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今頃お義母さまとお義姉様は夜会かしら
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私のことなど、どうでもいいかのように。
誰も屋根裏部屋の私のことは気にかけない。
「今日も寒い……。日中は暖かくてもこの国は風が強いから寒いわ。」
屋根裏の窓は壊れていて、隙間風が入りこむ。
服を何重にも着込み、シーツを肩から羽織って、ランプの灯りで書類を確認し、処理をしていく。
今日は義母たちが夜会でいないから、使用人たちは全員自由に過ごして休んでいる。
うちの使用人たちは、父が生きていた頃にいた人たちは全員いない。
優秀な方たちだったから、紹介状を持ってよいところで働いているはずだけど、寂しい。
義母たちは領地経営を知らない。
父の右腕をしていた方も解雇してしまった。
だから私は、こっそりとこの家の家計を守っている。
みんなの生活が守られるなら、それでいいと、自分は思う。
王太子のアンドレ様のお母様はローズガーデン帝国のお姫様で、国の中で権力が強い。
冬は雪深いこの国では、花々が咲き乱れ、一年を通して温暖で豊かなローズガーデンは、大事な取引先。
だから、あの方は王太子なのだ。
本当は、あの方は王太子の器ではない。
婚約者だったとき、仕事を押し付けられていたから分かる。
それにあの方は、自分の権力をちらつかせて、学園でも気に入った女性やオメガの人たちを食い物にしていた。
私はけして体を許さなかったし、あの方から女性たちを逃がしたことも何回かある。
あの方はそれが気に入らなかったのでしょう。
だから私から義姉にあの方は婚約者を変えた。
それが、私の今の状況の原因の一つでもあることは、分かっている。
でも、あの方と結ばれるくらいなら、今の方がずっといい。後悔はしていない。
たとえ、それで貴族社会に『出来損ないの令嬢』とレッテルを貼られ、こうして屋根裏部屋に軟禁されることになったとしても。
「今頃、皆さまご挨拶も終わって、ダンスが始まる頃かしら。」
「君も行こう、一緒に。」
突然、背後から声が聞こえて、私は思わずペンを落とした。
その聞き覚えのある凛とした声は、スカイ王子のもの。
耳が聞こえにくい私は、後ろに来るまで全然気づかなかった。
「どう、して…。」
「こんなに冷えて。痩せてしまって…。ごめん、気づけなくて。ごめん、助けに来なくて。僕のお嫁さんになってほしいんだ。ずっと前から、オリーブ嬢のことが好きだった…!」
階下にはスカイ殿下直属の部下の騎士たち。
使用人は、無言だ。
本当にいいの?
私でいいの?
私、赤と青が分からないの。
私、耳がよく聞こえないの。
見えないわけじゃない、聞こえないわけじゃないから、誰も分かってくれないけど、私はそうなの。
こんなふうな私が王子様のお嫁さんでいいの?
魔法使いに見つけられたシンデレラのように、私はスカイ王子とともに行く。
誰も屋根裏部屋の私のことは気にかけない。
「今日も寒い……。日中は暖かくてもこの国は風が強いから寒いわ。」
屋根裏の窓は壊れていて、隙間風が入りこむ。
服を何重にも着込み、シーツを肩から羽織って、ランプの灯りで書類を確認し、処理をしていく。
今日は義母たちが夜会でいないから、使用人たちは全員自由に過ごして休んでいる。
うちの使用人たちは、父が生きていた頃にいた人たちは全員いない。
優秀な方たちだったから、紹介状を持ってよいところで働いているはずだけど、寂しい。
義母たちは領地経営を知らない。
父の右腕をしていた方も解雇してしまった。
だから私は、こっそりとこの家の家計を守っている。
みんなの生活が守られるなら、それでいいと、自分は思う。
王太子のアンドレ様のお母様はローズガーデン帝国のお姫様で、国の中で権力が強い。
冬は雪深いこの国では、花々が咲き乱れ、一年を通して温暖で豊かなローズガーデンは、大事な取引先。
だから、あの方は王太子なのだ。
本当は、あの方は王太子の器ではない。
婚約者だったとき、仕事を押し付けられていたから分かる。
それにあの方は、自分の権力をちらつかせて、学園でも気に入った女性やオメガの人たちを食い物にしていた。
私はけして体を許さなかったし、あの方から女性たちを逃がしたことも何回かある。
あの方はそれが気に入らなかったのでしょう。
だから私から義姉にあの方は婚約者を変えた。
それが、私の今の状況の原因の一つでもあることは、分かっている。
でも、あの方と結ばれるくらいなら、今の方がずっといい。後悔はしていない。
たとえ、それで貴族社会に『出来損ないの令嬢』とレッテルを貼られ、こうして屋根裏部屋に軟禁されることになったとしても。
「今頃、皆さまご挨拶も終わって、ダンスが始まる頃かしら。」
「君も行こう、一緒に。」
突然、背後から声が聞こえて、私は思わずペンを落とした。
その聞き覚えのある凛とした声は、スカイ王子のもの。
耳が聞こえにくい私は、後ろに来るまで全然気づかなかった。
「どう、して…。」
「こんなに冷えて。痩せてしまって…。ごめん、気づけなくて。ごめん、助けに来なくて。僕のお嫁さんになってほしいんだ。ずっと前から、オリーブ嬢のことが好きだった…!」
階下にはスカイ殿下直属の部下の騎士たち。
使用人は、無言だ。
本当にいいの?
私でいいの?
私、赤と青が分からないの。
私、耳がよく聞こえないの。
見えないわけじゃない、聞こえないわけじゃないから、誰も分かってくれないけど、私はそうなの。
こんなふうな私が王子様のお嫁さんでいいの?
魔法使いに見つけられたシンデレラのように、私はスカイ王子とともに行く。
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