何者かになりたかった、だが王子の嫁になりたかったわけじゃない。

初めまして

「うぅ、ん～～～っ！」


「ジェニー、しっかりしろ！今私が力を送ってやるからな！」

痛い痛い痛い！

だいたい男なのに、体の何処に子を育む場所が出来るっていうんだ！
入れる時だってギリギリだったのに、出す穴はどこだよお！

人間の頭なんか出てこないからあ！


「お腹破裂しそう！」

「王太子妃、気を確かに！同じことをかつてオリーブ妃も仰いましたが、今や３人産んで４人目です！大丈夫です！やり方があるのです！」
駆けつけた宮廷医の白髪のおじいさんが励ましてくれた。



息を吸って～～～吐いて～～～～！


「ジェニー、男の出産は父親も手伝うのだ。」

フォールの手のひらがお腹に触れる。

あたたかい…………。


「殿下、落ち着きました。今です！」

「来い、我が子よ。傷みは私に。」

痛くない…………。



お腹がまるで水のように波打ち、水面に浮上するように、赤ちゃんが外の世界に、産まれる。


水から掬うように。


フォールの腕の中に………。


「おぎゃああ、ああ、ああ！」


元気な産声だ。よかった。
猫の鳴き声に似ているって、本当なんだ。


「殿下、そのまま。今、処置をします。」

ぱちんと音がして、感覚がないまま、俺と子どもは２人になった。


「おめでとうございます。これで術式は終了します。王太子妃も殿下もよく頑張りましたね。」


「ああ、ありがとう。ありがとう。ジェニー。」

汗と涙と鼻水でイケメンが台無しのフォール。


その腕には、産湯を終えた赤ちゃん。



「男の子だよ。」


「フォールに似ている気がする………。」

「将来は君を取り合ってたいへんだ。」


蜂蜜色の髪の毛。

お目々もお父さん似かな？


「性格は俺じゃない方がいいなあ……。」
「私も大概だよ。」

初めまして、赤ちゃん。


すくすく健やかに育ってね。