何者かになりたかった、だが王子の嫁になりたかったわけじゃない。

竜鳴躍

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噂のアクオス公爵と暴力聖女

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今日は久しぶりにリリーと待ち合わせ。

ペアで軽く冒険者をするの。


「おまたせ~。」

「もうクエスト出てたよ。今日はちょっと難易度が高そうだから、まだ誰も手を付けてないんじゃないかしら。」


街角で待ち合わせて冒険者ギルドに向かう。

平民街だけど、素敵なドレスを作ってくれる新進気鋭のドレスショップの前に通りかかった時、嫌~な声が聞こえちゃった。



「いやあね、王太子に言い寄って相手にされなかった人がいるわよ。クスクスクス…。」
「隣にいるのは暴力オンナじゃない。男らしい女と女っぽい男でお似合いだこと。」


あー。聞こえてないと思ってるんだろうなあ。
残念、ボクらは耳がいいんだよなあ。

だって曲がりなりにもボク、公爵だからね?
いくら何でも爵位が上の人相手にこけ下ろす度胸は彼女たちにはないだろう。
もし、聞こえているつもりで言っているなら、さすがのボクも彼女たちの令嬢教育に頭を傾げちゃうよ。

確かにアクオス公爵家は悪名高いけどさ。

でも、リリーのことを悪く言うのは許せないな。

ボクのことは本当だけどさ。悪いこともしたし、悪い子だったから覚悟してるけど。



普段はこんなことしないんだけど。

ここにはトニー様もいないし、ケニー様と結婚するリリーはボクの義姉様になる人だからね。


ボクは彼女たちに目線を映して、紳士っぽい笑みを浮かべる。

彼女たちが頬を染めたような気はしたけど分からない。

紳士らしく手を出して、リリーをエスコートしてみる。


「リリー=ホワイト伯爵令嬢。私に貴方の時間をいただけますでしょうか?」

「ええ、もちろんですわ。アクオス公爵。」

「清く気高い貴方の聖なる魂に、私の心は洗い流されるようです。罪深い私の心を救ってくださった貴女を心より敬愛しております。」



距離が離れて、二人で笑う。

「見た!?見た??あの表情!」

「令嬢がぽかーんとはしたなく大口開けてたわね!通りすがりの令息たちも見てびっくりしてたわ!」

あれは婚期が遅れたわね!

「ミルキィも男なのね、ちょっとドキドキしちゃったわ。」

「義理のお姉さまとして敬愛しておりますぅ。ケニーお兄様の代わりに守らなくちゃね!」

「ありがと、ミルキィ。」

「じゃあ、クエスト終わったら二人でスイーツ食べに行こうよ!」

「さんせー!」

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