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真夏の夜の夢

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「アヴァロンお兄様かっこいい!お兄様は凄い!」


アヴァロンお兄様は妖精の王様になれる特別な妖精。

僕たちは同じ神葉樹に生った珍しい双子の実から生まれた。

ペールグリーンの髪は艶やかで、水色の瞳は涼やか。小柄でとても可愛らしく、そして綺麗で。

桃色の髪とアメジストの瞳の僕とは何もかも違う。



そして、癒しや守りの力に特化した他の妖精と違って、いざとなれば外敵を排除するための力を持っていた。

いうなれば、大地や自然の怒りを体現した力を。


もちろん、普通の妖精のように癒しの魔法が使えないわけではないが、他と比べると能力は低かった。



妖精の国に紛れた巨大魔獣を風の刃で仕留めたお兄様は、僕に振り向く。

「凄いって言うけど、モルヒネの方が凄いと思うよ?僕以外の妖精たちは対象が目視できる範囲にいなくても回復させることができるし、転移魔法も使える。でも、モルヒネは本気を出せば世界中の人を癒せるんじゃない?」

「世界中の人をっていうけど、僕は大切な人だけ守れたらいいよ。人間には悪い人もいるっていうよ。森を荒らして、人間同士で醜い戦争なんかして。そういうのが嫌だから僕たちはこの森から出ないんじゃないか。」


「悪い人もいるけど、きっと素敵な人もいると思うけどなぁ。はは、だから私は変わっているのかな。さ、仕留めたこいつを収納してくれないか?命は無駄にできないからね。みんなでいただこう。」

お兄様に言われて、しぶしぶと獲物を厨房に転移させる。


たまにはお肉を食べないと、栄養バランスがとれないからちょうどいい。




「あ!」

お兄様がいきなり声を張るので、驚いて目を凝らした。

僕がそれを見つけるよりすぐ、お兄様はそれに駆け寄る。


汚い、血の塊。


それが、4つ。



「……………ぅ」


「モルヒネ、まだ息がある!回復を!」


「やだよ、それ人間だよ。それにただの傷じゃない。刀傷じゃないか。訳ありでしょ。早く森の外に追い出そうよ。迷い込んだんだろうけど、巻き込まれたくない。」

「…………いいよ、それなら。」


えっ。



攻撃に特化したお兄様が回復魔法、特に瀕死の重傷を治療しようと思ったら普通のやり方では治療できない。



「なんでなんでなんで…っ。お兄様がそこまでやること!」



お兄様の体が光り、その躰から何から抜けていく。

そして、その光が彼らへ。


「……………うぅ」


「よかった!気づきましたか!」


彼らはオオバコ王国に支配された亡国の生き残りの王子とその従者だった。


彼らを救うためにお兄様は妖精の永遠の寿命を失った。


憎い。


憎い。



銀髪に灰色の瞳の元王子の妻にお兄様はなった。

従者たちも元王子も妖精の世界に馴染んでいく。



お兄様は僕のものなのに。


憎しみで力が溢れ、僕は暴走した。


妖精たちは人間に彼らとの間に出来た子を託し、僕を止めようと抗って散った。

そして、お兄様まで僕を―――――――。


神葉樹に排除されるほど闇を深めた僕は、ついに悪魔と化した。




人間なんて滅んでしまえ。


お兄様に匹敵する力を手に入れた。
癒やしの力と引き換えにして。


悪魔の力が馴染んだオオバコ王国に巣食い、戦争を何世紀にもわたって誘導した。
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