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始まりは成り行き

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小さい頃は、自分には何らかの才能があって。

いつかそれが覚醒して、一角の人になれるのだと思っていた。

英雄と呼ばれる騎士。

大魔法使い。

発明家。

何でも治せる治癒士。

解けない問題などない研究者。

皆が憧れるミュージカルスターや音楽家。



だけど、努力しても上には上がいて。

自分は一流にはなれない存在なのだと、その他大勢の人間なのだといつか気づく。


親や周りが可愛いカッコイイ、ともてはやした結果、とても恥ずかしいことに己惚れて。

俺、ちょっとイケてるんじゃない?
って鏡の中の自分に自己満足して、周りが自分に見とれてるなんて大いなるカン違いをし、スター気分でミュージカルスターがスカウトされたという街並みを歩いたとしても、スカウトなんてされない。

テストで毎回1位なんてとれない。

それが現実。




もうすぐ学園の卒業式を迎えるというのに、俺は自分の将来が見えない。
どちらつかずのまま、手当たり次第に受験したけど、騎士団からも魔法省からも王宮からも結果通知はまだ来ない。

貧乏伯爵家の三男坊、就職できなければその後の人生は厳しいものだ。


「まずいなあ………。」


とにかくやることはやって、後は天命を待つのみ。

焦りが止まらず、体を動かしたくなって、放課後に学園地下のトレーニングルームで汗を流した俺は、更衣室が併設されたシャワールームで汗を流す。


どうにもならないことだけど、こうしていると少しだけ気がまぎれたような気がする。



シャワールームの鏡に映るのは、とても中途半端な自分の姿だ。

陽の下で体を動かしたとしても、日焼けをしない。
貧弱なわけではないけれど、筋骨隆々でもない。
騎士を目指すには半端。

身長も人並みにしかないし、髪と睫毛と瞳の黒い色が白い肌と相まって、唇の赤が目立つ。


女みたいな自分の顔。

いや、どうせなら美女と見紛える程であればいいのに、女みたいだというだけで、自分はしっかり男の顔だ。

つまり、中途半端で気持ち悪い。


「はぁ………。」


まだ容姿が優れていればなあ。

女の子に人気がある容貌ならば、男児に恵まれなかったどこかの家のご令嬢の婿養子に行けたかもしれないのだが。

俺は女の子には全く人気がない。

どうにもならなければいっそ冒険者にでもなろうか。

うん、そうしよう。

あはは。




『ガチャッ。』



シャワーを閉じ、体を拭いていると、誰かが入って来た。

―――――――――誰だろう?




「ねぇ、フォール様ぁ。そんなにボクって魅力ないですかぁ?」

「……っ、やめたまえ!」

フォール?
この国、アルティメット王国の王太子殿下のフォール=ハスキー=アルティメット様?
俺と同じ3年の!?

それにこの甘ったるい声は、ミルキィ=アクオス公爵令息?


「ボクは公爵令息だしぃ、可愛いしぃ、婚約者候補筆頭なのにぃ!」

「くそっ、誰か…!」


これ、は殿下が襲われているのか?!
助けに行くべき?

だけど、今、すっぽんぽん!

俺、今、すっぽんぽん!!!!




「ふふふ、残念ですね~。殿下の護衛はみなさん、僕の手の者が抑えていますよぉ?いい加減諦めてくださいよぉ。みんながボクと殿下が結ばれることを望んでいるんですからぁ。」

「……っ、公爵にそう言われているのか!?やめなさい、こんなことは!」


「殿下のバカ!」

「ぐっ!」


俺が意を決して飛び出そうとした瞬間。

アクオス公爵令息は、何か液体の入ったらしき瓶を床にたたきつけ、外から鍵を掛けた。

あたりに何だか甘い匂いが充満する。


「ふふっ、媚薬ですよ!しっかり媚薬に酔った頃、開けてあげます!」

たたっと走り去る音がする。

ちょっと待て!?

媚薬!!!??





「殿下!?」


「は、はぁっ、き、君はっ。」

自分よりもがっしりした体。

甘い、蜂蜜のような色の金髪。ふわふわした前髪。
菫色の瞳が潤み、頬が赤く染まる。

発汗し、息苦しそうだ。

俺はタオルで口元を覆い、奥の方へ殿下を運んだ。


急いで窓を開ける。

少しはこれでマシなはず。



「発言する無礼をお許しください。何故こんなことに。」

偶々俺がいたけれど、人気のない更衣室にあんなやつに連れ込まれるなんて。
仮にも王太子殿下ともあろう人が。


「………欲しい。」



「え?」


質問に対する答えではない。

シャワールームの壁際、窓際に置かれたソファに座り込んだ殿下が、潤んだ瞳で俺を見上げる。

俺はというと、そのソファに片膝ついて窓を開けたところで。

服は着ていなくて。


殿下は媚薬に侵されていて?

ここには手っ取り早い相手など俺しかいなくて?

そして俺は、おれは……………




全裸ああああああアアアアアアアアア!!!!!!!!



「ふふっ、いいよね。あっ、あの馬鹿に盛られたしびれ薬の効果は解けたようだ。」

じりじりと殿下に詰め寄られる。

「あ、あの、俺は男で、ですよね。」

「関係ない。あいつだって男だろう。知っているよね?王族は男相手でも孕ませることができるって。君だって貴族なんだから。ねぇ、3年A組のジェニー=ビューテ伯爵令息。」

「なっ、なんで俺の名前」

「ずっと同じクラスじゃないか。君は成績優秀でずっと私と同じA組だったでしょうに。」

ああああ、吐息が熱い。かかる、顔にかかる。やぁああ、恥ずかしい、恥ずかしい、イケメンがっ。


「お、俺はしがない伯爵家ですし。」

「伯爵位があれば十分。」

「貧乏だし…!!」


「悪事に手を染めたり領民の利益を吸い取っていないからだろう。貧乏でも借金はないよね?そういうのは貧乏って言わないの。清貧っていうの。」

「後ろ盾にはなれませんし……っ。」


「大丈夫、そのうちガラっと勢力図変わるから。私もいい加減怒ってるからね。」


「………こっ、こういう経験なくてっ。」

ああ、もう泣きそう。



「ああ、なんておいしそうなんだろう、いいだろう、もう辛いんだ。」


ああっ。











「何これぇ!!!!!」

頃合いだろう、と更衣室の扉を開けたミルキィ=アクオスはその状況に怒りと戸惑いの混じった悲鳴をあげた。



「ああ、あん!あんっ!もう、もうっ、許してぇ!!」

「ああ、可愛い、なんて可愛いんだ!ジェニー、君は私のものだ!もう離さないよ!」

淡泊でそっけなかった殿下が膝の上に黒髪の全裸の男を乗せて、がつんがつんと突き上げている。

情事の匂いが漂い、男の乳首は真っ赤に腫れ、やや膨らんだ下腹には、淫紋が浮かぶ。



「ああぁあ、アクオス公爵令息っ!やっと見つけた!!殿下はどこにっ!」

「殿下ぁ………!!?」


駆けつけた殿下の側近たちも、その景色に啞然とする。



「淫紋…………。王族の御手付きの証…。子を孕み、出産するまで消えない。婚姻の印。」

ぐしぐし泣きながら抱かれている彼が悪いとは思わない。

むしろこの状況は、彼は巻き込まれたのだ。



「本当だったらボクがこうなるはずだったのにぃい!!!!」

アクオス公爵令息はハンカチを噛み締めた。








ふえぇ。

ジェニー=ビューテ。ビューテ伯爵家三男。

成り行きで王太子妃に就職しちゃいました。

いぇーい(やけくそ)。










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