何者かになりたかった、だが王子の嫁になりたかったわけじゃない。

竜鳴躍

文字の大きさ
上 下
52 / 66

新しくお城に行儀見習いに来た侍女

しおりを挟む
ロザリー=ルクス伯爵令嬢。

王太子や王太子妃と同期にあたる伯爵令嬢。

実家は貧しくもなく、豊かというわけではない。

と、いっても、あくまでも貴族社会の中の評価で、平民と比べれば充分金持ちである。

学校の成績は上の下。
容貌は艶のある栗毛が巻かれ、瞳はパッチリしており、黙っていれば美少女の部類。

いきおくれの原因は、彼女の気の強さと暴言癖にあった。


「お父様、お母様。私は心を入れ替えます。自分を磨くためにお城に侍女として行儀見習いに行きたいのですが…。」


いよいよ、いや、ようやく分かってくれたのか。

両親は喜び、各所に頭を下げながら娘を城に送る。



面接官も彼女の人となりは調べていたが、生まれ変わったように大人しくなり、見違えるように品が良くなった彼女を採用することに決めた。


彼女は優秀だった。

そして、人当たりもよく、城に上がったばかりの令嬢にありがちな、爵位でもって対応を変えるようなこともない。



新しく行儀見習いのため侍女として働き始めた令嬢は、すっかり人気者になった。

かつての姿を知る者が見ると、同一人物であるとは誰も分からない。
そのくらい彼女は変貌していた。



先輩侍女が気を許した頃、彼女は柱の隙間から、仲良くよりそう陛下とオリーブ王妃に姿を見た。

「……どうしたの?ロザリー。」

「いえ、仲睦まじいな…と。」

「陛下とオリーブ様といい、王太子夫妻といい、仲が良いのはいいことだけれど、甘々すぎて目の毒よね。」


日の当たる中庭で、長女と次男に囲まれて、夫である陛下は妻であるオリーブを壊れもののように扱い、微笑を交わす。

大事そうにお腹を撫でて、幸せいっぱいな様子で。
手元にあるバスケットは編み物?

生まれてくる我が子のために新しくお包みでも作っているのだろうか。


「――――あんな顔、私にしてくれたことはなかったのに…。」


「え?ロザリー。何か言った?」

「いいえ、何も。」


陛下に近寄ろうにも、陛下にはなにか特別な力があるのか、ある一定距離まで近寄った瞬間、気配を察知され、拒絶される。

それは、『シルキィ』がまだカブキと結婚する前もそうだった。



どうしてそれほど王妃になりたいのか。

自分の血を王族に入れたいのか。

今となっては理由が分からない。

ライバル視していたヘリオス公爵家を出し抜きたかったのか。


たぶん違う。
しおりを挟む
感想 54

あなたにおすすめの小説

エルフの宰相は狼獣人の国王に求愛されて、気づけば子供ができていた

ミクリ21 (新)
BL
エルフ宰相が狼獣人国王に求愛されてデキちゃう話。

【完結】異世界召喚 (聖女)じゃない方でしたがなぜか溺愛されてます

七夜かなた
恋愛
仕事中に突然異世界に転移された、向先唯奈 29歳 どうやら聖女召喚に巻き込まれたらしい。 一緒に召喚されたのはお金持ち女子校の美少女、財前麗。当然誰もが彼女を聖女と認定する。 聖女じゃない方だと認定されたが、国として責任は取ると言われ、取り敢えず王族の家に居候して面倒見てもらうことになった。 居候先はアドルファス・レインズフォードの邸宅。 左顔面に大きな傷跡を持ち、片脚を少し引きずっている。 かつて優秀な騎士だった彼は魔獣討伐の折にその傷を負ったということだった。 今は現役を退き王立学園の教授を勤めているという。 彼の元で帰れる日が来ることを願い日々を過ごすことになった。 怪我のせいで今は女性から嫌厭されているが、元は女性との付き合いも派手な伊達男だったらしいアドルファスから恋人にならないかと迫られて ムーライトノベルでも先行掲載しています。 前半はあまりイチャイチャはありません。 イラストは青ちょびれさんに依頼しました 118話完結です。 ムーライトノベル、ベリーズカフェでも掲載しています。

転生したら魔王の息子だった。しかも出来損ないの方の…

月乃
BL
あぁ、やっとあの地獄から抜け出せた… 転生したと気づいてそう思った。 今世は周りの人も優しく友達もできた。 それもこれも弟があの日動いてくれたからだ。 前世と違ってとても優しく、俺のことを大切にしてくれる弟。 前世と違って…?いいや、前世はひとりぼっちだった。仲良くなれたと思ったらいつの間にかいなくなってしまった。俺に近づいたら消える、そんな噂がたって近づいてくる人は誰もいなかった。 しかも、両親は高校生の頃に亡くなっていた。 俺はこの幸せをなくならせたくない。 そう思っていた…

番だと言われて囲われました。

BL
戦時中のある日、特攻隊として選ばれた私は友人と別れて仲間と共に敵陣へ飛び込んだ。 死を覚悟したその時、光に包み込まれ機体ごと何かに引き寄せられて、異世界に。 そこは魔力持ちも世界であり、私を番いと呼ぶ物に囲われた。

稀代の英雄に求婚された少年が、嫌われたくなくて逃げ出すけどすぐ捕まる話

こぶじ
BL
聡明な魔女だった祖母を亡くした後も、孤独な少年ハバトはひとり森の中で慎ましく暮らしていた。ある日、魔女を探し訪ねてきた美貌の青年セブの治療を、祖母に代わってハバトが引き受ける。優しさにあふれたセブにハバトは次第に心惹かれていくが、ハバトは“自分が男”だということをいつまでもセブに言えないままでいた。このままでも、セブのそばにいられるならばそれでいいと思っていたからだ。しかし、功を立て英雄と呼ばれるようになったセブに求婚され、ハバトは喜びからついその求婚を受け入れてしまう。冷静になったハバトは絶望した。 “きっと、求婚した相手が醜い男だとわかれば、自分はセブに酷く嫌われてしまうだろう” そう考えた臆病で世間知らずなハバトは、愛おしくて堪らない英雄から逃げることを決めた。 【堅物な美貌の英雄セブ×不憫で世間知らずな少年ハバト】 ※セブは普段堅物で実直攻めですが、本質は執着ヤンデレ攻めです。 ※受け攻め共に、徹頭徹尾一途です。 ※主要人物が死ぬことはありませんが、流血表現があります。 ※本番行為までは至りませんが、受けがモブに襲われる表現があります。

平民男子と騎士団長の行く末

きわ
BL
 平民のエリオットは貴族で騎士団長でもあるジェラルドと体だけの関係を持っていた。  ある日ジェラルドの見合い話を聞き、彼のためにも離れたほうがいいと決意する。  好きだという気持ちを隠したまま。  過去の出来事から貴族などの権力者が実は嫌いなエリオットと、エリオットのことが好きすぎて表からでは分からないように手を回す隠れ執着ジェラルドのお話です。  第十一回BL大賞参加作品です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

処理中です...