26 / 42
攫われたシュナイダー
しおりを挟む
「みなさん!慌てずに…!脱出後は領民を守るのです!いざという時はクローバー王国へ避難を!受け入れの用意はできています!」
「騎士団よ、民を守らずとして騎士とは呼べぬ、民を守れずとして貴族や王族と呼べようや、アレは人間ではない、我が国に巣食っていた『悪魔』である!安全に誘導をするのだ!」
「ブレーキ、陛下、私は侍女と先にクローバー王国へ向かいます。民が向こうに行った際の炊き出しや住居の確保をしてまいりますわ。」
城の外では貴族たちの避難が進む。
ブレーキ王子と陛下は騎士団や近衛騎士団を動かし、混乱を未然に防ぐよう細心の注意を払った。
ライティア妃は自らの魔法でクローバー王国に仮設住宅を作り、炊き出しをすると息巻く。
徒労に終わるかもしれないが、相手が相手である。
準備をしておくに越したことはない。
(みなさん……。ハピネス様…。何事もなく、済みますように…。)
ブレーキは城にまだ残って黒い男と対峙しているアミュレットたちの無事を願いながら、自分のやるべきことを頑張るしかなかった。
目の前の男は、もう嬲っていたゴウマン侯爵やアクセルには目もくれず、会場にいた貴族も気にも留めず、粘着質な視線でアミュレット様だけを見つめている。
アクセルは床に這いつくばり、吊り下げられた檻の中でゴウマンは気を失っている。
シュッ。
その手が伸びるのを、私は見逃さなかった。
身を入れ、剣で男の腕を斬り落とし、アミュレットの周りに結界を重ねる。
「シュナイダー!」
「アミュレット様は下がってください…!」
「お前もだ、シュナイダー、みんなでこの場を離れるんだ!」
ミルクティー色の懐かしい。ルシェルお兄様。
「私はアシェル様の騎士。大切な方をお守りするのが私の…ッ!アミュレット様は渡さない!」
「意気やよし。だが、大局を見落とすな。」
ルシェルお兄様は私の隣でまた『銃』を撃って援護する。
ハピネス様は、結界の重ねがけを続けている、だが瞬時にそれは壊れていく。
背に隠したアミュレット様がどんな表情をしているか私には見えない。
だが、その表情を見ているモルヒネの顔は歪み、私を睨みつけた。
「また兄さんは人間を選ぶのか!ならば忌々しいこの男を始末してやる!」
斬り落とした腕の切断面から、腕が黒い霧を纏いながら再生する。
拘束するために伸びた蔦が、ぴちぴちと音を立ててちぎれ、圧によってその身から得体も知れぬ何かが吹き荒れる。
「う……!!!」
「ふはははははははははは!!!!!!!」
―ねえ、そんなにこの男が好き?じゃあ、僕がこの男になれば、愛してくれる?―
脳内に直接響くかのような、不思議な声色。
ぞわわと身の毛がよだつ。
「シュナイダー引いて!」
アミュレットの召喚した蔦が、10本を超え、緑色の龍を形作り、モルヒネの喉元を狙う。
「ふふふっ」
モルヒネの白目が黒くなり、目が赤くなる。
肌色から血の気は失せ、真っ黒な蝶の羽が背中から生え、その足元からアミュレットが召喚した蔦以上の物量の鋼の蔦が、アミュレットのそれに巻き付いて主導権を奪った。
そして――――――――
「……ッ!!!!」
アミュレットたちは押し負け、それぞればらばらに吹き飛ばされる。
「まだ目覚めたばかりだものね、僕だってアヴァロンお兄様の片割れ。『悪魔』に堕ちたと言っても、君たち程度が止められるとでも?」
カツカツ、と靴音が冷たく響く。
「さぁ、その身を僕に渡すんだ、人間なんて我慢ならないからね。僕が乗っ取った後で、至高の存在にしてあげる。君も少しばかりはお兄様の血を引いているようだし…。その遺伝子をメインに書き換えれば――――――
咄嗟に一番前に出てダメージを引き受けたシュナイダーは、頭から血を流し、気を失っている。
その体に再び、モルヒネの指が触れる。
「や………、やだぁああ!シュナイダー、おきて、おきてぇえええええ!!!」
ちりっ。
「………、なるほど。」
モルヒネは指を引くと、シュナイダーの体を肩に担いだ。
「この男はもらっていくよ。好みの男になって帰ってくるから、待っていてね、お兄様。」
「………や、」
バサバサと羽の音を立てて、モルヒネは消えた。
シュナイダーを攫って。
がれきになった城。
月明りだけが照らすそこで、愛しい彼がいなくなった。
「あぁああ、あぁああああああっ。シュナイダー!!!!」
ガラっとがれきを押しのけて、ハピネスお兄様が僕の肩を抱いた。
そして、僕の側に、足を引きずってルシェル殿下が。
「大丈夫。しばらくは、シュナイダーには手出しはできないはず。彼が好んでいた煙草の葉は、神葉樹の葉です。浄化や魔除けの力を持つ。(欲を発散するために)彼はヘビースモーカーでしたから、体内にかなり浸透しているでしょう。それが抜けるまでは、あいつは手出しできません。」
ルシェル殿下の足を回復しながら、お兄様が教えてくれたこと。
「大事な弟を絶対に無事な姿で取り戻す。僕も一緒に戦わせてくれ。」
「馬鹿。王太子の身で言うことではないでしょう。無責任ですよ。」
「もう、見ているだけは嫌なんだよ…。」
「俺、俺がっ。いえ、お兄様、殿下。助けてください。みんなでシュナイダーを、」
「もちろんです!」
まってて、シュナイダー。
必ず助けるから。
「騎士団よ、民を守らずとして騎士とは呼べぬ、民を守れずとして貴族や王族と呼べようや、アレは人間ではない、我が国に巣食っていた『悪魔』である!安全に誘導をするのだ!」
「ブレーキ、陛下、私は侍女と先にクローバー王国へ向かいます。民が向こうに行った際の炊き出しや住居の確保をしてまいりますわ。」
城の外では貴族たちの避難が進む。
ブレーキ王子と陛下は騎士団や近衛騎士団を動かし、混乱を未然に防ぐよう細心の注意を払った。
ライティア妃は自らの魔法でクローバー王国に仮設住宅を作り、炊き出しをすると息巻く。
徒労に終わるかもしれないが、相手が相手である。
準備をしておくに越したことはない。
(みなさん……。ハピネス様…。何事もなく、済みますように…。)
ブレーキは城にまだ残って黒い男と対峙しているアミュレットたちの無事を願いながら、自分のやるべきことを頑張るしかなかった。
目の前の男は、もう嬲っていたゴウマン侯爵やアクセルには目もくれず、会場にいた貴族も気にも留めず、粘着質な視線でアミュレット様だけを見つめている。
アクセルは床に這いつくばり、吊り下げられた檻の中でゴウマンは気を失っている。
シュッ。
その手が伸びるのを、私は見逃さなかった。
身を入れ、剣で男の腕を斬り落とし、アミュレットの周りに結界を重ねる。
「シュナイダー!」
「アミュレット様は下がってください…!」
「お前もだ、シュナイダー、みんなでこの場を離れるんだ!」
ミルクティー色の懐かしい。ルシェルお兄様。
「私はアシェル様の騎士。大切な方をお守りするのが私の…ッ!アミュレット様は渡さない!」
「意気やよし。だが、大局を見落とすな。」
ルシェルお兄様は私の隣でまた『銃』を撃って援護する。
ハピネス様は、結界の重ねがけを続けている、だが瞬時にそれは壊れていく。
背に隠したアミュレット様がどんな表情をしているか私には見えない。
だが、その表情を見ているモルヒネの顔は歪み、私を睨みつけた。
「また兄さんは人間を選ぶのか!ならば忌々しいこの男を始末してやる!」
斬り落とした腕の切断面から、腕が黒い霧を纏いながら再生する。
拘束するために伸びた蔦が、ぴちぴちと音を立ててちぎれ、圧によってその身から得体も知れぬ何かが吹き荒れる。
「う……!!!」
「ふはははははははははは!!!!!!!」
―ねえ、そんなにこの男が好き?じゃあ、僕がこの男になれば、愛してくれる?―
脳内に直接響くかのような、不思議な声色。
ぞわわと身の毛がよだつ。
「シュナイダー引いて!」
アミュレットの召喚した蔦が、10本を超え、緑色の龍を形作り、モルヒネの喉元を狙う。
「ふふふっ」
モルヒネの白目が黒くなり、目が赤くなる。
肌色から血の気は失せ、真っ黒な蝶の羽が背中から生え、その足元からアミュレットが召喚した蔦以上の物量の鋼の蔦が、アミュレットのそれに巻き付いて主導権を奪った。
そして――――――――
「……ッ!!!!」
アミュレットたちは押し負け、それぞればらばらに吹き飛ばされる。
「まだ目覚めたばかりだものね、僕だってアヴァロンお兄様の片割れ。『悪魔』に堕ちたと言っても、君たち程度が止められるとでも?」
カツカツ、と靴音が冷たく響く。
「さぁ、その身を僕に渡すんだ、人間なんて我慢ならないからね。僕が乗っ取った後で、至高の存在にしてあげる。君も少しばかりはお兄様の血を引いているようだし…。その遺伝子をメインに書き換えれば――――――
咄嗟に一番前に出てダメージを引き受けたシュナイダーは、頭から血を流し、気を失っている。
その体に再び、モルヒネの指が触れる。
「や………、やだぁああ!シュナイダー、おきて、おきてぇえええええ!!!」
ちりっ。
「………、なるほど。」
モルヒネは指を引くと、シュナイダーの体を肩に担いだ。
「この男はもらっていくよ。好みの男になって帰ってくるから、待っていてね、お兄様。」
「………や、」
バサバサと羽の音を立てて、モルヒネは消えた。
シュナイダーを攫って。
がれきになった城。
月明りだけが照らすそこで、愛しい彼がいなくなった。
「あぁああ、あぁああああああっ。シュナイダー!!!!」
ガラっとがれきを押しのけて、ハピネスお兄様が僕の肩を抱いた。
そして、僕の側に、足を引きずってルシェル殿下が。
「大丈夫。しばらくは、シュナイダーには手出しはできないはず。彼が好んでいた煙草の葉は、神葉樹の葉です。浄化や魔除けの力を持つ。(欲を発散するために)彼はヘビースモーカーでしたから、体内にかなり浸透しているでしょう。それが抜けるまでは、あいつは手出しできません。」
ルシェル殿下の足を回復しながら、お兄様が教えてくれたこと。
「大事な弟を絶対に無事な姿で取り戻す。僕も一緒に戦わせてくれ。」
「馬鹿。王太子の身で言うことではないでしょう。無責任ですよ。」
「もう、見ているだけは嫌なんだよ…。」
「俺、俺がっ。いえ、お兄様、殿下。助けてください。みんなでシュナイダーを、」
「もちろんです!」
まってて、シュナイダー。
必ず助けるから。
11
お気に入りに追加
672
あなたにおすすめの小説
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
稀代の悪女として処刑されたはずの私は、なぜか幼女になって公爵様に溺愛されています
水谷繭
ファンタジー
グレースは皆に悪女と罵られながら処刑された。しかし、確かに死んだはずが目を覚ますと森の中だった。その上、なぜか元の姿とは似ても似つかない幼女の姿になっている。
森を彷徨っていたグレースは、公爵様に見つかりお屋敷に引き取られることに。初めは戸惑っていたグレースだが、都合がいいので、かわい子ぶって公爵家の力を利用することに決める。
公爵様にシャーリーと名付けられ、溺愛されながら過ごすグレース。そんなある日、前世で自分を陥れたシスターと出くわす。公爵様に好意を持っているそのシスターは、シャーリーを世話するという口実で公爵に近づこうとする。シスターの目的を察したグレースは、彼女に復讐することを思いつき……。
◇画像はGirly Drop様からお借りしました
◆エール送ってくれた方ありがとうございます!
【完結】魔王様、溺愛しすぎです!
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
ファンタジー
「パパと結婚する!」
8万年近い長きにわたり、最強の名を冠する魔王。勇者を退け続ける彼の居城である『魔王城』の城門に、人族と思われる赤子が捨てられた。その子を拾った魔王は自ら育てると言い出し!? しかも溺愛しすぎて、周囲が大混乱!
拾われた子は幼女となり、やがて育て親を喜ばせる最強の一言を放った。魔王は素直にその言葉を受け止め、嫁にすると宣言する。
シリアスなようでコメディな軽いドタバタ喜劇(?)です。
【同時掲載】アルファポリス、カクヨム、エブリスタ、小説家になろう
【表紙イラスト】しょうが様(https://www.pixiv.net/users/291264)
挿絵★あり
【完結】2021/12/02
※2022/08/16 第3回HJ小説大賞前期「小説家になろう」部門 一次審査通過
※2021/12/16 第1回 一二三書房WEB小説大賞、一次審査通過
※2021/12/03 「小説家になろう」ハイファンタジー日間94位
※2021/08/16、「HJ小説大賞2021前期『小説家になろう』部門」一次選考通過作品
※2020年8月「エブリスタ」ファンタジーカテゴリー1位(8/20〜24)
※2019年11月「ツギクル」第4回ツギクル大賞、最終選考作品
※2019年10月「ノベルアップ+」第1回小説大賞、一次選考通過作品
※2019年9月「マグネット」ヤンデレ特集掲載作品

【完結】身代わり婚の果てに
325号室の住人
BL
☆全6話
完結しました
とあるノートの内容から、双子の妹と自分の死を回避するため奔走する俺は、最終的に双子の妹と入れ替って第2王子と婚姻したのだが……
名もなき花は愛されて
朝顔
BL
シリルは伯爵家の次男。
太陽みたいに眩しくて美しい姉を持ち、その影に隠れるようにひっそりと生きてきた。
姉は結婚相手として自分と同じく完璧な男、公爵のアイロスを選んだがあっさりとフラれてしまう。
火がついた姉はアイロスに近づいて女の好みや弱味を探るようにシリルに命令してきた。
断りきれずに引き受けることになり、シリルは公爵のお友達になるべく近づくのだが、バラのような美貌と棘を持つアイロスの魅力にいつしか捕らわれてしまう。
そして、アイロスにはどうやら想う人がいるらしく……
全三話完結済+番外編
18禁シーンは予告なしで入ります。
ムーンライトノベルズでも同時投稿
1/30 番外編追加

顔も知らない番のアルファよ、オメガの前に跪け!
小池 月
BL
男性オメガの「本田ルカ」は中学三年のときにアルファにうなじを噛まれた。性的暴行はされていなかったが、通り魔的犯行により知らない相手と番になってしまった。
それからルカは、孤独な発情期を耐えて過ごすことになる。
ルカは十九歳でオメガモデルにスカウトされる。順調にモデルとして活動する中、仕事で出会った俳優の男性アルファ「神宮寺蓮」がルカの番相手と判明する。
ルカは蓮が許せないがオメガの本能は蓮を欲する。そんな相反する思いに悩むルカ。そのルカの苦しみを理解してくれていた周囲の裏切りが発覚し、ルカは誰を信じていいのか混乱してーー。
★バース性に苦しみながら前を向くルカと、ルカに惹かれることで変わっていく蓮のオメガバースBL★
性描写のある話には※印をつけます。第12回BL大賞に参加作品です。読んでいただけたら嬉しいです。応援よろしくお願いします(^^♪
11月27日完結しました✨✨
ありがとうございました☆

【完結】最初で最後の恋をしましょう
関鷹親
BL
家族に搾取され続けたフェリチアーノはある日、搾取される事に疲れはて、ついに家族を捨てる決意をする。
そんな中訪れた夜会で、第四王子であるテオドールに出会い意気投合。
恋愛を知らない二人は、利害の一致から期間限定で恋人同士のふりをすることに。
交流をしていく中で、二人は本当の恋に落ちていく。
《ワンコ系王子×幸薄美人》

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる