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港町のスタンピード

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「たぁー!」

「ギャアア!!!」

銀色に光る刀身に身を裂かれ、蛸の姿に似た巨大な魔物が黒い血を吐いて倒される。

細身で軽く、切れ味の良いミスリル銀の片手剣は、アミュレット様に似合いだ。
海岸に住み着き、海の妖精や生き物たちにとっても迷惑な存在だった海の魔物を無事に仕留めることが出来た。

「素晴らしい!もう一人前の冒険者ですね。」

「えへへ…。」


照れた顔が可愛らしい。

室内にずっと閉じこもっていたから、病的だった肌の色は多少健康的な色になり、筋肉もついてますます美しさに磨きがかかった。

一人称を『俺』に変え、少し言葉遣いが悪くなったが、『冒険者』をする分には、そのほうが浮かずに済むし、『少年』らしい彼も愛らしくてたまらない。


ノンストレスの輝く笑顔。



やばい、やばいやばいキュン死する。
尊い。
アミュレット様が吐いた息は全部吸いたい。
アミュレット様に気持悪がられないように、顔には絶対出さない。




冒険者になって3日目。

ギルドの2階にある宿泊所に宿を借り、修行がてらミッションをこなしていく。

ペールグリーンの長い髪は襟足で一括りに結び、分厚い魔獣の革で出来た防具をつければ、立派な青年だ。


「最初はどうなることかって思ったけど、あっという間に一人前になったね。そろそろクエストのレベルを上げて―――と言いたいところだけど、たまには薬草採集も頼むよ。あんたたちが採ってくるのは質がいい。」

ギルドの受付をしている男が、魔物の核を確認しながら、報酬の準備をする。


「ははは。そう頻繁に採ったら生えなくなってしまいますからね。時間を空けましょう。」

「そうか、そんなものか。」

素材が入りやすいのはアミュレット様のお陰だ。
妖精の血が濃い彼のために、森の生き物たちは自ら素材を差し出してくる。




「たたたたった大変だぁ!!!」


ギルドに古参の中堅冒険者たちが駆け込んできた。

お腹がつきだし始めた中年のおっさん冒険者。



「ギル、どうしたってんだ。何があった。」


「マスター!たいへんだ、スタンピードだよぉ!俺たち、討伐失敗した。もうすぐ街まで下りてきちまう!」


なんだって!?



「アミィはここにいてください。」

「いやだ、俺も行く!」


意思を持った強い目。


本当に、強くなった。










「ヒヒヒっ。」

ゴウマン侯爵はほくそ笑む。


時は遡り、港町に続く街道付近の山道で、侯爵は隣国へ秘密裏に交易をしようとしていた商団を闇討ちしていた。

「……っ、あと…っ、少しだったのに…ッ」

3台の荷馬車は馬を斬られて横転し、護衛の冒険者は地面に倒れ、生き残った商人たちは馬車の下敷きになって身動きが取れない。


「この国は私のものだ…!私以外の交易ルートは開かせぬわ…!」

侯爵は胸元から瓶を取り出すと、中に入っている液体を荷馬車ごと彼らにふりかけた。


「ふひっ、これでモンスターがやってくる…!モンスターに食われて死ぬがいい…!」



「全くお前も悪いねぇ~!」


どこからともなく男が現れる。


ゴウマン侯爵の傍らに向かう黒髪黒目で黒装束の男。
蝙蝠のような羽をはためかせている。

「一国をとるのですからね。」

「さすが『悪魔』とご贔屓なだけある。だが、そろそろ行こうか。卵が孵る。」

男とともに侯爵は転移で消えた。


馬車の周囲には無数の卵。



悪魔と手を組み、商売敵や政敵を潰し、スタンピードの発生で騎士を疲弊させ、貴族も騎士も雁字搦めにした。

王族と言っても、権力があっても出来ることとできないことがある。

自分の支持を増やした。
証拠もなく、国王陛下は私を捕えて裁けない。

これであとは、娘があの馬鹿王子と結婚すれば…。

どんなに策を弄しても、王家の血筋がなければ王位はとれない。
クーデターに正当性があるような王家でもないからだ。
しかし、婚姻さえ結んでしまえばこちらのもの……。


今日の結末を屋敷で楽しみに待つとしよう。











海沿いから少し奥に入った森の方から、モンスターは溢れている。

「……くッ!なんでこんなにっ。」

冒険者仲間の舌打ちを聞きながら、シュナイダーは冷静に考えていた。


この国はおかしい。
私たちは王城にいたからよくわからなかったが、聞けば、スタンピードは毎月のように発生しているという。

そういえば、陛下らもみな毎日パタパタとされていた。
有事の対処でいっぱいいっぱいになり、厳しい冬の間の飢えを解消するための農作物の品種改良や様々な内向きの政策に手が回っていないようだったくらいには。

「騎士団へ要請は出した、みんな援軍が来るまで持ちこたえるんだ!」

―――――騎士団。

そうか、こうして疲弊させ、戦うのに必要なモノで縛り付けているのかもしれない。


騎士団に顔が割れると厄介だ。

だが、この戦場を捨てるわけにもいかない。

アミィ、アミュレット様にはフード付きのマントを着せ、顔を隠させた。

もちろん私も同じようにする。



「みんな、気をつけろ!」


キィィィィィィ!!!!


不気味な金切り声が森に響く。

ざわざわと木々が揺れ、獣の咆哮が響いてくる。

風にのった血なまぐさい匂い…。



森の奥から後から後から…。

押し寄せてくる不穏な気配。


冒険者たちは、は感じるものの、よくわからないようだ。

私にも多少なりクローバー王国の妖精王の血が流れている。
だからこそ感じるのだろう。


これは、騎士団を待てない。撤退も―――――


「シュナイツ!」

2人で決めた私の偽名をアミュレット様が叫ぶ。




「奥からワーウルフ、ワイバーン、トレントが来る…っ。でも、でも。あの奥に…………!!!」


人が、いる。




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