかったのは、まさかとは思うがそうだろう。ドリアが抱き込んでいたのだ。
「よかったですね。王太子になる前に分かって。」
「グラタン…。」
ああ、お前がドリアの影に薬を盛ったのか。なるほど。グラタンこそ王に相応しい。
「兄は国内でも同じことをしていましたよ。幼少の時は家庭教師が見えない隙に私に課題を押し付けていましたし、学園ではとりまきに全部丸投げしていました。テストはすり替えてましたね。すり替えられた方がかわいそうなので、私から追試が受けられるよう手回ししていました。兄は前世の記憶がうんたらかんたら言って、発想はあるのですが、それを実現するためのプランが練れないのですよ。その発想も、そもそも公爵家も同じように既に考えてらっしゃるので、意味がないのですが。私はエレナ様やレイ様と打ち合わせをしながら、改良や開発を進めております。あれがいなくなったのに同じように公務や共同プロジェクトが進んでいるので、おかしいな?と思いましたでしょう?」
「グラタン。お前、どうしたい?」
「私はシュトローム様をお救いしたいです。」
「ああ。全くアレは…。シュトローム様の両親である公爵夫妻がいるからこそ、我が国とマリーナ王国との共同プロジェクトも上手くいっているというのに…。両国の絆を壊すような真似を…。」
「シュトローム様は可憐で、とても愛らしい方です。私があの方と結婚してはダメですか!何度か打ち合わせで向こうに行って、私はあの方に恋をしてしまいました…。」
「いいだろう。では算段をたてようか。」
「ありがとうございます。」
破滅フラグを立てたことを本人だけが知らない。
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