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ゴウマン包囲作戦の開始

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「王宮に忍び込んで、アミュレットを殺しなさい!殺せなくても二目とみられない顔にしてやって!」


趣味の悪い黄金の細工や絵画、壺が並ぶ部屋。

黙っていれば美しい顔を歪めて、醜い縦ロールの令嬢は残酷な命令をした。

武器商人でもあるゴウマン侯爵は娘を諫めるでもなく、男に指示をする。


「…………。」


「なあ、ユーフェ騎士団長殿?私が武器を売らねば騎士団はどうなるのかなぁ?この国への流通ルートも製造ルートもぜぇんぶワシが管理しておる。あの陛下ら腰抜けはわかっとらんのだ。国が安寧なのは騎士団がいてこそ。武力があってこそ、抑止力となるしモンスターも討伐できる。政略結婚などあてになるものか!」


男は騎士団長だった。

部下数名、呼び出されていいように使われる。
だが、物資がなければ戦えない。モンスター討伐も敵わない。それは事実。


大事な武器を人質に、のみたくない要望を飲ませられる。



「………あなたの奥様なかなかお綺麗ね?」

侯爵の隣に立つ令嬢によく似た美女がほほ笑む。

「今日お茶会をご一緒したのよぉ?ご懐妊ですって?おめでとうございます。」

その笑顔にひやりとする。


便?安く欲しいだけの武器を提供してあげたのに、今更私たちの言うことを聞けない、わけはないわよねぇ?」




…………ああ、もはや騎士団は腐敗している…。




どうしてこうなったのだろう。


武器だけではない。この国の経済は今やゴウマン侯爵が握っている。

ゴウマン侯爵に睨まれれば商売は成り立たず、囲い込まれた技術者も他では仕事ができない。



「アミュレット=バイス=クローバーは暴漢に襲われるの。妃になるのはミレルダ。この私。初めから私が妃になるはずだったの。返してもらうだけだわ。」


武器だけじゃない。
私たちの家族、恋人が人質。

近衛兵の巡回ルートや交代時間は頭に入っている。

交代要員の振りをして入れ替わり、アミュレット様の寝所へ侵入した。



すやすやと眠る姿は妖精のようで、美しい。



良心の呵責に苛まれながらもその刃を突きたてようとした時、音もなく反撃された。




暗闇に浮かぶ銀髪にブルーグレーの瞳。


闇になれた視界で間近に見れば、陛下の若い頃に似た貌。

いや、ちがう。先代陛下によく似ているのだ。


アミュレット様の輿入れについてきたという若い騎士がいると聞いてはいたが、これほどの手練れ。
しかも、どうみても彼はこの国の王族の血を引いている。
どういうことだ!?


「入りこむ前に排除してもよかったんだ。捕まえて黒幕を吐かせてやる!」

侵入までは『あえて』。

しかも、私以外は既に床を血濡れにして倒れている。


このままではまずい…!!


しかし、その一瞬。ほんの一瞬。彼の視線がよそにずれた。
アミュレット様の覚醒!


その隙に、私は窓から逃げた。











賊を逃がした。

だが、あの剣筋には覚えがある。

この男たちも見覚えがある。

証拠を残すため、咄嗟に魔力で逃げた男にマーキングをした。


その足で急ぎ陛下たちに連絡を取る。

「陛下、妃殿下、ブレーキ殿下。かくなる上はここにはいられません。奴らは騎士団を使っています。襲撃者はこの国の騎士団長とその部下。進んで従っているとは思いたくないですが、しばらく身を隠します。」

「騎士団長にはマーキングをしたのね。必要な時が来たら使わせていただくわ。手持ちのお金がこれしかないけれど、持って行ってちょうだい。」

「辻馬車が乗れる場所はここだ。市場行きの便がもうすぐ出る。荷物の準備は出来ているか?王家の裏口から行くといい。」


「ありがとうございます。」
妃殿下からはお金の入った革袋を、陛下にも便宜を図っていただいた。裏口の場所と進み方を教えてもらう。


「シュナイダー。僕も頑張ります。侯爵の力を削ぐために。」


ブレーキ殿下は頼もしい。



こうして、私がアミュレット様を連れて避難している間、ブレーキ殿下を中心としたゴウマン侯爵包囲網作戦が前進する。



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