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女の影

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もう俺は産み月だ。

十月十日というけど、妊娠期間は着床後四週間目を2カ月と数え、四週間毎に1ヶ月増えていくから、実際は8か月くらいで出産なのだ。


「ああ、早く会いたいな。男の子でも女の子でも、きっとジェニーに似た可愛い子だ。」

「そんなこと言わないで。フォールに似た赤ちゃんかも。」

きっとどんな子でも可愛い。


俺みたいに自分に自信が持てないような子ではなく、自分の力を過信して思い上がった子ではなく。

うまく子育てできたらいい。

でもきっと子育てに正解はなく、親の思い通りに子育てができるわけじゃない。


フォールと二人で親になっていきたい。




「陣痛が来たらすぐに対応できるよう、宮廷医が控えているよ。ジェニーは暫く仕事はダメ。だけど、頼りになるから仕事の相談はさせてくれ。」

そういってフォールは俺を抱きかかえる。
その後ろで、パワー=マックスが見守っているのだ。

ゆっくりとベッドに降ろされて、こめかみにキスを受け、仕事に向かうのを見送る。

本人も気付かない、ジャスミンの香りを残して。



コンコン。

しばらくして、部屋に入ってくる侍女は、恐らく誰の許可を得ていない。
よほどうまくやっているのか、どうやって目を盗んで王太子妃の部屋に来ているのか。

栗毛の侍女はいつもジャスミンの香りがする。


おそらくこう言いたいのだ。


『貴方の夫は私と浮気をしているのよ。』
『女の柔らかい体がやはりお好きなのよ。』


最近、彼女はイラついているのか焦っているのか、何か切羽詰まった様子が見える。

ロザリー=ルクス伯爵令嬢。

あまり性格が良いとは言えない令嬢で有名だった。
最近は、完ぺきな令嬢のように振る舞い、侍女の仕事もしっかりやってはいる。



「私、愛妾は嫌ですわ。王太子妃様からも提言してください。立場は弁えますわ。だからフォール殿下の側妃に…。王族の方は性欲が強いでしょう?ですから、殿下も我慢ができなかったと思うのです。これからも王太子妃様おひとりではお辛いでしょう?」

舞台裏では失礼な令嬢…。




「君はことさらにフォールと関係があったかのように言うけど、フォールが君を抱くわけがないでしょう。そんな世迷言はもう言わないことだ。側妃になりたいのかもしれないが、愛妾でも側妃でも、絶対にフォールは首を縦には振らないよ。俺が勧めたとしても絶対に振らない。俺も勧めないけどね。」

「ものすごい自信ですこと…。」


「あたりまえでしょう。フォールは俺しか見てないんだから。俺はフォールを信じてる。だからもうここを立ち去れ。処罰されたくなければな。」

物陰からサッとクランベルとルーチェが出てくる。


「全く信じられないな。こんな侍女が紛れているとは。」
緩くウェーブのかかったプラチナブロンドを首のところで一つに結んだ、華やかな容姿のクランベルと、サラサラ艶々の水色の前髪を軽くあげ、眼鏡をかけたルーチェ。

忌々しいというような表情で、ロザリーは部屋を出た。



「助かったよ。ありがとう。」

「いえ、あの侍女はクビにしましょう。早い方がいいですよ。不敬にもほどがあります。」

「うん、そうしようと思っているよ。」



あの子の中身は、シルキィ=アクオス。



――――――もう、分かっているんだ。
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